北方領土問題:戦略的利益と強固な政治的リーダーシップがみられている(2) | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

北方領土問題:戦略的利益と強固な政治的リーダーシップがみられている(2)

秘書です。

ロシアが、菅民主党政権をなめているのか?
菅民主党政権が、油断という名で、ロシアをなめていたのか?

一発パンチをくらってそこから新しいスタートができるか?
国際政治では危機から一転、大転換することがあるが、菅民主党政権にそれだけの戦略的思考と胆力と人的ネットワークがあるか?


(1)日露関係 

■クローズアップ2010:露大統領、北方領土訪問(その1) 対露でも外交不全
毎日新聞 2010年11月2日 東京朝刊
 ◇細る政治家人脈
 ロシアのメドベージェフ大統領が1日、日本が返還を求めている北方領土にソ連・ロシアの首脳として初めて足を踏み入れ、日本政府や元島民ら関係者は大きな衝撃を受け、反発している。だがロシア側は「国内問題」と強調し、日本の反発は「理解できない」(外務省筋)と不快感を表明した。日本では訪問を阻止できなかった政府への批判が強まるのも必至で、中国に続き、対露関係でも日本外交の機能不全が露呈した形になった。【ユジノサハリンスク田中洋之、モスクワ大前仁、犬飼直幸、西田進一郎】
 現地からの情報によると、メドベージェフ大統領は国後島で自ら日産製の四輪駆動車を運転して移動し、各地で住民の歓迎を受けた。大統領の訪問は住民に「島がロシア領」であることを強く印象づけた。ただ日本への言及は、携帯電話の通信網が島内に整備されていることに触れた際に「日本のものではない」と冗談交じりに語った部分だけで、民家での住民との懇談など通常の国内視察のスタイルを貫いた。
 北方四島を管轄するサハリン州の州都ユジノサハリンスクには日本のメディアが大勢待機したが、大統領府は「国内視察」を理由に国後島への同行取材を認めず、訪問後の会見も開かなかった
 ロシア国内では「再来年の大統領選へ向けて国内支持を高める効果があった」(コーシキン露戦略策定センター上級研究員)との見方が強い。対日関係への影響を懸念する外務省の意向を聞き入れず大統領府が訪問を強行した可能性も指摘される。先に9月2日を「第二次世界大戦終結の日」として国の記念日に制定した際も、大統領府の内政担当部門が外務省に相談なく先走ったといわれており、今回の訪問でも調整役となるはずの外務省は「大統領の訪問は内政問題」(ラブロフ外相)と関与を避けた格好になった
 だが日本側の衝撃は大きい。「90年代から築いてきた対露外交の成果がチャラになった」。日露関係に詳しい元外務省幹部が肩を落とした。日本は北方領土問題の解決を外交の最重要課題の一つに位置づける一方、「車の両輪」として経済的なつながりを拡大する努力を続け、貿易高や直接投資は急増したが、その積み重ねが一瞬に崩れた。
 今回の訪問に、日本側は油断していたふしがある。大統領が東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議が開かれたハノイから北方領土に寄る、という情報が流れた時、外務省関係者の多くが「遠い先の話」「うわさは聞くが……」と慎重な見方を示し、ある外務省高官は「100%ない」と完全否定した
 沖縄県・尖閣諸島沖の漁船衝突事件をめぐっては、日本の首相官邸と中南海(中国指導部)のパイプの欠如が指摘された。対露外交もかつては、ロシアと強いパイプを誇ってきた鈴木宗男前衆院議員や故橋本龍太郎元首相、森喜朗元首相らが積極的に推進し、クレムリン(露大統領府)との太いパイプが機能していたとされる。それが政権交代で途絶え、双方の大使館を通した外交ルートでの情報収集が中心になった。「ロシア側も大統領府から外務省に正確な情報が伝えられていなかった」との指摘もある。双方の政権中枢を結ぶチャンネルが機能不全に陥っていたというわけだ。
 ◇尖閣対応、足元見られる?
 大統領が日本の中止要請を無視して北方領土訪問を強行した背景には、「日露関係が悪化したとしても、年明けには落ち着くはず」(元露外務省高官)とのロシア側の読みがあるようだ。
 特に日本政府が尖閣諸島の領有権をめぐる中国とのやり取りで、当初は強硬姿勢を取りながら、融和的な立場に転じたことから、ロシア側が菅政権の外交の「足元」を見透かしたとの指摘が出ている。「日本は50年に1度の政権交代があり、国は弱くなったと見られているのではないか」と外務省幹部は危ぶむ
 大統領の訪問が2国間の経済関係へ及ぼす影響も小さいとの見方がロシア側では圧倒的だ。「日本企業が撤退すれば、他国に取って代わられるだけ」(同高官)と冷めた見方も広がりつつある
 これに対し、日本政府は、大統領の北方領土訪問に反発を強め、対抗措置の検討に入った。だが、尖閣諸島問題で悪化した日中関係がいまだ修復軌道に乗らないなか、駐ロシア大使の召還や一時帰国などの対抗措置を打ち出して日露関係の冷却化が決定的になれば、菅政権にとっては大きな打撃になる。仙谷由人官房長官が1日午後の会見で「日露関係は奥が深い。(大統領の訪問が)いい材料でないことは間違いないが、決定的にどうこうということはない」と、あえて日露関係の深刻な悪化にはつながらないとの見方を示したのもこのためだ
 当面の焦点は、今月13、14両日に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に大統領が出席し、予定通り菅首相との首脳会談を行うことができるかどうかだ。ある外務省幹部は「APECは多国間協議だから、露大統領が来ないわけにはいかない。ただ、首脳会談や外相会談は別。進展の望みがないからやらないと判断しても不思議ではない」との見通しを示した。
 また大統領の北方領土訪問で、ロシア側が領土問題で妥協しない姿勢を鮮明にしたことから、4島返還を目指す日本側は厳しい立場に追い込まれた。領土問題を含む日露平和条約交渉は進展が遠のいたとの見方が強まっている。

