金融緩和:目を凝らして「実質」ゼロ金利政策の「実質」をみてみると | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

金融緩和:目を凝らして「実質」ゼロ金利政策の「実質」をみてみると

秘書です。
日銀は日銀で独立して判断し、国会は国会で判断します。


■第1印象はサプライズ、目を凝らすと懐疑-日銀は為替次第で一段緩和
10月6日(ブルームバーグ):日本銀行が思い切った金融緩和に踏み切った。新型オペの拡大程度にとどまると予想していた市場からはサプライズと評価する声が多いが、よく目を凝らして見ると、これまでの金融緩和の延長線に過ぎないという辛口の評価も出ている。11月上旬に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)次第で円高が進行すれば、日銀は再び追加緩和に追い込まれる可能性もある。

  日銀は5日開いた金融政策決定会合で、政策金利を「0-0.1%程度」とすることを全員一致で決定。「物価の安定」が展望できる情勢になるまで実質ゼロ金利政策を継続することを宣言した。さらに、国債、コマーシャルペーパー(CP)、社債、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)など金融資産を買い入れる5兆円規模の基金創設を検討することを表明した。

  マネックス証券の村上尚己チーフエコノミストは「事前の市場予想を大きく上回る政策対応となった。かなり評価できる」という。日銀の追加緩和を受けて、円相場は一時1ドル=84円近くまで下落。日経平均株価は前日比137円70銭高の9518円76銭に上昇した。

  白川方明総裁が会合後の会見で、量的緩和と信用緩和の両方の側面を併せ持つと自賛した措置は、①政策金利引き下げ②一定の条件を満たすまでゼロ金利政策を維持する時間軸③リスク資産購入-の3つの政策が柱。アール・ビー・エス証券の福永顕人チーフ債券ストラテジストは日銀の決定について「市場が期待するほどの積極緩和をしないという市場の印象を払しょくするものとなった」と評価する。

            懐疑論に3つの理由

  海江田万里経済財政担当相は5日午後、内閣府で記者団に対し、「政府の対策と機動的に連携しながら、こういう措置を取ったことは時宜にかなったことで、高く評価したい」と手放しで称賛した。こうした評価の声が上がる一方で、金融市場からは冷めた声も出ている。

  野村証券の松沢中チーフストラテジストは「市場予想を超える緩和だが、見かけほど強力ではない」と指摘する。こうした声が出る理由は3つの政策のそれぞれにある。まず、政策金利を「0.1%程度」から「0-0.1%程度」に変更したが、無担保コール翌日物金利の事実上の下限をなしてきた補完当座預金制度の適用金利、いわゆる付利金利を「0.1%」に維持したことだ

  松沢氏は「今年春以降、資金供給オペの拡大に伴い、翌日物金利が0.1%を下回る日が多くなっている」と指摘。「今後の日銀の金融調節次第で、単に事実の追認に終わる可能性もある」と指摘する。実際、白川総裁は「翌日物金利の一時的な下振れを明示的に許容する」としながらも、「低下し過ぎるとかえってマイナスの可能性がある」として、積極的に0%まで押し下げる考えがないことを示した

          1%になるまで継続か

  次が時間軸。日銀は「物価の安定」が展望できる情勢になるまで実質ゼロ金利政策を継続すると表明。「物価の安定」を「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、委員の大勢は1%程度を中心と考えている」としていることから、消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)前年比上昇率が1%になるまで日銀がゼロ金利を続けるとの思惑が市場の一部に出ているが、これは誤りだ

  白川総裁はゼロ金利脱却の時期について、足元の物価の数値で判断するのかとの質問に対し、「もちろん足元の数字ではない。金融政策の効果にはラグ(時間差)があるので、先々の経済、物価の姿を想定し、見通しとの比較で金融政策を考えていく」と述べ、必ずしも足元の数値にこだわらない姿勢を明確にした。

  極端に言えば、来年10月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)で3年後の物価上昇率の見通しが1%に届いていれば、物価の安定を展望できる情勢になったと判断することも可能になる。「金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、問題が生じていないことを条件」とする例外規定も設けており、日銀の裁量の余地は大きい。

        ETFとREITは5000億円程度

  みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「物価の安定が『確認された』ではなく、『展望できる』情勢というのが今回提示された条件だ。その効果はどうしても限られてくる」と指摘。「今回の『時間軸』明確化は、市場が既に織り込んでいる今後長きにわたる超低金利政策の継続という金利観を補強するものではあるが、一段と強める効果を有するものではないだろう」という。

