ビデオ全面公開:①海保は当初公開するつもりだった?②ビデオ非公開の密約は? | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

ビデオ全面公開:①海保は当初公開するつもりだった?②ビデオ非公開の密約は?

秘書です。

問題の核心は

①海保は当初はビデオ映像を従来通り公開しようとしていたのではないか、そこに官邸からストップがかかったのではないか

②官邸主導の9.29細野訪中でブリュッセルでの首脳懇談をやるためにビデオ非公開が前提条件といわれてきたのではないか

この2つです。いずれも刑事訴訟法とは何の関係もありません。



■ローズアップ2010:海上保安官「映像流出」 割れる「秘密」の評価
毎日新聞 2010年11月11日 東京朝刊

 ◇立件、検察にも慎重論
 沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突を巡るビデオ映像流出事件の捜査が10日、大きく動いた。警視庁は「自分が流出させた」と打ち明けた神戸海上保安部の海上保安官を国家公務員法(守秘義務)違反容疑で取り調べた。だが、捜査当局内部にも罪の成立を疑問視する声があり、立件に向けたハードルはなお残る。一度は映像公開の準備を進めながら取りやめに至った上での今回の事件に海保側には複雑な思いが渦巻く。【鈴木一生、山本将克、石原聖】

 ビデオ映像をネットで公開したとされる神戸海上保安部の海上保安官を国家公務員法違反容疑で立件することの是非については「国民の『知る権利』との兼ね合いもあり、難しい判断になる」と、検察内部にも一部に慎重な声がある。

 国家公務員法は、職員が「職務上知ることのできた秘密」を漏らした場合、1年以下の懲役か50万円以下の罰金に処すると定めている。どのような情報が「秘密」に当たるのか。税務署職員が同法違反に問われた裁判の最高裁決定(77年)は(1)広く一般の人に知られていない(2)国家が行政目的を達成するために実質的に秘密として保護に値する--という二つの要件を示している

 今回のケースでは、国会議員の映像視聴が認められ内容の一部が明らかになったことから識者の間に「保護すべき秘密とは言えない」という指摘がある。

 だが、複数の検察幹部は「限られた国会議員が映像の一部を視聴しただけだから、一般の人に知られていた情報とは言えない」と指摘し、映像は国家公務員法上の「秘密」に当たるとの見方を示す。ベテラン裁判官も「国の安全保障にかかわるものと考えられ、秘密の要件を満たしている」と語る。問題の映像は、漁船衝突事件の捜査過程で作成された資料。刑事訴訟法には「訴訟に関する書類は公判前には原則として公にしてはならない」との規定があることから「秘密であることは間違いない」と言う検察幹部もいる。

 一方で、東京地検の複数の幹部は「立件には映像の入手経緯の解明が不可欠だ」と指摘する。海保はこれまで「流出した映像と同一の資料は石垣海上保安部にしかなく、厳重に管理していた」と説明してきた。仮に石垣保安部の職員が、神戸保安部の保安官に映像を譲り渡していた場合、職務上の秘密を漏らしたのは石垣の職員になり、神戸の保安官が守秘義務に違反したとは言えなくなる。「海保職員なら誰でも閲覧できる映像だった場合、保護に値する秘密と言えるのか」と疑問視する声もある。

 動機の解明も重要だ。ある刑事裁判官は「公開されるべき情報を非公開としたことに義憤を感じて映像を流出させたとすれば、容疑者に有利な情状になる。そうなると、罪が成立するとしても、起訴する必要があるのかという議論になるのではないか」と指摘した。

◇公開方針一転「官邸からストップ」 領海最前線、怒りと失望

海上保安庁はそもそも、今回の衝突事件が発生した9月7日午前の段階では、映像を公開する準備を進めていた。現場の巡視船「よなくに」から衛星通信の秘匿回線で届いたビデオ映像を国土交通相など関係閣僚の視聴用に編集。政府が映像を基に事件の立件の可否などを判断した後、同様の映像を報道機関に提供する方針だった