 ◇大戦前、日本人1万7000人居住
 日本は国後(くなしり)島、択捉(えとろふ)島、歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島の「4島」について、1855年の日露通好条約などを根拠に固有の領土と主張し、返還を求めている(<1>)。ロシアは「第二次世界大戦の結果、日本は領有権を放棄し、ソ連(その後ロシア)領になった」として現在まで実効支配している(<4>)。4島の面積は計5036平方キロ。大戦前は約1万7000人の日本人が住んでいた。1956年の日ソ共同宣言は、平和条約締結後にソ連が歯舞群島と色丹島を日本へ引き渡すと明記(<3>)。昨年、当時の谷内正太郎政府代表は毎日新聞に「4島」全体の面積を等分する「3・5島でもいいのではないか」と発言した(<2>)が政府は認めていない。4島周辺はサケ、タラ、カニなど海産物が豊富。国後や択捉は森林資源にも恵まれている。

→やはり、なめられてますね。菅民主党政権が。

→そして、経済力を過信しないほうがいい。いまは1980年代のジャパンアズナンバー1の日本ではありません。みんなして経済成長はやめようといって成長の芽をつんだあとの2010年民主党政権下の日本です。何があるのか。戦略的利益です。決して経済的利益そのものではない。

→仙谷長官から見れば、本当に何があっても決してどうということではないのでしょう。


■クローズアップ2010:露大統領、北方領土訪問(その2止) 菅政権に追い打ち
 ◇野党「弱腰」批判強める
 メドベージェフ露大統領の北方領土訪問は、沖縄県・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の対応に苦しんだ菅政権に追い打ちをかけ、「外交が弱点」との印象をさらに強める形になった。自民党など野党は「弱腰外交」批判を強めており、内閣支持率の下落傾向に拍車がかかりかねない。