  最後が資産買い入れ基金。総額5兆円程度としているが、長期国債と国庫短期証券(TB)が3.5兆円と太宗を占めており、しかも長期国債の残存期間は1-2年と短い。CPや社債など民間のリスク資産は1兆円で、今回の追加緩和の最大の目玉と目され、日銀が今回初めて購入対象とするETFとREITは5000億円に過ぎない

  伊藤忠商事の丸山義正主任研究員は「日銀が株式や不動産を原資産とする市場性商品まで含めた金融資産の購入に踏み出したという点において、日銀の経済浮揚・デフレ脱却に向けた覚悟を示すものとして重要」としながらも、その効果について「現段階では未知数と言わざるを得ない」と指摘する。こうした見方を反映してか、いったん円安に振れた為替相場は再び円高方向に振れている。

          どこまで途方もなく続くのか

  ドイツ証券の安達誠司シニアエコノミストは「11月2、3日のFOMCの結果次第では再び円高が加速するリスクもあり、もしそうなれば基金の規模拡大の政治的圧力が高まる可能性がある」と指摘する。実際、白川総裁は「必要があると思えば規模を拡大することも考えている」と述べ、一段の規模拡大に含みを持たせた。

  松沢氏は「打ち出の小づちのように今後折に触れ基金追加を求める声が出てこよう」という。第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミストは「随分と思い切った対応というのが第一印象」であり、同時に「どこまでこの緩和政策は途方もなく先まで続くのだろうかという感覚がよぎった」と、日本経済の行く末に一抹の不安を感じている。



(1)またしても、物価の安定の「確認」ではなく「展望」できるという、フォワードルッキングな政策をやるんですね。フォワードルッキングの展望がはずれたときの責任はどうとるのでしょう。だいたい、グローバル化した今日の経済で、日銀がなぜフォワードルッキングな展望が可能なのでしょうか。2006年、2007年のフォワードルッキングな展望に基づく政策転換の総括はどうなっているのでしょうか。

(2)5000億円で物価がプラスになるというのはどんなロジックなんでしょう。なんで「兵力の逐次投入」をやるのでしょう。TOO LITTLE TOO LATE の決断しかできないというのは、民族性の問題なのか、教育の問題なのか、日銀法の問題なのか。

(3)なぜ「政治的圧力」や「一抹の不安」がでてくるのでしょう?それは日銀が、いつまでにどうしたいのかというコミットメントをしていないからです。つまり期限付きの目標値です。期限付き目標値については、たくさんの批判があります。いわゆる、インフレ目標について、勉強しましょう。


第7回:インフレ目標政策への批判に答える
http://www.rieti.go.jp/jp/special/policy_discussion/07.html
コンサルティングフェロー 高橋洋一
[要旨]
(1) インフレ目標政策は、ほとんどの先進国で採用されている標準的な金融政策の枠組である。日本はOECD諸国で唯一のデフレに陥っている国である。インフレ目標政策は、インフレを押さえるばかりか、デフレを克服しデフレに陥らせない効果もあり、デフレ対策として望ましい。
(2) インフレ目標政策には、効果がないという批判があるが、通貨発行増による金融緩和は同時に通貨発行益をもたらし、その支出効果を考えると、必ず物価は上昇する。一方、インフレ目標政策は、逆に物価上昇に歯止めがかからないという批判もある。そうならないように金融引締めを行えばよく、インフレ目標採用国でハイパーインフレになった国はない。
(3) インフレ目標政策によって、名目長期金利が上昇しバランスシートが毀損されるという批判もある。しかし、過剰な現金があるときはすぐには長期名目金利は上昇しない。大恐慌からの回復期でも長期名目金利は上昇しなかった。

■はじめに

インフレ目標政策は、米国と日本以外の先進国で採用されている標準的な金融政策の枠組である。ニュージーランド、カナダ、イギリス、スウェーデン、フィンランド、オーストラリア、スペイン、韓国、チェコ、ハンガリー等の国のほか、欧州通貨制度加盟国については、ECB(欧州中央銀行)がインフレ目標を採用しているため、全てがインフレ目標政策の採用国といえる。なお、アメリカは事実上雇用とインフレの両方に対してFRB(米連邦準備理事会)が責任を負っているので、インフレ目標のみを掲げることができないという事情がある。
ところが、インフレ目標政策について、日本では信じがたいほどの反対論がある。そこで、筆者は岩田規久男氏らとともに『まずデフレをとめよ』(日本経済新聞社)を書き、デフレの克服に有効であることを示した。同書では、大恐慌のリフレ政策にも言及しており、是非ご覧いただきたい。

