戦略的互恵関係:個別摩擦を二国間関係に影響させない・頻繁な首脳会談開催・国内問題も対話 | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

戦略的互恵関係:個別摩擦を二国間関係に影響させない・頻繁な首脳会談開催・国内問題も対話

秘書です。
菅総理は、戦略的互恵関係について、トラブルをどう抑えるかの知恵の部分の構造を理解されていますか?


■中国とは決定的なトラブルと思ってない…菅首相
読売新聞 10月30日(土)20時14分配信
 ◆菅首相のハノイでの記者会見(要旨)◆
 【日中関係】(中国の)温家宝首相とは10分程度、話をした。民間交流を復活させようというブリュッセルでの約束が実行されたことを確認した。今後とも戦略的互恵関係を推進することでは変わらないということと、ゆっくりとした会談を近く持ちたいということを言った。
 中国とは長い歴史の中でいろいろな時代を共に生きてきた。今日、生じている多少のトラブルは、決定的なトラブルとは思っていない。両方の国が冷静になって、相互にプラスになる方向性を目指して戦略的互恵関係を深める努力に取り組めば、日中関係は経済的な面でも文化的な面でもさらに発展することは十分可能だ。
 【TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)】わが国の農業をどう再生させるかの問題を抜きには議論できない。農業の再生と、国を開いて成長につなげることとの両立を図る道を見いださなくてはならない。これができなければ農業は復活しないし、貿易自由化の面でも立ち遅れる。(ハノイ、宮井寿光)

→「決定的なトラブル」とは何を意味するんでしょうか?もう一度、戦略的互恵関係を再確認しましょう。


(1)まず、戦略的互恵関係も、1972年9月29日に発表された日中共同声明、1978年8月12日に署名された日中平和友好条約及び1998年11月26日に発表された日中共同宣言の3つを政治的基礎とするものです。

このうち、江沢民主席来日時に発表された「日中共同宣言」には以下のような重要な項目が含まれています。


◇平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言(1998年11月26日) 

双方は、毎年いずれか一方の国の指導者が相手国を訪問すること、東京と北京に両政府間のホットラインを設置すること、また、両国の各層、特に両国の未来の発展という重責を担う青少年の間における交流を、更に強化していくことを確認した。

→指導者間の定期的往来は日中共同宣言にさだめられたものです。ホットラインはまだ設置されていないのでしょうか。漁船衝突事件のとき、菅総理は民主党に中国要人とのパイプがないことを嘆いたと報道されていますが、総理がこのホットラインを使い、直接、中国指導者と会話すればよかったのではないでしょうか。少なくとも、日中共同宣言ではそのような首脳レベルでの意思疎通で摩擦を解消していくことを想定しています。

双方は、日中共同声明及び日中平和友好条約の諸原則に基づき、また、小異を残し大同に就くとの精神に則り、共通の利益を最大限に拡大し、相違点を縮小するとともに、友好的な協議を通じて、両国間に存在する、そして今後出現するかもしれない問題、意見の相違、争いを適切に処理し、もって両国の友好関係の発展が妨げられ、阻害されることを回避していくことで意見の一致をみた。

→これは、今後とも個別の摩擦が起こることを想定しつつ、個別の摩擦が両国関係全体に影響させないようにする、というものです。あまり強調されることのない項目ですが、じつは、戦略的互恵関係というものにおいて核心的な重要性を持つものです。この項目と、指導者間の定期的往来の規定は一体のものであり、指導者の交流により、個別の摩擦を二国間関係全体に波及させることを抑えよう、というメカニズムが共同宣言の精神になります。個別摩擦により指導者の交流ができなくなるのは1998年の日中共同宣言に反することになるのではないですか。

この江沢民主席来日時の共同宣言(日本側は小渕首相)の内容はもっと再評価されるべきであり(あの来日時の色々な出来事の評価と共同宣言の評価は切り離しましょう)、「戦略的互恵関係」の政治的基礎の一部をなしていることを再確認し、そこから今回発生しているトラブルが日中共同宣言という日中関係の政治的基礎からみてどうか、という問題提起がなされるべきではないでしょうか。


(2)2008年5月7日に、福田首相と胡錦涛主席が署名した日中共同声明には以下のように記されています。


◇「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明(2008年5月7日、東京) 

2.双方は、1972年9月29日に発表された日中共同声明、1978年8月12日に署名された日中平和友好条約及び1998年11月26日に発表された日中共同宣言が、日中関係を安定的に発展させ、未来を切り開く政治的基礎であることを改めて表明し、三つの文書の諸原則を引き続き遵守することを確認した。また、双方は、2006年10月8日及び2007年4月11日の日中共同プレス発表にある共通認識を引き続き堅持し、全面的に実施することを確認した。

→1998年の日中共同宣言が政治的基礎と位置付けられています。(2006年10月8日及び2007年4月11日の日中共同プレス発表については後述)。

4.双方は、互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならないことを確認した。双方は、互いの平和的な発展を支持することを改めて表明し、平和的な発展を堅持する日本と中国が、アジアや世界に大きなチャンスと利益をもたらすとの確信を共有した。

(3)双方は、協議及び交渉を通じて、両国間の問題を解決していくことを表明した。

→ここ重要です。協議及び交渉を拒否するということは、胡錦涛主席が署名した2008年の日中共同声明に反するということを、菅総理は堂々と主張しなけれいけないのです。

6.双方は、以下の五つの柱に沿って、対話と協力の枠組みを構築しつつ、協力していくことを決意した。

(1)政治的相互信頼の増進

 双方は、政治及び安全保障分野における相互信頼を増進することが日中「戦略的互恵関係」構築に対し重要な意義を有することを確認するとともに、以下を決定した。

◦両国首脳の定期的相互訪問のメカニズムを構築し、原則として、毎年どちらか一方の首脳が他方の国を訪問することとし、国際会議の場も含め首脳会談を頻繁に行い、政府、議会及び政党間の交流並びに戦略的な対話のメカニズムを強化し、二国間関係、それぞれの国の国内外の政策及び国際情勢についての意思疎通を強化し、その政策の透明性の向上に努める。

→国際会議も含め首脳会談を頻繁に行うことが戦略的互恵関係なんです。ブリュッセルとハノイで首脳会談ができていないじゃないですか?