 「ロシアは民主党政権の足元を見ている」「中国との関係がゴタゴタしていて、今の政権なら行ってもいいと軽く見られた」 
毎日新聞 2010年11月2日 東京朝刊
 1日、自民党本部で開かれた外交部会。出席者からは政権批判が相次ぎ、経済制裁やAPECでの首脳入国禁止など強硬な対抗措置を求める声まで上がった。同日の衆院予算委員会でも平将明氏(自民)が「ロシアに甘く見られている。背景には民主党の迷走、閣僚の不用意な発言がある」と追及。首相は「政権交代後の政権運営の中に原因を求めるのは、やや偏った見方ではないか」と反論した。
 菅政権が臨時国会に提出した10年度補正予算案はようやく2日以降の審議入りが確定。自民党にとって、野党の主張を取り入れた補正予算案自体は強く批判しにくく、小沢一郎民主党元代表の「政治とカネ」問題とともに「外交無力」(石原伸晃自民党幹事長)が今後の最大の攻撃材料となる。公明党の山口那津男代表も「日中間の尖閣問題が影響していることも考えられる」と批判した。
 鳩山政権が悪化させた日米関係の改善を最優先の外交課題と位置づけて発足した菅政権。不安定な外交の足元に付け込まれた面は否めない。その「元凶」とも言える鳩山由紀夫前首相が菅政権の外交批判を繰り返し、菅首相が打ち出した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加検討方針に党内の小沢、鳩山両氏のグループから反対論が噴出。外交が政権運営のアキレスけんとなっているのが現状だ。【野口武則】

■【露大統領北方領土訪問】なぜ国後か 国資金での発展期待 「2島返還」のシグナル?
【モスクワ=遠藤良介】メドベージェフ大統領が北方四島の中でも国後島を訪問先に選んだ理由の一つは、同島の人口が推定6千人以上と、最大面積の択捉島と並んで多く、産業基盤が立ち遅れていることにあると考えられる。
 択捉島は水産業を柱とした新興財閥「ギドロストロイ」の本拠地で、同島を事実上所管するクリール行政区では同社からの税収が予算の約7割を占める。領土返還への反対世論も強い。これに対し、国後島には国家資金をより重点的に投下しており、その使途を大統領自身が掌握する必要があるというわけだ。
 一方、居住者が少ない色丹島は歯舞群島とともに、1956年の日ソ共同宣言で平和条約締結後に日本へ引き渡すとされている。大統領が色丹島を訪問しなかったことは、同宣言に基づき「2島返還」を着地点と考えるロシアの“シグナル”とも解釈できるだろう

■【ロ大統領北方領土訪問】「日本はなめられているのか」日本外交官、苦渋の表情 
2010.11.1 10:25産経新聞
 北方領土・国後島=07年5月 「メドベージェフ大統領がわたしたちの島を訪問したということは、ロシア領土である証明だ」。1日に歴史上初めて、ロシアの国家元首の訪問を受けた国後島の島民は一様に歓迎。一方で国後島に向かう大統領機を見守った日本外交官は「日本はなめられているのか」と苦渋の表情を浮かべた。

 首都モスクワから遠く離れた北方領土ではインフラ整備が遅れ、島民の間では「中央に見放された」との感情が長らく支配的だったが、近年はロシア政府が巨額の資金を投じて整備を進めている。

 大統領の国後島訪問に日本国内で反発が上がっていることについて複数の島民は「島では何世代もロシア人が生活してきた。この領土を日本に引き渡すことは絶対にない」と断言した。(共同)

→なめられてますね、菅民主党政権が。

→9月末にメドベージェフ大統領が北方領土に行く、と宣言してから、何してたのか?むしろ、菅民主党政権がロシアをなめていたのでは?


■メドベージェフ露大統領、「必ず北方領土を訪問する」
2010年09月29日 19:20 AFP
発信地:ペトロパブロフスクカムチャツキー/ロシア
【9月29日 AFP】ロシアのドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)大統領は29日、日本が領有権を主張する千島列島(クリール諸島、Kuril Islands)について、「ロシアとって非常に重要な地域」であり、近く訪問するとの意向を示した。
 訪問先の極東カムチャツカ(Kamchatka)半島ペトロパブロフスクカムチャツキー(Petropavlovsk-Kamchatsky)で報道陣に語ったもの。今回の極東訪問中に訪れる予定だったが、悪天候により今回は見送ったという。だが、「わが国の非常に重要な地域」だとして、「近い将来、必ず行く」と明言した。
 一方で、日本の前原誠司(Seiji Maehara)外相は、メドベージェフ大統領が訪問すれば日露関係に重大な支障が生じると語った。また仙谷由人(Yoshito Sengoku)官房長官は29日午後の記者会見で、「わが国の立場を既に色々なレベルでロシア側に伝達してある」と述べた。(c)AFP/Anna Smolchenko

