中川―与謝野論争:問題個所のロジックをおさらいしましょう  | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

中川―与謝野論争:問題個所のロジックをおさらいしましょう 

秘書です。
まもなく、動画で重要個所の問答をアップしますが、その前に問題個所のロジックのおさらいです。



(1)デフレ脱却についての海江田大臣・与謝野大臣の閣内不一致

海江田経済産業大臣(前経済財政政策担当大臣)と与謝野大臣のデフレ脱却についての考え方が明らかになりました。

○平成二三年一月二十四日の与謝野大臣の「経済演説」
「平成二十三年度中に消費者物価上昇率をプラスにし、その後、速やかに安定的な物価上昇を実現し、デフレを終結させることを目指します。」

→上記の与謝野経済演説は、下記の海江田大臣の説明で解釈してはいけない、つまり、デフレ脱却についての閣内不一致があるようです。

○平成二二年十一月九日の衆議院予算委員会における海江田答弁
○海江田国務大臣 石井委員にお答えをいたします。
 私どもは、石井委員もパネルに掲示をいただきましたけれども、新成長戦略で、二〇一一年度中には消費者物価上昇率をプラスにすることと、そしてその後ろに一段ございまして、速やかに安定的な物価上昇を実現し、デフレを終結させることを目指す、こういうふうにしてございます。お尋ねの、デフレの脱却がいつなのかということが明示していないじゃないかということでございますが、これにつきましては、「デフレ脱却の定義と判断について」ということで、平成十八年の三月十五日、参議院の予算委員会の理事会に私どもからその定義を出してございます。その定義は、デフレ脱却とは、物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に陥る見込みがないことという条件がございます。
 一番難しいのは、再びそうした状況に陥る見込みがないことということをある程度やはりデータで実証しなければいけませんわけでございますから、そのためには少し時間がかかるということでございます。 ただ、いずれにしましても、私どもは、まず平成二十二年度中に物価を一%からの上昇にして、そしてそれを持続的に引き続き、そしてデフレ脱却という宣言を出したいというふうに思っております。 それから、もう一つの物価目標でございますが、これは成長戦略の中に書いてございますが、二〇二〇年度までの平均で見た経済の姿として、名目が三%、実質二%でございますが、それに対応します物価につきましては、GDPのデフレーターで表示をしてございますが、一%程度の姿で安定的な上昇を目指すということにしてございます
○海江田国務大臣 先ほどもお答えをいたしましたけれども、二〇一一年度中に物価をプラスにするわけです。それから、先ほど定義をお話ししました。あの定義をお聞きいただければわかると思いますが、それが一年以上続けば、これはもう当然のことながらデフレ脱却でございますから、その点を踏まえて発言をするならば、二〇一二年度中にということだろうと思います。

→ところが、菅政権の来年度のGDPデフレーターは-0.5。では、それで二〇一二年度中にデフレ脱却ができますか?

(2)物価の安定的上=「ゼロないしプラス」?

与謝野大臣は、物価上昇率の「ゼロないいしプラス」をもって物価の安定と考えているようです。

事実上の「物価上昇率0%ターゲット」ですね。

デフレ脱却ではなく「デフレ終結」といっていることがミソですね。「デフレ終結」は物価上昇率ゼロ・プラスでやるのかもしれません。

なお、脱デフレの物価指数に企業物価なども例示しましたが、原油価格の上昇で企業物価が上昇しても「物価が上昇」といいかねませんね。


(3)「量的緩和をいじることも実は経済に全く影響ないといっていいほど影響ない」

○中央銀行がバランスシートを拡大した諸外国と日本は違う

○モノづくりの能力やサービスの能力などの実力が低下したから

○だから欧米で成功した金融政策は日本でできない

→欧米でやっている政策を日本でやらない理由は、日本異質論、日本の産業実力低下論ですね。

日本の量的緩和が効かない本当の理由は何か。量が少なすぎることです。欧米と同じ規模でやって効かないというならいいでしょう。でも、やることをやらないで、効かないとはどういうことか。

ところが与謝野大臣は、日本の産業界の能力が低いから、欧米のような量的緩和政策をとれないのだと。

しかし、どんなに競争力があっても、中央銀行のベースマネーの供給力の差で、実力以上の円高になってしまえば、努力が報われない状況がくる。1ドル=110円から1ドル=80円にして、疲弊しているのは企業が悪いからだ、いつまで産業界のみなさん、製造業の皆さんはこんぜRな論理を認めるのですか?こんなことをやっていたら、力尽きる。努力が報われないと絶望的になる。日本人の価値観が変わる。そして本当に能力が落ちる。「纏足経済」の呪縛をのがれないと、本当に大変なことになる。


→産業界を低能といって何を守っているのか?日銀です。日銀は万能ではない、と。スウェーデンやアメリカや英国はデフレにならないのか?中央銀行ががんばったから。なぜ、日銀はがんばらないのか。日本の産業界の能力が低いから。

→よく、先輩世代のみなさんは日本は捨てたもんじゃない、自虐的になるな、という人がいます。でも、菅政権の中枢の人が、欧米で当たり前の金融政策ができないほど、日本の産業は劣化して能力が低下していると自虐的認識をもて日銀の守護神となっています。産業界のみなさんは、この侮辱的なセリフを甘受されるのでしょうか?