■インフレ目標に対する批判

インフレ目標政策については日本で次のような批判がある。
1.インフレ目標政策はデフレ(持続的な物価下落)を克服できない《無効論タイプ》
a.デフレは中国などからの輸入のためであり日本では対処できない【輸入デフレ論】
b.効果の波及メカニズムがない【波及メカニズム論】
c.実績・実例がない【実例論】
2.インフレ目標政策には副作用がある《弊害論タイプ》
d.インフレはコントロールできずハイパーインフレになる【ハイパーインフレ論】
e.名目金利が上昇し金融機関や日銀のバランスシートを毀損させる【金利上昇論】
f.財政規律を弱める【財政規律論】
g.構造改革が阻害される【改革阻害論】

これらの批判の特徴は、しばしば同一人物が、互いに矛盾しがちな無効論タイプと弊害論タイプを同時に主張することである。インフレ目標政策を無効であるといいつつ、突然ハイパーインフレをもたらすという人もいる。また、これらには、名目値と実質値が区別されていないものが多い。素朴にインフレは悪、物価は安い方がいいという「庶民感覚」によるものもある(かつて「よいデフレ論」もあったが、最近は聞かれなくなった)。
さらに、金利・債券に従事するボンド・トレーダーなどの金融・市場関係者の間でも反対論が強い。彼らがインフレ目標政策に反対する理由は、インフレ目標政策が採用されると名目長期金利が上昇(フィッシャー効果)し保有債券の評価損が生じると信じられているからである。

■インフレ目標に対する批判への答え

これらの批判に対する筆者の答えは以下のとおりである。

a.デフレは中国などからの輸入のためであり日本では対処できない?【輸入デフレ論】

最近、OECD諸国で中国からの輸入の対GDP比率はどの国でも上昇しているが、デフレになっているのは日本だけである。
さらに、直近時にOECD諸国で中国からの輸入の対GDP比率が日本より大きいのは、韓国、ニュージーランド、チェコ、ハンガリーであるが、いずれの国もデフレでない。また、最近、中国からの対GDP比率の上昇幅が日本より大きい国は、ニュージーランド、韓国、カナダであるが、いずれもデフレでない。なお、注目すべきは、これらの国はいずれもインフレ目標政策を採用していることだ。
しばしば、香港がデフレであるという反論がある。しかし、香港は、カレンシーボードという為替相場制度をとっている。この制度では、香港ドルを固定平価によって米国ドルに完全に釘付けし、香港ドルの発行量は受動的に外貨準備高の範囲内になる。この政策の下では、アジア危機のような経済ショックがあると、自国の相対価格を低下させるようなデフレが生じる。デフレがすぐに解消できないのはカレンシーボードによって自前の金融政策を放棄しているからだ。
これらの事実から、中国からの輸入とデフレの関係はないが、仮にあったとしてもインフレ目標政策で克服できる。

b.効果の波及メカニズムがない?【波及メカニズム論】

モノの価格とマネーの関係は単純である。世の中のモノが増えればその価格は下がるが、逆に世の中のマネーが増えればその価値は下がる(=モノの価格が上がる)。これは、ワルラスの法則として知られており、世の中全体でみると、貨幣部門と非貨幣部門は均衡しているが、貨幣部門が超過供給になれば、非貨幣部門(消費財、資産、労働)はその分だけ超過需要になる。このメカニズムをみると、貨幣部門の超過供給は、広義の政府部門(政府と日銀)の通貨発行益を生み、それが、非貨幣部門の超過需要となっている。つまり、政府・中央銀行(広義の政府)が通貨を発行すれば、ほぼその残高に等しい通貨発行益が生じてそれが有効需要を創出するのでモノの価格が上がるわけだ。
GDPギャップがどの程度あるかは、いろいろな計算方法があるが、仮に5-6%であるとすれば、ネットで30兆円ほどの通貨発行でよい。政府通貨を発行して財政支出をしてもいいし、中央銀行が市中国債を買入れ政府がそれと同額の国債を発行し財政支出・減税・社会保険料減額をしてもいい(money-financed transfer)。要するに、実務的には広義の政府による通貨発行は財政支出・減税・社会保険料減額と同時に行われる。広義の政府で考えれば(狭義の政府と日銀の政策協定はこのための手段になる)、金融政策と財政政策の区分はあまり意味がない。