(2)ロシア側の主張 

■クリル諸島訪問はロシアの内政問題
アンナ フォロステンコ 1.11.2010, 15:56 ロシアの声
 ロシアのメドヴェージェフ大統領は1日、クリル諸島を訪問した。大統領は訪問を総括して、クリル諸島での生活水準は向上するはずであるとの考えを示した。ソ連、およびロシア時代を通じてロシアの首脳がクリル諸島を訪れるのは今回が初めて。
 ロシアと日本はクリル諸島の領有権を巡る論争により、1945年から平和条約を締結できずにいる。
 ロシア大統領府の専用機は、およそ8000人が暮らす国後島に着陸した。大統領の国後島訪問は3時間半に及び、大統領は地元企業を視察したほか、地元民とも交流し、店頭での製品価格も査察したうえ、その過程で約300グラムのキュウリウオを購入した。メドヴェージェフ大統領は、クリル諸島の生活水準はロシア中央部と同様のものとなるだろうとの期待を表明し、次のように語った。
 ―クリル諸島における社会的生活規準をロシアの水準と一致させるためには、わが国の一角であるこの島に住む国民たちが受け取るサービスを、国、主にサハリン州に存在する可能性に近づける必要がある。そのためには専門家達を働かせるため、この地に呼び寄せる必要がある。住居の建設や、ここに移住した人々が良い生活環境を得るための全体的なプログラムが必要だ。これは彼らがこの地に残り、十分な期間にわたって作業することを促すものだ。
  大統領とマスコミとの会談はユジノクリリスクに新たに建設された幼稚園で行なわれた。色丹島にも近々、新たな幼稚園が一つ開設される予定だ。
 観光分野の発展について述べるならば、この地域には観光ゾーンを創設する為の全ての環境がそろっている。クリル諸島間を帆船で周るツアーや、火山の観測を目的とした観光ツアーのほか、国後島の温泉や泥浴治療も観光の目玉として提供することができる。地質・鉱物学を専門とするイーゴリ・ダヴィデンコ博士は、「ロシアの声」からのインタビューに対し、「ここは比類のない地域である」との考えを示し次のように話す。
 ―発展の過程にある生きた土地を持っている人間に尊厳が生まれる。これはすべての者に必要なことだ。貧しいヨーロッパの人々はこのことを知らない。
 一方、ロシアの大統領によるロシア国内の訪問は別の国家から大きな抗議を受けることとなった。日本の前原誠司外務大臣は駐ロシア大使に抗議文を送った。また日本外務省はこうした行動は日本国民の感情を傷つけると指摘した。メドヴェージェフ大統領のクリル諸島訪問を前にロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相はこの問題は外務省の管轄ではないとの認識を示した。
―私は外交を担当している。しかし、クリル諸島はロシア固有の領土であり、これは内政問題である。大統領は国内の移動について自身で決定する。
 第2次世界大戦後、国後、択捉、歯舞、色丹の4島はソ連の構成体となった。しかし、日本はこれを認めず、定期的にこの領土に対する返還要求を行っている。一方、専門家たちは、国際法的な観点から見てもこの土地は争いの余地のないものだと指摘する。1956年にソ連と日本の間で締結された共同宣言には、日本がその他の領土についての要求を取り下げた場合、歯舞諸島、色丹島を日本に引き渡すと明記されている。しかし日本は4島すべてを要求している。ちなみに今、日本はこれ以外の領土問題をも抱えている。日本と中国は尖閣諸島をめぐる争いに終止符を打つことができずにいる。また日本で政府の支持率が急激に低下しているのも火に油を注ぐ原因となっている。この問題について、ロシア科学アカデミー極東研究所、日本研究センターのワレリー・キスタノフ所長にお話を伺った。
―日本の世論は中国との領土問題に関する民主党と首相の態度に大きな不満を抱いている。これを受けて、菅直人首相率いる政府を支持しないと答えた人の数が、初めて、支持すると答えた人を上回った。そこで、中国との問題をうまく解決できずにいる日本政府はロシアとの関係で点を稼ごうとしており、メドヴェージェフ大統領の南クリル訪問にも激しい反応を見せているのではないか
 ロシアの著名な専門家たちはこの問題で政治と経済をすり替えないよう呼びかけている。ロシアはこれまでに何度も、この土地を共同で開発していくことを提案した。20世紀末、ロシアと日本は露日委員会を創設、両国の経済関連省庁の代表をメンバーにして、共同プロジェクトの考案に着手した。こうした計画を実現するためには、領土返還の要求の声を高めるのではなく、経済的な接点を見つけ出すことが重要なのではないか。

