高橋洋一さん曰く:今の国際ルールは金融緩和による通貨安はよいが為替介入による通貨安はダメ | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

高橋洋一さん曰く:今の国際ルールは金融緩和による通貨安はよいが為替介入による通貨安はダメ

秘書です。
オールジャパンのえりすぐりの秀才が集まっているはずの民主党政権がなぜこうなのか?
日本の本質的な問題がそこにあるように思います。

日本政治は以下の「仮説」に基づいて動いてきました。

「官僚や日銀は優秀だから何か考えているはずだ、その結果がこれだから仕方がない」
「悪いのは政治家が介入するからだ。政治家を取り換えればいい」

さて、この仮説を信じている皆様、なぜ、自民党が下野して政治家を入れかえたのに世の中悪くなっていっているのでしょうか?なぜ、颯爽としていた民主党政治家が政権を執ったら役人の文書を棒読みしはじめているのでしょうか?

きっと、上記の「仮説」が間違っているのです。早くそのことを認めましょう。そうしなければ、閉塞状況から抜け出れません。

それは、高度経済成長を支えてきた成功モデル・神話の全面否定、自分の学歴信仰、序列観の全面否定ですから、明治維新や終戦に近い価値観の全面的な転換です。猛烈な抵抗があって当然です。しかし、ここを克服しなければ、若者を救い出すことはできないでしょう。

例えば「円高無策」。これこそ生活第一であるべきはずなのに・・・


■「円高無策」の日本は蚊帳の外 「基軸通貨」を狙うユーロと中国「連携」の動き
2010年10月18日(月) 高橋 洋一 現代ビジネス

G20の裏側で何が起きるのか

10月22、23の両日、G20の財務相・中央銀行総裁会議が韓国・慶州で開かれる。そこで、通貨が話題になっている。マスコミは通貨安競争との「言葉」に弱く、相変わらずさかんに煽っているが、その本質の理解へはほど遠い。

 通貨安戦争という言葉の裏に何があるのかは、先週の本コラムを参照してもらいたい。また、目先の円ドルレートが史上最高値の95年4月19日の79円75銭を超えるかどうかに関心が集まっている。

 こうした状況で、まったく信じがたい発言がでてくる。16日、日曜日朝のNHKの討論番組を見ていて出席者の事実認識には驚かされた。例えば、出席者の一人である大田弘子元経済財担当相は「円高ではなくドル安である」とし、「日本側の政策で対応できない」と発言した。これは事実とちがう。

 以下の図をみてほしい。米ドル、加ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、豪ドル、香港ドル、ニュージーランドドル、韓国ウォン、メキシコペソ、人民元に対する円のレートを、リーマンショックの前に2007年1月を基準として表したものだ。これを見ると、円はすべての通貨に対して高くなっており、まさしく「円高」だ。

(図略)


 次の図は、加ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、スイスフラン、豪ドル、香港ドル、ニュージーランドドル、韓国ウォン、メキシコメソ、人民元に対するドルのレートを表している。明らかにドル安になっているのは、加ドル、日本円、スイスフラン、豪ドル、人民元だ。ユーロ、ニュージーランドドルはややドル安、ドルペッグの香港ドルはほぼ同じ。英ポンド、韓国ウォン、メキシコペソは逆にドル高だ。これらを見ると、完全に「ドル安」とは言い切れない


「ドル安」という裏には、「円高」は「日本側の政策で対応できない」という思い込みがある。それはまったく誤りであることは、すでに本コラムで示した。

 円ドルについていえば、円とドルの相対的に少ない方の通貨がその希少性から高くなると、9割方説明できる。これまでも、米国の金融緩和によって、円がドルに比べて相対的に少なくなり、円高になってきたで、この説明が正しいことがわかる。

 さらに、15日、バーナンキ米FRB(連邦準備理事会)議長は、米インフレ率は事実上目標とする1.7~2%を下回っており、追加金融緩和を示唆した。このため、11月2,3日の次回FOMC(連邦公開市場委員会、日銀の金融政策決定会合に相当)で、FRB(連邦準備理事会)が金融緩和する観測を先取りして円高にふれている。