 だが、半日もしないうちに提供は取りやめになった。海保は理由を説明していないが、ある政府関係者は「官邸からストップがかかったと聞いている」と明かす

 海保は過去の事件や事故では基本的に、報道機関の要請に応じて映像を提供してきた。日本の排他的経済水域(EEZ)は447万平方キロメートルと世界6番目の広さで、遠く離れた洋上でどんな事件事故が発生したのかを映像や写真で把握し記録できるのは海保だけだ。基本的に公開のスタンスをとり、報道機関の要請があれば、悪天候で洋上から電送される映像の精度が低かったり、海保の手の内を明かすことになる場合を除き、映像を提供してきた

 しかも、EEZ内で事前通報の取り決めを無視して海洋調査を行う中国公船を航空機から撮影した映像や、転覆した漁船から乗員を救助する様子など公開しやすいケースばかりではない。01年12月に鹿児島県奄美大島沖の東シナ海で発生した北朝鮮工作船事件では、事件から2日後に巡視船が工作船からロケット弾などで銃撃されて被弾する模様も公開した。

 海保関係者は「どんなことがあったのかを国民は知りたいはずだし、こちらも国民の目に触れないところで活動しているので自分たちの仕事を知ってほしいという思いもある」と話す。別の関係者は「覚せい剤の密輸や違法操業を企てる相手に対しては、ある程度の公開は抑止効果を生む側面もある」と説明している。

 今回の映像流出の背景には何があるのか。「台湾や中国の漁船は我が物顔で操業し、退去警告を出しても挑発的な態度をとることが多い。巡視船にぶつけてきたのに釈放なんて、法治国家としてあるべき姿なのか」「相手が武器を持っているか分からないのに、海上保安官は丸腰で立ち入り検査をする。殉職者が出るまで領海警備の問題に国は向き合わないのか」。海保OBや関係者からは、現場にあきらめとも怒りともつかない感情がたまっていると指摘する声が出ている

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 ◇中国漁船衝突事件を巡る主な動き

 9月 7日 沖縄・尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突

    8日 海保が中国人船長を逮捕

   10日 石垣簡易裁判所が船長の拘置を認める(19日まで)

   13日 中国人船長を除く乗組員14人がチャーター機で帰国

   19日 石垣簡裁が拘置延長を認める(29日まで)

   25日 那覇地検が中国人船長を処分保留で釈放

11月 1日 海保撮影の映像を衆院予算委の理事らに公開

    5日 インターネットの動画投稿サイトへの映像流出が発覚

    8日 海保が東京地検、警視庁に刑事告発

   10日 神戸海上保安部所属の男性保安官が「映像を流出させた」と話したことが判明


→少なくとも、最初の半日、海保は従来通りの公開の方針でいたのではないか?それを官邸からストップをかけたのか?昨日の予算委員会でもこのことを菅原一秀議員が追及していましたが、ここは問題の核心部分の一つです。

【海保職員「流出」】守秘義務分かれる判断 一部議員には公開…問われる「実質性」
2010.11.10 22:55産経新聞

沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐる映像流出事件で、「流出」を告白した海上保安官(43)は国家公務員法(守秘義務)違反容疑で取り調べを受けたが、同法適用をめぐり専門家の意見が分かれている。国会議員にも一部公開されたビデオが法律上の「秘密」に当たるか。映像の公開を求める国民の声が多かったという背景もあり、捜査側は難しい判断を迫られそうだ。

 ◆最高裁判断

 最高裁は昭和52年、国家公務員法違反に問われた税務署職員の裁判で、漏らした情報が(1)公になっていない(2)秘密として保護すべきだ-の2つの条件を満たす場合に、守秘義務の対象になるという判断を示した。

 さらに、日米の沖縄返還協定に関する外交機密を不当に入手したとして、元毎日新聞記者の西山太吉さんが同法違反に問われた刑事裁判で、最高裁は53年「実質的にも秘密として保護するに値するもの」かどうかで守秘義務の対象が決まると判示した。

 つまり、行政機関が形式的に秘密として扱っていただけでは、仮に漏らしても罪に問えないという考え方だ。甲南大法科大学院の園田寿教授(刑法)は「以前はマル秘のはんこが押してある書類は全部秘密という『形式秘説』という考え方だったが、近年は『実質秘説』が主流になっている」と話す。