→少なくとも、領土問題は存在しない、というソ連時代とは異なり、4島について領土問題が存在していることは認識しています。そして、1956年の2島引き渡しについては前提条件として認めている、ということのようです。

■露大統領のクリル諸島訪問 「他者からの助言受けない」
29.10.2010, 14:54 ロシアの声
 ロシア政府は、ドミトリー・メドヴェージェフ大統領による、ロシアの一地域であるクリル諸島訪問を、外国と審議するなどばかげているとの声明を表した。メドヴェージェフ大統領のクリル諸島訪問に対する、日本側からの非常にネガティヴな反応についてロシア政府はコメントし、政府高官の自国の領土訪問に関して、ロシアは他者からの相談を受けるつもりはないと伝えている。
 ソ連やロシアの首脳がクリル諸島を訪問したことは、これまでに一度もなかった。メドヴェージェフ大統領は、9月末に中国を訪問した後、すぐにこの地を訪問する準備をしたが、この意向を知った日本政府は、前例がないほど厳しい外交処置を伴う声明を表した。日本の前原誠司外相は、日露関係に重大な支障が生じるとして、メドヴェージェフ大統領はこの計画を放棄すべきだとの声明を表している。前原外相は、大統領がもし訪問するならば、日露間の領土問題に否定的な影響が及ぶことになり、日本側は断固とした反撃に出なければならないと述べた
 しかし、このような挑戦的な声明にもかかわらず、メドヴェージェフ大統領が計画を変更することはなかった。9月29日、ペトロパヴロフスク・カムチャツキーに滞在していたメドヴェージェフ大統領は、悪天候のため計画は中止せざるを得なくなったものの、近いうちに必ずクリル諸島を訪問する、この地域はわが国にとって最も重要な地域のひとつであると伝えた。ロシア側の反応は翌日、ロシア外務省のアンドレイ・ネステレンコ報道官のブリーフィングでも伝えられた。
 ―ロシア大統領は自分で自国領内の訪問ルートを定めるし、この点に関して外部からの「助言」はいかなるものであっても、不適当で受け入れがたい。これに関連して今回言及されている諸島は、国際法によって認められたロシア連邦の領土であり、第二次世界大戦の結果、特に国連憲章によって確定されたものである。 日本側は以前、ロシアが南クリル諸島の4島の帰属という交渉のテーマが存在していることを実質的に認めたことで喜んでいた。なぜならソ連時代このようなテーマはそもそも存在していなかったからである。択捉、国後、色丹、歯舞はソ連領である、それで全てだった。ソ連の第二次世界大戦の結果についてもう一度争おうなどとは誰もしなかった。しかしロシアはソ連と違い、日本と向き合って、話し合いを始めたまた二カ国は諸島の合同経済開発プロジェクトを作成した。しかし最近になって日本側は、このような方法にはもはや関心がなく、ただ諸島を手に入れたいとの声明を表すようになったのだ。その結果、二カ国の間には政治的対話のある種の空白が生まれた。しかも、ロシア側からは何度も、対話をいつでも始める用意があるとの声明が出されている。
 ロシア大統領府のセルゲイ・ナルィシキン長官は、ロシアはきわめて真摯な態度で、第2次世界大戦終戦後に残された露日間の平和条約締結問題をめぐる対話を継続していく意向だと述べている。こうした意味において、「北方四島はロシアによって不法に占領された土地」だという礼儀知らずな主張を頻繁に訴えようとする最近の日本の試みは非建設的なものだと言えるのではないか。
 日本は隣り合うほぼすべての国々との間に領土問題を抱えている。これは近代世界においてそう多く見られる状況ではない。ロシアのほか、日本は尖閣諸島をめぐって中国との関係を緊張化させ、南北朝鮮との間では、竹島問題をめぐって長い論争を続けている。
 一方、ロシア科学アカデミー極東研究所のセルゲイ・ルジャニン副所長は、ロシア政府指導部は必ず南クリル諸島を訪問し、形式としても、そして事実としても、この領土がロシアに帰属していることを確認することになるだろうと指摘する。これは非常に重要なことだ。
 ロシア政府は、領土問題をめぐって日本が立場を硬化させれば、状況をまったく袋小路い追い込む可能性があるとの見方を示している。