○日本は成熟、低成長国であり、成長期待がない

→成熟国家とはなにか?日本の一人当たりGDPは世界で20位前後であり、もはやキャッチアップを目指すべき段階でしょう。いったいいつの話をしているのか?それとも本当に「衰老」すべきと思っているのか。

→名目4%成長、物価上昇率2%という世界の先進国の標準の姿すら、日本はめざせないという。

→菅政権は名目3%成長、物価上昇率1%といっている。そして世界の脱デフレの常識的なライン(=物価下落の陥らないためののりしろ部分をふくめた物価の安定)は2%だ。なぜ4%がだめなのか。

→それは増税幅が減ってしまうからでしょう。増税幅をふやし、日銀を免罪するために、日本の産業界は実力が低いといっている。
 


○日銀は万能ではない

→全ての改革はデフレ下では失敗する。

→日銀は万能ではないが、物価の安定については対応が可能なはず。

→上げ潮派は、物価の安定(2%)を要求しているのであってハイパーインフレを要求しているわけではない。与謝野大臣は物価上昇率2%を明確に否定。

→日銀の物価の安定責任と政府の規制改革を軸にした成長戦略(潜在成長率をあげるための)、中長期の社会保障改革、中長期の財政再建をセットにすればいい。

→日銀は万能ではない。しかし、賢くない中央銀行がいる国では国民生活の向上を目指す改革は何も進みません。


(4)経済同友会の税制改革案批判

消費税率17%の経済同友会案批判の理由を確認。その理由は、政治的にこなせるか、政治的に消化できるか、ということ。

つまり税制改革は、政治家(+官僚)しか議論できないということですね。

そもそも、そうした中途半端なのはだめで、本当に社会保障の安心ができるかどうかで決めてほしいと
いうのが政権交代の意味でしょう。政治的にこなせないなら解散総選挙で国民にうったえればいい。


与謝野大臣の腹案に近い提案しか受け入れない、それは国民生活に必要かどうかよりも、政治的にこなせるかどうか、という判断基準だ、そういうことですね。

(5)麻生政権の税制改革の原則は今も有効

デフレ下でも増税できるように着々と準備?

(6)日本は量的緩和が効かない?

下記の岩田喜久男先生のインタビューをご参考に。

■4%のインフレ目標でデフレ脱却の姿勢示せ――岩田規久男・学習院大学経済学部教授《デフレ完全解明・インタビュー》
2011/02/10 | 12:13 東洋経済オンライン
http://www.toyokeizai.net/business/interview/detail/AC/396d5a486965f76dffd92e2c8e5208ec/page/1/

■要点
・日銀がデフレを容認しているからデフレが定着している
・マネタリーベースを増やせば、予想インフレ率は上昇する
・4%のインフレ目標の導入でまず、デフレ脱却を急げ


――デフレ脱却のための積極的な金融政策を主張なさっています。
 
 まず、なぜ、デフレが長期化しているかということだが、デフレ予想が定着しているからデフレになるという、トートロジーのような構造に陥ってしまっている。人々がデフレになるという予想を持って動くことが、デフレを維持してしまう。

 それを打破するには、日本銀行がデフレ脱却を目指す姿勢をハッキリと示すことが必要で、最も望ましいのが、インフレ目標を導入し、マネタリーベース(以下MB)である中央銀行の当座預金と現金を増加させる政策を行うことだ。

 過去の実例を見ると、MBの増加は、インフレ予想の引き上げに効果を発揮している。2004年3月から日本でも物価連動債が発行され、予想インフレ率が算出できるようになった。04年3月から06年2月までの量的緩和の時期には、予想インフレ率は0・6~0・9%あった。しかし、量的緩和の解除によってMBが大きく減少すると、原油価格急騰にもかかわらず、08年前半の予想インフレ率は0・2%台に低下した。

 米国の場合も、MBが増加した03~05年の予想インフレ率は2・5%近くまで上昇し、MBが減少した07年にはインフレ率が2%を割った。

 米国は明確なインフレ目標政策は採用していないが、バーナンキFRB(連邦準備制度理事会)議長はインフレ率2%を目標にし、その前後になるようにうまく調整している。

 ところが、日本の場合は、日銀が量的緩和を解除した06年3月以前の5カ月間の平均インフレ率がゼロ%だったので、市場は日銀がゼロ%を目標にしていると思っている。白川方明総裁になってからは、デフレでもいいという姿勢だと見られている。だから日銀が、量的緩和をやります、と言っても、予想インフレ率はなかなか上がらない。

 こうした両国の姿勢の違いから、米国はマネタリーベースの増加に、予想インフレ率が反応しやすいが、日本の場合は、反応しにくくなっている。

 リーマンショックのあった08年9月以降、米国はどんどんMBを増やして、最大で2・3倍にまで増え、10年1月から11月までのインフレ率(全品目)は1・7%だった。しかし、日本は、1割しか増やしていないので、同じ期間のインフレ率がマイナス0・8%とデフレになってしまった。


