法人電気料金の見直しの提言 | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

法人電気料金の見直しの提言

法人電気料金の見直しの提言です。

元大蔵官僚の野口悠紀雄さんの提言です。



緊急提言3:
法人電気料金の見直しで、電力需要の抑制と平準化を
【第4回】 2011年3月26日 野口悠紀雄 [早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授]ダイヤモンドオンライン


 電力需要の抑制のためには、家庭を対象とするだけでは十分でない。全体の需要の中で家庭は3分の1ほどの比重しか占めていないので、法人の需要抑制が重要な課題だ。

 今年夏の電力不足は不可避であり、計画停電方式で対処しようとすれば、さまざまな不都合や混乱が生じる。医療機関の問題はすでに述べたが、工場でも1日のある時間帯が停電になると、効率が著しく落ちる。しかも、再立ち上げ時に電力消費が多くなるので、全体として節電にならない可能性もある。したがって、計画停電方式以外の方法を見出すことは、喫緊の課題である。

 そこで、今回は法人需要の問題について考えることとする。

 以下の議論には若干テクニカルな内容も含まれているが、要点はつぎの2つだ。

(1)計画停電方式でなく、価格で需要をコントロールする方が望ましい。ピーク時対応は家庭の場合より効果的にできる。

(2)経団連が言うように上限を決める方式では、守られない可能性もある。違約金のシステムを活用すれば、上限を強制することができる。

 なお、法人需要にどの程度の削減を求めるかは、今後の供給能力の回復を見つつ、家計用需要との適切なバランスを考慮して決定すべきだ。それに応じて、料金体系の具体的な形を定めるべきである。

法人の電気料金体系
 法人の場合、需要家の事業の性質などに応じて、さまざまな料金メニューがある(東京電力の場合の詳細は、「高圧・特別高圧の電気料金メニュー」を参照)。

 ここでは、工場などを対象とした高圧電力(契約電力500kW以上)の場合を取り上げよう。その計算式は、つぎのようになっている(注1)(注2)。

①料金=基本料金+電力量料金
②基本料金=料金単価×契約電力
③電力量料金=「夏季」または「その他季」の料金単価×使用電力量


家庭の場合と同じ発想に従うとすれば、基本料金の「料金単価」を、契約電力に関して累進制とし、契約電力の引き下げを狙うことになる。後に述べるように、家庭の場合よりもきめ細かい調整が可能だ。

 どの程度の引き上げが必要かは、電力需要の価格弾性値(料金を1%引き上げた場合に需要が何%変化するかを示す数値)を参照して決める必要がある。弾性値についてはいくつかの実証分析があるので、それを参照する必要がある。この問題については、後の回で議論することとしたい。

(注1)実際の計算式はもう少し複雑だ。まず、基本料金では、「力率」による調整が行なわれる。力率とは、電圧と電流の位相差をθとするときのcosθだ。電圧と電流の単純な積(「皮相電力」)に対する消費電力の割合が「力率」だ。工場などでは、コンデンサなどを用いて力率を改善することができる。電力量料金では「燃料費調整額」が加わる。また、全体の料金に対して「太陽光発電促進付加金」が加わる。ここでは、簡単化のため、これらを省略してある。

(注2)「契約電力」とは、当月を含む過去1年間の各月の最大需要電力のうちで最も大きい値。「最大需要電力」とは、使用した電力を30分毎に計量し、そのうち月間で最も大きい値。詳細は、http://www.tepco.co.jp/e-rates/corporate/data/decision/index-j.htmlを参照。

ピーク時の基本料金を高くして契約電力の引き下げを促す

 現在季節別の料金差があるのは「電力量料金」だが、「基本料金」についても、季節差を設けることが考えられる。具体的には、基本料金の計算式における「料金単価」を、7、8月には高くする。また、季節による契約電力の変更を認めることにする。さらに、電力量料金における「料金単価」の夏季料金を、現在より高くすることも考えられる。これによって、電力需要が集中する7、8月だけ契約電力の引き下げを狙うことができる。