→政党間の交流はどうしました?小沢さんが中心にやっていたとみられる民主党と中国共産党との政党間交流。個人でやっていたわけではないのでしょうから、執行部が変わってもやらなければいけないでしょう。こういうときに、訪中して、ホンネで大激論を交わしてくる腹のすわった政治家はいないのですか?友好的気運のときに訪中して握手の写真をとることのは政党間交流の目的ではありません。それは緊急時のための信頼関係づくりの一歩でしょう。また、外務省を外して密約するのも政党間交流ではありません。両国指導者間で合意された準公式的なトラック2的な交流でなければなりません。


→戦略的互恵関係というと、二国間を超えた共通の基盤のほうに目を向けがちですが、しっかりと二国間関係、そして国内政策についての意思疎通を強化すると書いてあります。当然、民主化の問題も個々に含まれます。菅民主党政権では対話してますか?(中川秀直が政調会長として訪中したときには堂々と相手のイデオロギー担当の要人に、民主化の話をしています)

◦国際社会が共に認める基本的かつ普遍的価値の一層の理解と追求のために緊密に協力するとともに、長い交流の中で互いに培い、共有してきた文化について改めて理解を深める。

→民主化の話はタブー視する必要は全くない。

(3)では、「戦略的互恵関係」のスタートにある安倍総理訪中時に日中双方が発表した日中プレス発表をみてみましょう。

◇日中共同プレス発表(2006年10月8日)

双方は、日中共同声明、日中平和友好条約及び日中共同宣言の諸原則を引き続き遵守し、歴史を直視し、未来に向かい、両国関係の発展に影響を与える問題を適切に処理し、政治と経済という二つの車輪を力強く作動させ、日中関係を更に高度な次元に高めていくことで意見の一致をみた。双方は、共通の戦略的利益に立脚した互恵関係の構築に努力し、また、日中両国の平和共存、世代友好、互恵協力、共同発展という崇高な目標を実現することで意見の一致をみた。

→「両国関係の発展に影響を与える問題を適切に処理」ということは個別の摩擦を二国間関係に影響させない、ということでしょう。

4.双方は、両国の指導者の間の交流と対話が両国関係の健全な発展に重要な意義を有すると考える。日本側より中国の指導者の日本訪問を招待したのに対し、中国側は感謝の意を表明し、原則的にこれに同意し、双方は、外交ルートを通じて協議することで意見の一致をみた。双方は、両国の指導者が国際会議の場においても頻繁に会談を行うことで意見の一致をみた

→菅総理が対中政策において戦略的互恵関係を金科玉条とするならば、国際会議で首脳会談をキャンセルすることは、戦略的互恵関係の日中間の合意に反するものであると強く抗議すべきです。トラブルとは思っていないなどとというのは、戦略的互恵関係の理解に誤りがあるのではないでしょうか。

6.双方は、東シナ海を平和・協力・友好の海とするため、双方が対話と協議を堅持し、意見の相違を適切に解決すべきであることを確認した。また、双方は、東シナ海問題に関する協議のプロセスを加速し、共同開発という大きな方向を堅持し、双方が受入れ可能な解決の方法を模索することを確認した。

→これこそ、1998年の日中共同宣言の個別摩擦を二国間関係に発展させないための知恵です。これも進んでいないことは、戦略的互恵関係に反するとみなすべきです。


(4)温家宝総理来日時に日中双方が発表した日中共同プレス発表ではどのように書かれているでしょうか。

◇日中共同プレス発表(2007年4月11日) 

4.双方は、2006年10月の安倍総理訪中の際に双方が発表した「日中共同プレス発表」に基づき、「共通の戦略的利益に立脚した互恵関係」(以下「戦略的互恵関係」という。)の構築に努力し、また、日中両国の平和共存、世代友好、互恵協力、共同発展という崇高な目標を実現することを再確認するとともに、「戦略的互恵関係」の構築に関し、以下の共通認識に達した。

(1)「戦略的互恵関係」の基本精神は、以下のとおりである。

 日中両国が、アジア及び世界の平和、安定及び発展に対して共に建設的な貢献を行うことが、新たな時代において両国に与えられた厳粛な責任である。このような認識の下、日中両国は、将来にわたり、二国間、地域、国際社会等様々なレベルにおける互恵協力を全面的に発展させ、両国、アジア及び世界のために共に貢献し、その中で互いに利益を得て共通利益を拡大する。そのことにより、両国関係を新たな高みへと発展させていく。

(2)「戦略的互恵関係」の基本的な内容は、以下のとおりである。

(イ)平和的発展を相互に支持し、政治面の相互信頼を増進する。両国のハイレベルの往来を維持し強化する。それぞれの政策の透明性の向上に努める。両国の政府、議会、政党間の交流と対話を拡大し深化させる。

→政府、議会、政党間の交流と対話の拡大と深化。これが戦略的互恵関係の基本的な内容のトップ項目です。これができないようでは「戦略的互恵関係」は現時点では実現できていないことになりますよね。