その結果、円高も進んだ。米国はインフレ、日本はデフレなので、円の購買力は持っているだけで上がる。通貨の価値は国力の反映だというけれども、今は、ただデフレだから上がっているだけだ。

 リーマンショック後、英国は2・4倍、スイスは2・8倍、スウェーデンは4・5倍にMBを増やした。ユーロですら1・5倍にしている。それでプラスのインフレ率を実現している。世界同時不況で需要は当然減るので、このぐらいのことをしないと、デフレになる。そういう意味で日銀は世界の中央銀行の中ではあまりにも異質なのだ。それでも、白川総裁はフロントランナーだと言っている。

――なぜ、認識に違いがあるのでしょうか。

 一つは日銀には1970年代の石油ショックの頃のインフレのトラウマがあると思う。それに、80年代のバブルのトラウマ。

 日銀の企画局では「低金利を続けると副作用がある」と言って、株価や地価の上昇をとても警戒している。速水優元総裁が、デフレ下にもかかわらずゼロ金利を解除した00年8月、福井俊彦元総裁がインフレ率ゼロ%なのに量的緩和の解除に踏み切った06年3月、その時の日経平均株価は、共に1万6000円台だった。つまり、デフレでもゼロインフレでも、1万6000円を超えてくると、金融引き締め政策に転換してしまう。

 しかし、30年代の大恐慌でも昭和恐慌でも、中央銀行がデフレ退治を始めるとまず起こるのが株価の急騰だ。株価は先行指標なので当然だし、日本の株価は2万円台にならないと正当な評価ではない。日銀は羹に懲りて膾を吹いている。

 そもそも、インフレ目標を導入している国発のバブル崩壊による金融危機は起きていない。バブル崩壊による金融危機が起きたのは、導入していない日米だ。

ブタ積みでも効果あり 重要なのは期待形成
 
――量的緩和を行っても、日銀の準備預金が増えるだけで、おカネは市中には回らず、消費も設備投資も増えないのではないですか。

 よくそういう「ブタ積み」論が出てくるが、デフレ脱却のためには貨幣は増えなくてよい。前回の景気回復が始まった02年以降も貸し出しは05年まで減っていた。当時も企業はカネ余りの状態だったからだ。しかし、企業の設備投資は増加していった。自己資金で設備投資をファイナンスした。今も企業は貯蓄超過なので、貸し出しルートは問題ではない。予想インフレ率が上がると、死蔵されている貨幣の流通速度が上がるからだ。そうすると、いずれ貸し出しも増える。重要なのはインフレになるという期待であり、人々の期待に働きかけることだ。

米国でも日本でも、準備預金残高が増えると株価が上がり、準備預金残高が減ると株価が下がっている。それは、ブタ積みであっても、予想インフレ率が上昇するからだ。

 デフレの原因として、生産年齢人口が減っているからだという説があるが、生産年齢人口が減っているのは日本だけではない。白川総裁は生産性が低いことをデフレの理由に挙げているが、日本よりも低い国はいくらでもある。だが、デフレなのは日本だけだ。貨幣以外がデフレの原因だという説は、データを国際比較すれば、破綻する。

――では、2%のインフレ目標が必要なのですか。

 普通は2%でうまくいく。ただ、日本は98年秋からデフレが続き、累計では、10年現在、物価が2%で上昇した場合よりも24%低い。追いつくには、4%ぐらいのインフレでも10年かかる。当面は4%のインフレ目標を設定したほうがいい。そして日本は短期国債金利がゼロなので、金利がプラスの長期国債を買わないと効果が出ない。

 脱却のルートはこうだ。日銀が1年半から2年程度でインフレ目標を達成するとコミットし、大量の長期国債買いオペでマネタリーベースを増やす。そうすると、予想インフレ率の上昇から、予想実質金利が低下し、株価が大幅に上昇して投資と消費が増える。一方、実質実効為替相場で見て円の価値が下がり、輸出が増加し、輸入品との競争力も高まって内需も増える。この二つのルートから、総需要が持続的に増加し、デフレ脱却ができる。

――4%ものインフレ目標を設定して国債の増発を引き受けるとなると、市場がマネタイゼーションを懸念して、悪い金利上昇が起きるのではないでしょうか。

 予想インフレ率が上がれば、経済成長への期待が出てくるので、税収増が期待できる。データで見れば、名目成長率が上がれば、基礎的収支は改善している。当初4年くらいは利払いが増えるが、その後は増えず、税収だけが増える。悪い金利の上昇を避けるには、財政出動はこれ以上必要がないと言えばいい。

――デフレよりも、潜在成長率の低さが問題だという声もあります。

 経済政策には役割分担がある。成長政策は市場に任せて競争環境を維持することだ。しかし、デフレ脱却は日銀が金融政策でやらなければいけないことだ。