◆外交カード

 今回の映像については政府が存在を認めている上、国会議員も約6分50秒に編集した映像を見ている。

 こうした点から、「実質秘」にあたらないと主張する専門家もいる。

 情報公開に詳しい清水勉弁護士は「本当に守秘義務がかかるものならば国会議員にも見せないはずで、守秘義務違反に問うのは無理だろう」と話し、「国会議員は視聴後の取材に、図を書いたりして中身を説明している。実質秘ならば、このように報道に対して明らかにすることも許されないはずだ」と主張する。

 一方、園田教授は「微妙な問題だが、ビデオは実質秘にも形式秘にもあたる」との考えだ。園田教授は「ビデオを見れば中国漁船が故意に当たってきたことは一目瞭然(りょうぜん)。中国への従来の主張への反論になり、日本にとっては重要な外交カードだった」と指摘。その上で、「国会議員にも守秘義務はあり、守秘義務のある人的範囲内で見せたにすぎず、(議員への公開後も)ビデオの秘密性は保たれているのでは」と話す。

 ◆動機次第

 法務・検察内では「ビデオは秘密にあたる」という見方が大半だ。

 法務省幹部は「海保として公開を考えて編集していた段階と、国会で取り扱いが議論になった段階とでは『秘密性』の程度も違ってくる。内容がある程度外部に説明されたら秘密にあたらないという解釈がされると、何でも秘密でなくなってしまう」と話す。

 一方で、海上保安官の動機や入出経路次第では「刑事責任追及は難しい」(検察幹部)との声もある。そもそも同法違反には「職務上知り得たもの」という構成要件があるためだ。

 また、体を張って領海の安全を守っている海上保安官が「国民に真実を知ってほしい」などと「国民の知る権利」を主張した場合、「起訴しても、公判で議論となる余地はあるだろう」(法務省幹部)という意見もある。

 検察幹部は「起訴するかは難しい選択」と明かし、「ビデオ公開は大半の国民から支持されている。世論に反して起訴したら検察も批判され民主党も持たないのではないか」と話した。

→やはり、海保は公開を前提に編集していた段階があるのではないか。海保の名誉のためにもここは明らかにすべきでしょう。

→官邸が事件当日に公開準備にストップをかけたとすれば、この日は民主党政権が国民を知る権利をするための大義とするところの刑事訴訟法とは関係のない話でしょう。政治的理由でしょう?もしそのような事実があったとしても、ここは絶対に認めたくないところでしょうね。

→しかし、政党はもたなくても代用が聞きますが、統治機構はそうはいきません。真実を隠してまで、さらには組織を解体してまで政権の延命が図られるべきではありません。


■尖閣映像流出:ビデオは複数の管区でも閲覧可能と判明
毎日新聞 2010年11月11日 2時30分(最終更新 11月11日 2時50分)
 ビデオ映像流出事件で、映像は第11管区海上保安本部以外の複数の管区でも閲覧できる状態にあったことが捜査関係者への取材で分かった。警視庁捜査1課の取り調べに映像投稿を認めた海上保安官(43)が所属する第5管区海上保安本部でも閲覧でき、保安官は容易に映像を入手できた可能性がある。捜査1課は、具体的な入手方法について追及する。

 捜査関係者によると、映像は衝突事件が発生した9月、11管から海上保安庁本庁を経て、5管を含む複数の管区に渡っていたという。保安官は読売テレビの取材に「ほぼすべての海上保安官が見られる状況にあった」と話したとされるが、全管区には行き渡っていなかった模様だ。

 海上保安庁はこれまで、11管の石垣海上保安部が那覇地検に提出した十数本の映像資料の一つと説明していた。このため内部調査の対象を11管の職員らに絞ってきた。だが複数管区に映像が拡散していたとすれば、国会などでの海保側の説明と異なることになる。

→どこかの段階までは、機密扱いしていなかったということでしょう。

■中国漁船・尖閣領海内接触:ビデオ流出 菅「国民外交」の…=政治部編集委員・古賀攻
 毎日新聞 2010年11月11日 東京朝刊
 ◇菅「国民外交」の虚構
これが菅直人首相の唱える「国民全体で考える主体的で能動的な外交」(10月1日の所信表明演説)の姿なのか。対中国政策のありよう、政府の説明内容、国家の情報管理といずれの面でも後味の悪さを残して、神戸の海上保安官が映像流出の実行者だと名乗り出た。

