裏付けのない希望的戦略:「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」と似てきました | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

裏付けのない希望的戦略:「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」と似てきました

秘書です。
今朝の読売新聞の2面の「菅政権八方ふさがり」の記事に、

「首相が模索しているのは、予算関連法案が不成立のまま新年度を迎え、野党の譲歩を待つ「熟柿戦略」だ」

とあります。

「熟柿戦略」といえば、柿が熟して落ちてくるのを待つ、というもので、先の大戦において、独ソ戦の様子をみながら対ソ戦を準備しよう、というのが典型ですね。

陸軍が独ソ戦の展開をみていたとすれば、菅政権は何をみているのか?

読売新聞の記事によると、

「首相周辺では法案不成立の影響が出れば、「国民の批判は野党に向き、野党は耐えかねて態度を軟化させる」との楽観論がある。」

とのこと。

この楽観論は、2つの問題があります。第一に、国民生活を人質にしていること。

読売新聞の記事は、

「あてもないまま野党の軟化を待つ政府・党執行部の姿勢に、党内では動揺が広がる。閣僚の一人は22日、「誰も全体のことを考えていない」とため息をついた。」

と結んでいます。全体というのは国民生活のはず。国民生活を人質に官邸に立てこもる菅総理のもと、江戸の焦土化を防ぐために談判する勝海舟はいないのか?


そして、第二の問題は、楽観の根拠が希薄なこと。

昭和十六年十一月十五日に大本営政府連絡会議が決定した「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」の楽観論に似ていますね。



『日本の戦争計画におけるイギリス要因―「対英米蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」の消滅まで』
という赤木完爾先生の戦争史研究国際フォーラムにおける会議報告(2003/03/31)から、歴史の教訓を学びましょう。
http://www.nids.go.jp/event/forum/pdf/2002/forum_j2002_7.pdf

「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」

方針
速やかに極東に於ける米英蘭の根拠を覆滅して自存自衛を確立すると共に更に積極的措置に依り蒋政権の屈服を促進し独伊と提携して先ず英の屈服を図り米の継戦意思を喪失せしむるに勉む
要領
帝国は迅速なる武力戦を遂行し東亜及び西南太平洋に於ける米英蘭の根拠を覆滅し戦略上優位の態勢を確立すると共に重要資源地域竝主要交通線を確保して長期自給自足の態勢を整ふ
凡有手段を尽して適時米海軍主力を誘致し之を撃滅するに勉む


この「腹案」は、ヨーロッパの戦争におけるドイツの優勢とイギリスの屈服という二つの仮説に依存していました。つまり、ドイツの動向に決定的に左右される性格を持っていました。しかし、ドイツが日本の希望に沿って動く気配はなく、このことが「腹案」の戦争終末構想を破綻へと導きました。

大本営と政府の政策決定者は、来るべき戦争が長期化するであろうと考えていましたが、その長期戦の実態が、近代兵器を投入して大量消耗を伴う激烈な陸海空にわたる連続的な戦闘であるということは洞察できませんでした。そして、そのうちに相手方が継戦意思を放棄して、講和会議となるのではないかと考えていたのです。

開戦当時の軍令部作戦課長、富岡定俊大佐は次のように回想しているそうです。

「この戦争は、敵に大損害を与えて、勢力の均衡をかちとり、そこで妥協点を見出し、日本が再び起ちうる余力を残したところで講和する、というのが私たちのはじめからの考え方であった。だが、そうはいっても、講和の希望にたいする裏付けが、とくにあったわけではない。しかし、当時は、欧洲でも大戦が進行しており、最高指導者の間ではドイツも非常に勝っていることだし、バランスということもあるので、講和のキッカケはその間にでるだろう、と考えられていた」



読売新聞記事にある、

「社民党と公明党に二またかけた結果、両方からふられた」

というのは、短期決戦と長期戦の妥協、そして、希望に裏付けがあるわけではないが、ドイツに希望を託して、その希望がかなわなかったことと似ていませんか?

さらにひどいことに、菅政権の長期戦は、最後は、国民生活を人質にとって官邸に立てこもる焦土戦ですね。

結論として、

このような根拠のない楽観論に基づく長期戦しか思考できない菅政権、国民生活を人質にした焦土作戦で権力を維持しようとする菅政権では、国際政治にはとても対応できない、そのことはすでに、尖閣沖漁船衝突事件における「根拠のない楽観論」に基づく対応ミスの連続で明らかになっていますね。

民主党のみなさんは、歴史をよく勉強されているでしょう。

デフレ増税路線をはじめとする国民生活焦土作戦阻止のために立ち上がるべきは、いまではないのですか?