(3)識者の声 

■クローズアップ2010:露大統領、北方領土訪問 識者の見方

 ◇領土認識、中国と共有--下斗米(しもとまい)伸夫・法政大教授(ロシア政治史)の話
 9月の中露首脳会談では、共同声明に「領土保全にかかわる核心的利益を互いに支持する」と明記された。北方領土は第二次世界大戦でロシアが得た利益だという認識を中露が共有していることの表れだ
 また日本の政権交代でロシアは領土問題の交渉に進展を期待したが、鳩山政権下で「ロシアが不法占拠」との政府答弁があり、民主党への不信感が強まったことも確かだ。
 大統領は9月にモスクワ市長を解任し、強い指導者の立場へかじを切った。領土問題での強硬姿勢は、2年後の大統領選を視野に、国内世論を意識した側面もある。
 ただし日露間の平和条約の枠組みは消えたわけではない。日本の経済協力は欠かせない。日本との外交関係を有利に進めるためにも、北方領土の実効支配をカードとして持っておきたいのだろう。

 ◇強硬姿勢、得策でない--石郷岡建(いしごおか・けん)・日本大総合科学研究所教授(ロシア・ユーラシア研究)の話
毎日新聞 2010年11月2日 東京朝刊

 現在、日本にとって最大の外交課題は、拡大発展する中国をいかにして抑え込むかだ。そのためにはロシアや朝鮮半島、東南アジア諸国連合(ASEAN)などと多国間連携を結ぶ必要がある。ロシアとの関係を悪化させてまで「4島返還」の原則論に固執するのは得策と言えない。
 日露はソ連崩壊後、領土問題の妥協点を探ってきた。メドベージェフ大統領も「型にはまらないアプローチ」などによる解決を模索した。それなのに日本側からは前向きなリアクションがなかった
 国後島訪問は「態度を改めなければ交渉を打ち切る」という最後通告だ。メドベージェフ大統領が訪日する11月中旬のAPECで菅首相の手腕が試される。強硬姿勢を貫けば国民受けは良いだろうが、領土交渉が停止するだろう。

 ◇対日政策は変わらず--ドミトリー・ストレリツォフ・モスクワ国際関係大教授(日本史)の話
 9月末にメドベージェフ大統領がクリル(千島)諸島を訪れる可能性が報じられた際、日本が(強硬に)反応したことから、大統領は訪問する選択肢しかなくなったといえる。日本の現政権は支持率が低下しているので、今回の状況を利用するかもしれない。
 ロシアは今回の訪問を内政の一環と位置づけており、対日政策の変更を意味するものではない。大統領は12年の大統領選を意識しているかもしれないが、本質的にはクリル諸島の経済開発を促進させる狙いがあった。
 訪問は以前から計画されていたもので、2国間関係に深刻な影響を及ぼすことはないだろう。大統領はAPEC首脳会議へ出席するために訪日するが、その際に菅直人首相と会談するかどうかは日本の出方次第だと思う。


■【正論】北大名誉教授・木村汎 国後訪問誘った民主政権の甘さ
2010.11.2 02:57 産経新聞

 ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土の国後(くなしり)島を訪れた。ソ連、新生ロシアの別を問わず国家首脳としては初の事例だ。これにより日露関係は重大局面を迎えた。今訪問の背景や狙い、日本側がとるべき対応について考える。

 ≪「プーチン戦略」の一環≫
 プーチン首相(前大統領)は、ゴルバチョフ、エリツィン両元大統領のアンチテーゼである。ロシア国民は、2人の元大統領の疾風怒濤(しっぷうどとう)のごときペレストロイカ(立て直し)や改革で混乱と貧困の極致に投げ込まれたと考え、安定と秩序を希求した。国民の輿望(よぼう)を担って登場したプーチン氏は、これまで一貫してゴルバチョフ、エリツィン両氏の「負(?)の遺産」を清算しようと試みてきた。
 この一般論は、プーチン氏の対日戦略にも当てはまる。ゴルバチョフ、エリツィン両氏は、歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)、国後、択捉(えとろふ)の4島を日露領土交渉の対象地域とし、ビザなし交流を始めた。この先例を何とか撤回し、歯舞、色丹の2島ぽっきり返還で領土紛争に終止符を打ちたい。これが、プーチン氏の対日戦略の要諦である。だが、自民党政権が4島一括返還の姿勢を崩さなかったため、さすがのプーチン氏もつけ込む隙(すき)を見出し得なかった。プーチン氏は大統領時代、北方領土訪問という切り札を用いる機会にも恵まれなかった。
 ところが、自民党政権の末期ごろから、一部の日本の政治家、高官たちは4島一括返還要求に乱れを見せるようになった。麻生太郎元首相やその外交顧問の「面積2等分」論は、その一例である。