 今回の事件の根底には、外交を進める過程で自国民をどう説得するかという問題が横たわっている。

 仙谷由人官房長官を中心に、菅内閣は海上保安庁が撮影した映像の一般公開を渋り続けた。理由は刑事訴訟法47条による「訴訟書類の非公開」である。

 衆院予算委員会の決議(10月13日)を経て、11月1日に予算委理事ら約30人に限定しての「視聴」が実施されたが、数時間分に及ぶオリジナル映像は6分50秒に短縮されていた。

 帰国した中国人船長の公判が開かれる見込みは一切ないのに、映像を証拠物として扱う必然性があるのか。野党は盛んに追及したが、菅内閣は船長を処分保留で釈放した時と同じように「検察の判断」を盾に譲らなかった。

 事実は異なるはずだ。

 仙谷氏は9月29日に細野豪志前民主党幹事長代理ら3人を日本政府の「密使」として北京に送り込んでいる。外務省を通さず、旧知の人物に依頼してセットさせた訪中だ。

 関係者によると、戴秉国・国務委員ら中国側は関係改善の条件として細野氏らに「衝突映像の非公開」と「沖縄県知事による尖閣視察の中止」を求めた。日本側はこれを受け入れ、偶然を装ったブリュッセルでの日中首脳の接触(10月4日)につながったという。

 北京での約束は、菅内閣を現在も拘束していると考えるのが自然だ


 隆盛する中国と、下降気味の日本との関係は極めてデリケートな状態にある。ナショナリズムを刺激する領土問題は、なおさら慎重に扱わなければならない。日中の互恵関係が死活的な国益である以上、双方の国民感情を悪化させないよう、映像公開を見送るという外交判断は成り立つ。

 敵意を込めて体当たりを繰り返す中国漁船の悪質さは一目瞭然(りょうぜん)だ。要は、政府が映像を公開する利益と、公開を避ける利益を国民の前で比較し、理解を得る努力をしたかどうかである。

 このプロセスを菅内閣は怠り、刑事訴訟法の世界に逃げ込んだ。それが「国民全体で考える外交」といかにかけ離れているかを、領海警備に日夜励む海保職員をはじめ、外務省や検察庁の職員は見抜いている


 政府が非公開と決めた映像を、一公務員が独断でネットに流出させるのは国民の「知る権利」に応える行為とは言えない。ただし、そのような衝動に駆り立てたおおもとの責任は菅内閣にある

→第二の問題の核心が、柳腰外交の根幹と思われる9.29細野訪中での秘密合意疑惑です。ここが全く解明されていません。この記事でも触れられているように、ビデオ非公開の密約がここであったのではないか?ブリュッセルでの日中首脳懇談の取引材料とされてしまったのではないか?

■中国漁船・尖閣領海内接触:ビデオ流出 中国、反応示さず APEC前、事態注視か
毎日新聞 2010年11月11日

 【北京・成沢健一】尖閣諸島沖衝突事件の映像を流出させたことを神戸の海上保安官が認めたことについて、中国政府は10日夕の時点で反応を示していない。横浜で13、14日に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に胡錦濤国家主席が出席するのを前に事態の推移を注視しているとみられる。

 中国外務省は、衝突事件のビデオ映像が動画投稿サイトに流出した翌日の5日、「日本側が中国漁船の進行を妨害して衝突を招いたのであり、それ自体が違法だ。ビデオ映像では真相は変えられない」とする報道官談話を発表している。

 9日の定例会見でも洪磊(こうらい)・副報道局長は、映像流出を受けて菅直人首相が衆院予算委員会で「管理不行き届き」を陳謝したことについて質問されても、具体的な言及を避けつつ、「両国関係の改善と両国人民の友好感情増進のために双方はともに努力すべきだ」と強調した。

 「中国側がこの問題をとらえて騒ぎを大きくしようと考えているならば、もっと強い調子になっているはず。明らかに事態の沈静化を図ろうとしている」と北京の外交筋はみる。海上保安庁職員の関与が判明しても、流出が政府による意図的なものではないことがはっきりするわけで、関係改善に向けた動きに直接影響を及ぼさない、との見方だ。

 ただ、中国側はいまだに横浜での日中首脳会談開催の見通しについて態度を表明していない。ソウルで11、12日に開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議では、胡主席が韓国の李明博(イミョンバク)大統領と会談することが決まっており、胡主席は9日、韓国メディアの書面インタビューで「中韓関係の発展に満足している。両国の戦略的パートナーシップを新たな段階に進めたい」と意欲を見せた。

