格差社会論再考:格差と成長 | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

格差社会論再考:格差と成長

秘書です。
10月1日の菅総理の所信表明から消えた格差是正。
今度は税制改革論議の中で出てきたようです。


■小手先で格差是正講じても成長なければ不満解消せず 小泉政権で格差拡大は誤解
2010.12.07 ZAKZAK 高橋洋一 連載:激震2010 民主党政権下の日本
野田佳彦財務相は3日午前の閣議後記者会見で、政府税制調査会で給与所得控除の上限設定や相続税の基礎控除圧縮など、富裕層の負担が増す方向であることを明らかにした。そして、「本来私は自由主義者だが、今は格差是正措置を講じる方が世の中のためになる」と語った。

 菅直人首相は、口癖のように「小泉内閣が格差を拡大させた」という。菅首相の6月の所信表明演説でも、格差の拡大を言っている

 「格差」とは幅広い概念であるので一概に言えないが、データからみると、どうも事実ではない。

 たとえば、OECDの調査によれば、ジニ係数(1に近いほど格差が大きく、ゼロに近いほど格差が小さい)でみた所得格差は、G7の中で格差の少ない順番でいえば、1990年代半ばには仏・独・加・日・伊・英・米、2000年代半ばでは仏・独・加・日・英・伊・米である。

 また、2000年から00年代半ばの変化を見ると、日・英では格差が縮小しているが、他の国では格差が拡大している。この間、格差が拡大しているのは他の先進国でも見られることで、日本では逆に格差が縮小している。小泉政権のときに格差が拡大したというのは、単なる印象論だろう

 そもそも格差は是正すべきかどうかは大きな議論がある。少なくとも経済理論からどちらが望ましいかが演繹(えんえき)されるわけではなく、この意味でどちらを好むかという価値判断に関わる部分だ。多くのコンセンサスを得ている考えは、「結果の平等」と「機会の平等」を分け、機会の平等を行うべきというものだ。

 しかし、結果の平等については、人それぞれの考え方がある。社会主義的な考え方をとる人は、機会の平等とともに結果の平等を重視するし、資本主義的な考えの人は結果の平等をあまり考慮せずに機会の平等こそが重要だと思っている。

 私は、結果の平等を重視しても、しなくても、経済全体のパイが大きい方が各人が納得しやすのではないかと思っている。各人が分けられたパイを見るとき、今日の他人のパイとの比較ではなく、昨日の自分のパイと比較することが多いからだ

 実際に、所得階層別の所得額の推移を見ると、仮に最上位と最下位との格差が拡大していても、最下位層の所得額が時系列でみて伸びていれば格差感の不満は少ない。所得税は所得再分配機能があるので、その範囲内で所得格差は是正できる。しかし、所詮人々の所得は他人からわからないので、今回のように微修正措置は格差感の解消には効果がないだろう。税収が足りないので、取れるところから取るのをあえて理屈をつけているようだ。(嘉悦大教授、元内閣参事官・高橋洋一)


→格差社会論が一気に政治的アジェンダになった2006年1月。あのときの国民の格差についての理解をふりかえっておきましょう。

(2006年1月28日の東京新聞に掲載された共同通信の世論調査の結果)

問7 能力や仕事によって収入などの格差が広がる、いわゆる「勝ち組」「負け組」の存在があらためて取りざたされています。あなたは、以前と比べてこのような格差が広がっていると思いますか、そうは思いませんか。次の中から一つだけお答えください。

格差は広がっていると思う。 75.0
格差は広がっていないと思う。18.9
分からない・無回答      6.1

問8 あなたな、能力や仕事による収入の格差について、どう思いますか。次の中から一つだけお答えください。

大いに格差をつけるべきだ   9.3
ある程度の格差はつけるべきだ70.2
あまり格差をつけるべきでない16.6
全く格差をつけるべきでない  1.7
分からない・無回答      2.2

→問8においてわかるように、国民の7割はある程度の格差はつけるべきだと考えていたわけです。明日に希望があるかないかで眼の前の格差の意味は変ってくる。例えば、中国でもアメリカでも、自分が明日は今日よりも豊かになるという希望と確信があり、自分にも「勝ち組」になれるチャンスがあると思えば、「勝ち組」「負け組」などと言っていないで、自分が「勝ち組」になる努力をするでしょう。その結果、雇用も生まれてくることでしょう。

ところが、その後、メディアも民主党も、「あまり格差をつけるべきでない」「全く格差をつけるべきでない」に傾斜していき、日本全体が国際社会の「負け組」になりつつあるのではないでしょうか。


大事なことは、今日より明日、収入があがっていく希望。
それがないからいまの低所得から脱出できないという絶望がある。
だから、絶望の解決策として「カネよこせ」になる。

だからこそ、健全な人生設計のためにも経済成長が必要なのですが、「もう欲しいものはない、成長なんていらない」という究極の勝ち組のエスタブリッシュメント主流のみなさんが、増税が必要な低成長社会のコンセンサスをつくりあげ、今日より明日、収入があがっていく希望を若者から奪い、「カネよこせ」という「負け組」社会をつくったのではないでしょうか。そして、解決策は「増税」です。


エスタブリッシュメント主流の反成長コンセンサスのもと、経済規模が縮小していくと広告収入が激減していき、一部のメディアが「経済成長しないとまずいぞ」「情報革命に対応しないとまずいぞ」と気づきはじめています。

しかし、増税すればいい、というエスタブリッシュメント主流の国家戦略は変わらないようで(増税すればするほど景気はよくなる、というシナリオをはやく出してほしいものです)。

これから出てくるであろう増税論議、戦前の大恐慌下における金解禁に匹敵する大失政にならなければいいのですが。