 ≪菅首相、対露交渉に無関心?≫
 日本に民主党政権が誕生したことは、虎視眈眈(たんたん)とチャンス到来を待っていたプーチン=メドベージェフ双頭体制に絶好機をつくり出した。鳩山由紀夫前首相は「就任後半年か1年以内に領土問題を解決する」と、交渉に自ら期限を設ける愚を犯した。日本が対露、対中外交を進めるに当たって貴重な援軍として期待すべき米国との関係にも、普天間問題、その他により亀裂を走らせてしまった。
 その鳩山前首相の対露方針を引き継ぐ、と菅直人首相はカナダでのメドベージェフ大統領との初会談で宣言した(今年6月26日)。鳩山氏がわずか3日前、北海道新聞とのインタビューで、「首相在任中にし残した対露領土交渉では、まず2島プラス・アルファを主張してゆく」と語ったのを承知の上で、そう言明したのである。
 その後も、菅首相は、鳩山氏を自身の代理として、ヤロスラブリ国際会議へ送ってメドべージェフ大統領との会談を行わせる(9月10日)など、自らは対露交渉に無関心な姿勢をとり続けた。
 そうした民主党幹部の言動を見て、メドベージェフ大統領は対日牽制(けんせい)の揺さぶりをかけ続けた。択捉島での軍事演習、事実上、対日戦勝を記念する「第二次大戦記念日」の制定、胡錦濤・中国国家主席との日本軍国主義批判…等々。とりわけ、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件発生時に、菅首相、仙谷由人官房長官が露(あら)わにした国家主権、領土に対する認識の甘さを目の当たりにして、同大統領は今こそ北方領土訪問決行のチャンス到来と判断したに違いない。

 ≪どんと構え4島の旗降ろすな≫
 ロシア最高指導者による国後島訪問の意味は、象徴的にも実質的にも大きい。それは、仮に歯舞、色丹の2島を日ソ共同宣言に基づいて日本側に引き渡すことには同意するにしても、国後、択捉は絶対に返還しないとの意思表示に他ならない。日本側にとり最も都合のいい解釈をしてみても、せいぜい2島プラス・アルファで妥協しようというメッセージである。
 もとより、日本がこんなシグナルを受け入れる必要は毛頭ない。これまで通り、4島返還を要求し続ければよい。その意味では、此度の国後訪問に過剰反応することは望ましくなく、そうすればロシアの思う壺であろう。
 一方で、メドベージェフ氏は早晩、レイムダックになる運命の指導者であり、大騒ぎする必要はない、ということにはならない。同氏は確かに、2012年にはプーチン氏に取って代わられるかもしれない。だが、メドベージェフ氏の国後訪問はプーチン氏の黙認を得ているのみならず、同氏の差し金とすら解釈される。両氏は所詮(しょせん)、同じ穴の狢(むじな)であり、双頭体制の形成者なのである。
 日本の対応としてとりわけ念頭に置くべきは、今後のロシアの動向である。あえて単純化して言うと、自国経済の近代化と中国の脅威の増大-の2つが、ロシアの最大の関心事となる。
 双頭体制が協力を要請中の“近代化同盟”の候補国の中から日本は漏れてはいる。その理由はしかし、簡単だ。喉(のど)から手が出るほど日本の協力が欲しいものの、それを明示すると日本側の領土返還運動を勢いづかせることを恐れているのである。欧米諸国からの対露協力に限界があることが分かり次第、ロシアは早晩、日本にもすり寄ってくる。それまで、日本はどっしりと構え、4島一括返還の旗印を決して降ろしてはならぬ。(きむら ひろし)