 これに対し、日中首脳会談開催の見通しについて洪副報道局長は同日の定例会見で「提供できる新たな情報はない」と述べるにとどめている。

 衝突の映像は中国の動画サイトにも転載され、巡視船が漁船に命令するシーンは民族感情を刺激したものの、反日デモなどにはつながっておらず、首脳会談実現の障害になる可能性は低い。一方で、軍などの対日強硬派は日中関係の修復に抵抗を示しているとの見方も強く、事件の進展が思わぬ波紋を広げた場合、首脳会談開催に反対する口実に利用される事態も予想される。

→真実が明らかになることと首脳会談が開かれるかどうかということと、国益をどう考えるのか?

■中国漁船・尖閣領海内接触:ビデオ流出 海保職員取り調べ(その1) 重い告白
毎日新聞 2010年11月11日

 ◇保安官の重い告白 勤務中に船上で 取材に「失職も覚悟」
 「自分がやりました」。沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突を巡るビデオ映像流出事件で、自らの関与を認めたのは神戸海上保安部の海上保安官(43)だった。巡視艇に乗り主任航海士を務めるベテランの告白。海上保安庁は重苦しい空気に包まれ、国会にも衝撃が広がった。保安官はテレビの取材に「国民が見るべき映像」と語ったという。公務員の規律を乱す犯罪なのか、「内部告発」なのか。保安官の行為を巡る評価は複雑だ。【近藤諭、関谷俊介、日下部聡】

 ●思い詰めて

 「どうしたんだ」。神戸近海をパトロール中だった巡視艇「うらなみ」の船内で10日午前、保安官は思い詰めたような表情になった。映像の流出元について「神戸のネットカフェから」とのテレビニュースが船上でも話題になっていた。船長の問いに、保安官は「自分がやりました」と告白した。

 第5管区海上保安本部などによると、保安官は姫路海上保安部の巡視艇乗組員などを経て、今年4月から「うらなみ」に乗船。船長を補佐する立場で、24時間勤務で明石海峡などをパトロールする任務などに当たっていた。映像が投稿された11月4日は休みだったという。幹部によると、勤務態度に特に目立った点はなく、「悪い評判は聞いたことがない」という。

 読売テレビ(大阪市)の取材に対し保安官は「(流出させたのは)政治的に内閣にダメージを与える意図はない」とし、「今回のことについては海上保安庁、検察庁、職場の人に大きな迷惑をかけることになった。職を失うことは覚悟している」と心情を明かしたという。

 ●「ショック」

 神戸海保や管轄する第5管区海上保安本部には10日、200人前後の報道関係者が詰めかけ、騒然とした雰囲気になった。しかし、幹部は「捜査にかかわることなのでノーコメント」と繰り返すばかりで、記者会見も開かなかった。

 5管のある職員は「流出元が神戸のネットカフェと聞き、大変なことになるかもと思ったが、まさかうちの職員とは。こんな不祥事はこれまでなく、ショックで言葉も出ない」。

 別の幹部職員は「つらいです」とだけ言葉を絞り出した。

 一方で5管には、保安官が名乗り出たとのニュースが流れた正午ごろから電話やメールが殺到。午後7時現在、合わせて360件に上った。「犯人捜しはやめろ」「仲間をかばえ」といった内容が多く、保安官に対して同情的なものが大半だったという。

 ●「寝耳に水」

 映像を撮影、編集した石垣海上保安部にも動揺が広がった。

 ある保安官の男性は10日午前、テレビのテロップで神戸海上保安部の保安官が事情聴取を受けていることを知った。周りの同僚とともに「寝耳に水のことでびっくりした。正義感が強い人なのかもしれないが、海上保安官として情報流出はあってはならないことだ」と話した。流出経路について男性は「全国からシステムにアクセスすることはできてもパスワードなどが必要で厳重に管理されていると思う。誰でもアクセスできたわけではないはずだ」と話した。