 このメカニズムがわかれば、日本で政策的に対応できないという間違ったことは口にしない。米国と同じ以上に、日本が金融緩和すればいいのだ。今の日本は、先進国中で唯一物価上昇率がマイナスである。であれば、他国より金融緩和する大義名分はある。通貨安競争は必ずしも悪いことでないが、それに加わらず、円高とデフレを放置しておく方が、国民経済にとって罪悪だ。デフレ脱却とともに円高を吹き飛ばすために、日銀は金融緩和が必要なのだ。しかも、出遅れた分、日本は金融緩和競争に勝てるチャンスも大きい。

 このように簡単にできる政策があり、他国でもやっているのに、「日本では対応できない」といって、今は実質実効レートでみれば円高でないとか、円高は不可避だからそれに耐えるための競争力を考えよとか、というのは、まともな政策対応ではない。

 そういった人たちは、日銀の「包括的緩和」についても理解が不十分だ。「緩和」には、過去より通貨が増えるという日本基準と、他国通貨より相対的に増えるという国際基準がある。  日銀の包括的「緩和」というのは日本基準での「緩和」でしかない。国際基準で「緩和」になっていないのは円安にならなかったことで明らかだ

 企業、特に輸出関連の中小企業にとって、円高は死活問題だ。しかも、ここの企業では何もできない。対応できるのは日銀だけ。その無策ぶりは大きく国益を損ねている

通貨問題は経済ロジックと国際政治のダイナミズム

 国際通貨問題は、このような国際経済ロジックの上に、国際政治が組み合わさるダイナミックな話だ。

 今の基軸通貨はドルだ。それは各国の外貨準備の構成割合をみても明らかである。

 米国はドルをどんどん増発すると、目先は景気回復に役立つ。しかし、増発しすぎると、国内がインフレになる。それゆえ、前回のFOMCでは、インフレ目標が議論されたようだ。ちょっと横道にそれるが、インフレ目標は日、米以外の先進国で採用されている。日本がその採用に熱心でないのは、どう考えても日銀の責任回避であり、いよいよ日銀は追い込まれた状況だ。

 米国では、明示的なインフレ目標はないが、予測として公表されている1.7~2%程度が事実上目標とされている。日本のように、実際のインフレ率をマイナスのまま10年も放置している国とはちがう、しかし、明示的なインフレ目標になれば、基軸通貨の垂れ流し批判にも応えることになる。遅かれ早かれそうなるだろう。

しかし、国際政治の立場からは、ドル垂れ流しにみえる国際通貨体制は危う。そうなると、通貨第二位の地位にあるユーロが、今週末のG20あたりから、仕掛けてくることがありえる。基軸通貨の立場は、発行国にとって計り知れないメリットがあり、ユーロはそれを虎視眈々にねらっているはずだ。

 現に、フランスのサルコジ大統領は、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)を活用してドルに代わる仕組み作りを中国にも持ちかけている。ともにアメリカ一極体制にくさびを打ち込みたいユーロが中国と組む、ということは十分ありうる

日本に残された秘策は「10兆円の国債買い入れ償却」

 一方、日本は、こうした世界戦略レベルの話に入る前に、一国だけ金融緩和を行わず、近隣窮乏化ならず、「自国窮乏化」という慈善事業にいそしみ、国力を損なった。せめて、他国と同じだけの金融緩和によって国力を温存し、来るべき国際通貨戦略に打って出るべきだった。

 こうした中で、G20を迎える。金融緩和が不十分な中で、国際会議の前で為替介入がしにくい状態だ。今のところの国際ルールは、「金融緩和による通貨安はよいが、為替介入による通貨安はダメ」だから、国際会議の前後、日本は通貨アタックを受けやすい。

 もちろん、日本政府にもまだ残された手がある。財務省の国債整理基金による10兆円超の国債の買い入れ償却だ。これは、日銀の金融緩和でもなく、財務省の為替介入でもない。今の法令上認められた手段であり、財務相が判断すればできる措置である。

 しかし、今の政権はそこまで知恵が回らないだろう。となると、円ドルレートは、史上最高高値を更新しても、まったく驚く状況でない。

→「金融緩和による通貨安はよいが、為替介入による通貨安はダメ」なのに、ダメなことしかやろうとしないのは、なぜ?