■【露大統領北方領土訪問】佐藤優氏「北方領土の『脱日本化』にとどめ」 
2010.11.1 22:44産経新聞
  メドベージェフ露大統領の国後島訪問は戦略的によく練られたものだ。ロシアは、事前にこの訪問についてシグナルをいくつも出してきたが、日本外務省は「メドベージェフ大統領の北方領土訪問はない」と分析を誤った。今回の事態について、外務省のインテリジェンス能力を抜本から点検する必要がある
 今回の大統領訪問の目的を一言でいうと「北方領土の脱日本化」だと筆者は見ている。過去に日本外務省は、人道支援、ビザなし交流などによって、北方領土の日本化を進めていたが、それを逆転させるということだ。
 国後島におけるメドベージェフ大統領の発言を分析すると、そのことがよくわかる。大統領は地熱発電所を訪れ、「これは小さな発電所だが、もっともエネルギー効率がよい」と発言した。日本は北方四島の住民生活を支援するためにディーゼル発電機を供与し、事実上の発電所をつくった。それにより、日本政府は北方四島住民の日本への依存度を高めようとした。今後は、ロシアが自前で電力を調達するので、日本には依存しないという意思表示を大統領が行ったと筆者は見ている。
 また、大統領は、現在4チャンネルのテレビ放送を「20チャンネルにする」と約束した。国後島のロシア系住民は日本のBS放送を見ている。このような状況をロシアのテレビチャンネルを20に増加させることによって変化させることをメドベージェフ大統領は意図している。
 さらに、「ここでは(携帯電話の)通信がどこでも通じる。もちろん日本製でない」と述べた。電力、テレビ、通信において、日本の影響力を排除するというロシア国家としての意思をメドベージェフ大統領が表明したのだ。
 尖閣諸島問題をめぐる中国の激しい反応に対して菅直人政権が及び腰になっているすきにつけ込んで、ロシアは北方領土における不法占拠を固定化しようとしている
 北方四島が係争地であることについては、日露両国政府が公式に認めていることだ。それだから、これまでロシア大統領が北方領土を訪問することはなかった。「領土問題は存在しない」と言っていた冷戦時代においてもソ連の最高指導者が北方領土を訪れることはなかった。そのような行為をすれば、日本が激しく反発し、第三国にも働きかけるので、その対応に消耗し、結果としてソ連の国益を毀損(きそん)すると考えたので、ソ連は北方領土に対する静謐(せいひつ)戦術を採用したのだ
 ロシアはソ連と異なり、共産主義に基づく世界革命の野望は持っていない。ただし、ロシアは帝国主義国だ。まず、相手国の立場を考えずに自国の要求を最大限に表明する。これに対して、相手国がひるみ、国際社会も沈黙するならば、ロシアはそのまま権益を拡大する。相手国が激しく反発し、国際社会からもひんしゅくを買い、結果としてロシアの国益が毀損されるような状況のときにだけ、妥協し、国際協調に転じる。どうも日本の外務官僚には、ロシアが帝国主義国であるという本質が見えていないようだ
 日本国家を愛する国民、マスコミ関係者、政治家が一丸となって、北方領土を守るために声をあげなくてはならない。ロシアは日本の反応を注意深く観察している。ここで日本人がおとなしくしているならば、「ロシアと日本は、東京宣言(1993年10月)において北方四島に関する帰属の問題を解決して平和条約を締結すると約束したが、4島を日本に返還するとは約束していない。第二次世界大戦の結果を変更させることはできない。ロシアが4島、日本は0島で、帰属の問題を解決し、平和条約を締結しよう」などと平気で言い出してくるだろう。いま、ただちにロシアの暴挙に対して激しく拳を振り上げることが必要だ。おとなしくしていてはロシアからなめられるだけだ。
 前原誠司外務大臣がベールイ駐日ロシア大使に抗議するくらいのことをロシアは織り込んでいる。菅直人首相が政治主導で「今回の事態について大使から直接報告を受けたい」と言って、モスクワの河野雅治駐露大使を即時呼び戻すことだ。そうすれば、ロシア側も事態の深刻さを認識する。それとともに、日本外務省の対露インテリジェンス態勢を抜本から立て直し、今回のような分析ミスによる不祥事が繰り返されないようにすべきだ。