 工場側では、7、8月期は操業度を落とすか、あるいは夜間操業にシフトするなどの対応がなされるだろう。商業施設などの業務用利用も同じようにすれば、夏の期間は休業にしたり営業時間を短縮したりする等の対応もなされるだろう


 なお、民主党の岡田克也幹事長は、3月20日、「計画停電は悪影響が大きいので、これに代えて価格制限を行うべきだ」との考えを示した。そして、「ピーク時の抑制が必要なのだから、ピーク時の使用料を2倍に上げるなどの価格政策も考えるべきではないか」とした。考え方としては、ここに述べているものと同じだ。

違約金を引き上げて強制力を強める

 家庭では、契約電力を超えたとたんにブレイカーが落ちてしまう。しかし、工場などでは、電気が切断されてしまうと、さまざまな不都合が発生する。そこで、法人契約の場合は、契約電力を超える超過電力に対して違約金を支払う仕組みになっている。具体的には、つぎのとおりだ。

①基本料金=1kWh(1650円)×契約電力(kW)(注3)
②契約電力を超過した場合は、違約金として1650円×超過分電力(kW)×1.5
③超過電力発生後の基本料金は、超過時の最大電力(デマンド電力)を基準として、電力会社と需要家(契約者)との話し合いにより決定する。

 つまり、「超過電力分については5割増しとし、かつ基本料金も高くする」ということだ。現実には、違約金の仕組みが重要なようだ。経団連の提案は、「事業所別に電力使用量の上限を定める」というものだが、その実行を担保する措置が取られないと、上限が守られないおそれがある

 電気主任技術者のNMさんから、これをつぎのように改定するのがよいとの提案をいただいた(上の違約金の仕組みも、NMさんのご教示による)。

①基本料金を1700円に引き上げる(注4)。
②契約電力を超過した場合の違約金を1700円×超過分電力(kW)×5.0とする。
③超過電力発生後の基本料金は、超過時の最大電力(デマンド電力)で決定し、電力会社と需要家(契約者)との話し合いは行なわない。

 つまり、「超過電力分については5倍の料金とする」ということだ

 このように、契約電力を超過したときのペナルティが高くなることから、超過分電力が発生しないような努力が行なわれるだろう。

 NMさんによれば、③の「話し合いを行なわない」というのが重要だとのことである。これまでは、「話し合いで解決」という規定があるため、本来支払うべき金額を支払わない事業所がかなり多いそうである。

(注3)1650円は消費税抜きの金額。
(注4)500kW未満の小口な高圧電力需要家は、中小企業保護の観点から、①の基本料金1700円に引き上げのみに留める。


「割り当て」か「料金引き上げ」か

 家庭用電力の場合もそうであるが、料金引き上げには抵抗が強い。「この非常時に」とか「事故を起こした東電の収入が増えるのは許せない」等のご意見があった。

 しかし、供給能力が低下した以上、電力使用コストは何らかの形で上昇せざるをえないのである。

 問題はそれを、①「計画停電または上限設定」という「割り当て方式」で行なうか、それとも、②明示的な料金体系見直しで行なうか、という選択である。

 割り当て方式は、経済活動の効率性を著しく落とす。混乱が起きるだけではない。生産性の高い用途も一律に削減されてしまうから、無駄が生じるのだ。供給に余裕がない非常時だからこそ、利用の効率化を図る必要があるのだ。

いまの時期には、1日を通じた節電の効果は大きい

 前回、ピーク以外の時間帯で節電しても、効果は薄いと述べた。これは、「節電が無意味」と言っているのではない。レベルを落とせば、ピーク時も落ちるから、ピーク時の需要抑制に貢献する。

 それに、前回述べたように、東電が公表した時間別使用量を見ると、いまの季節では時間帯ごとの変化はそれほど大きくない。だから、ピークが激しいときに比べて、全体の節電を行なうことの意味は高いとも言える。

 これも、データが公表されたために分かることだ。節電のために、もっとさまざまなデータを公表していただきたい。

 なお、「1A契約ではテレビも見られない」と前回書いたが、1Aでも可能とのご指摘が読者の岡島純さんからあった。

 太陽光発電の利用や、電気自動車の利用についても提案があった。これらについても、後の回で検討することにしたい。