 別の職員によると、結果的に映像が流れたことについては、同僚の間でも「公開されて良かった」という声があったという。

 石垣海保の長道克巳次長は「捜査に全面協力しており、神戸海上保安部の保安官が事情聴取されている中では何も答えられない」とだけ話した。

 ◇投稿の漫画喫茶、海保から約1キロ--神戸市の繁華街
 神戸海上保安部の主任航海士が映像を投稿するために使ったとみられる漫画喫茶(ネットカフェ)は24時間営業で、神戸市中央区のJR三ノ宮駅から西約300メートルの繁華街の雑居ビルにある。同海保から北に約1キロしか離れていない。

 10日は、報道陣が詰めかける中、正午前後に1人ずつ計2人の捜査員が相次いで店内に入り、店員から話を聞くなどして午後5時半ごろに退出した。

 一方、営業は通常通り行い、4階の受付では、身分証の提示も求められなかった。本のコーナー以外は、ほとんどが個室(ブース)で、各階の階段や漫画を閲覧するコーナーに防犯カメラが設置されていた。個室は1畳ほどの広さ。壁に四方を囲まれ、いすに座ると隣の様子は見えない。【加藤美穂子、井上梢】

■中国漁船・尖閣領海内接触:ビデオ流出 海保職員取り調べ(その2止) 擁護と批判
毎日新聞 2010年11月11日 
 ◇国民は擁護と批判 「刑事責任やりすぎ」「処罰は当然」 政府への不満、共通
 神戸海上保安部の保安官(43)が「自分が映像を流出させた」と打ち明けたことについて、どう考えるか。各地で聞いた。

 札幌市西区の製造業、石島しのぶさん(73)は「事実が一目で分かる映像で、秘密にする必要はなかった。国民が求めていたことを代表してやってくれ、拍手喝采(かっさい)だ」と評価。広島市南区の古書店経営、石踊一則さん(63)も「政府の弱腰姿勢に奮起したのではないか。重い処分が下るだろうが、かわいそう」と同情した。

 刑事責任の追及について、大阪市福島区の会社員、浅田麻希子さん(35)は「国民のためを思ってやったと感じられ、刑事責任を問うのはやりすぎ」。東京都豊島区の会社員、山田勝彦さん(30)も「中国人船長が釈放されたのだから、(保安官が)有罪になるのはおかしい」と語った。

 尖閣諸島がある沖縄県石垣市。無職、都倉裕一郎さん(60)は映像流出を「国民の利益にかなっている」と評価し、「罪を問うのは反対」とかばった。無職の上地加代子さん(65)も「勇気とポリシーを持った人だと思う。厳罰は望まない」と話した。

 擁護論の一方で、保安官への厳しい批判も聞かれた。

 千葉県成田市の無職、横田典幸さん(56)は「気持ちは分かるが、公務員が勝手にあんなことをしては組織の統制が欠けてしまう。中国への強気な意見ばかりが通るような現状は、日本が過去に歩んだ戦争の道と似ている」と危惧(きぐ)した。

 青森県八戸市の主婦、本吉喜勢子さん(74)は「外交にかかわることを一個人で判断すべきでなく、刑事責任も仕方ない」。和歌山市の会社員、塩路大地さん(26)も「守るべき機密情報を流出するなど公務員としてあってはならない。どんな理由であれ、賛成しかねる。逮捕は当然と思う」と手厳しい。

 高松市の会社役員、合田一志さん(54)は「処罰は当然。映像の流出も将来の国益を考えれば、よかったかどうか疑問。中国に対する国民感情を悪化させるだけでは外交は成り立たない」と語気を強めた。

 擁護派と批判派の双方から聞かれたのは政府への不満だ。

 札幌市西区の会社員、横山珠美さん(32)は「こういう状況を作ったのは国。国民が望むことを公開しないと判断したのなら、国はきちんと説明しないといけない。説明がなさ過ぎる」と説明不足を批判した。

 愛知県東浦町の主婦、市野愛美さん(34)は「犯人を捜すこと自体、良い気分がしない。逮捕しても尖閣問題が解決するわけではない。本来は国がもっと早く映像を公開すべきで、政府の対応は最悪だと思う」と憤った。

 東京都調布市の会社員、西田ゆいさん(29)は「最初から政府が公開していればこんな問題は起きなかった。最近は機密情報の漏えいが相次いでいるので、情報の保全を徹底する新たな仕組みが必要と思う」と話した。