c.実績・実例がない?【実例論】

これは事実でない。過去にはスウェーデンの例があり、現在でも、一時的な物価下落に対応したニュージーランド、カナダなどの例がある。スウェーデン、ニュージーランドの例は月例経済報告等に関する関係閣僚会議配布資料 (平成15年1月17日) [PDF:198KB]でも紹介されている。
これらの国では、インフレ目標政策を導入した結果、深刻なデフレに陥らなかったのである。

d.インフレはコントロールできずハイパーインフレになる?【ハイパーインフレ論】

この批判は a.の批判とは逆に、ハイパーインフレになるというものである。まず、ハイパーインフレとは、標準的な定義では年率13000%以上のインフレであり、国として壊滅的な状況で現れる極端な現象であることをまず指摘しておく。しかし、インフレ目標政策では、目標の上限として例えば3%を設定しているから、3%を恒常的に超えるような状況が予想されたり、実際にそうなってしまった場合には、中央銀行は金融引締政策に転ずればよい。実際に、この10年ほどの間に、インフレ目標政策を採用している国で、ハイパーインフレになった国はひとつも存在しない。
さらに、「物価の先物」といえる物価連動国債(これまで日本ではなかったが、2003年度から発行される予定である)から得られる「予想インフレ」情報を活用すれば、インフレ率が高まる可能性をより早く察知することができ、先を読んだ金融政策が行えるだろう。

e.名目金利が上昇し金融機関や日銀のバランスシートを毀損させる?【金利上昇論】

インフレ期待が生じた場合に名目金利が上がるという批判がある。しかし、フィッシャー方程式「名目金利=実質金利+予想インフレ率」において予想インフレ率の上昇分だけ名目金利が上昇するためには完全雇用でなければならず、今のデフレ状況では直ちにフィッシャー効果は実現しない。つまり、現金需要がきわめて旺盛な流動性の罠の状態であれば、現金がじゃぶじゃぶ状態であり、インフレ期待が生じてもそれらの一部が債券購入資金にまわり、債券価格の下支えになって金利はなかなか上昇しないのだ。
これは、景気回復期と後退期でフィッシャー効果が非対称になっているという実証研究からも裏付けられる。さらに、1930年代大恐慌において、米国や日本の歴史事実を見ても、名目金利の上昇は見られなかった(図参照)。
もちろん、市場関係者が理由もなく名目金利が上昇すると信じれば、一時的に上昇する可能性は否定できない。しかし、大量に退蔵されている現金を考えれば、名目金利の上昇はすぐ修正されるだろう。さらに景気回復とともに名目長期金利はいずれ上昇することも忘れてならない。
なお、名目金利の上昇によって日銀のバランスシートの毀損を危惧する向きもあるが、日銀といっても広義の政府の一員であるので、民間企業と同じ意味でバランスシートを気にする必要はない。バランスシートの毀損を心配して金融政策に支障がでたら本末転倒である。

f.財政規律を弱める?【財政規律論】

欧州の国をみても、インフレ目標政策があっても財政規律は日本よりは保たれている。というのは、財政赤字や債務残高を制限する予算制度のルールが存在しているからだ。国際比較研究によれば、日本の財政規律については、そのような予算制度のルールがないことや財務大臣の権限の弱さ等の問題点が指摘されている。財政規律を問題とするなら、先進国では常識になっている予算制度のルールを作成すればよい。
インフレ目標政策を主張する本当の目的は、政府債務の削減にあるという論者もいるが、インフレ目標政策が掲げる年率1-3%程度のインフレ率では、実質的に債務削減に貢献しない。
なお、政府には、デフレ期には通貨発行益による拡張的な政策をとるインセンティブがあるし、それはデフレを是正するためにも合理的である。しかし、人々がこのような政府のインフレ・バイアスを認識している場合、GDP増大にならずインフレだけが実現する危険性もある。インフレ目標政策は、政策についての拘束的なルールを設定することによって、こうした政府のインフレ・バイアスを抑制する役目も持っている。

g.構造改革が阻害される?【改革阻害論】

インフレ目標政策に批判的な論者は、インフレ目標政策ではなく、不良債権処理、特殊法人の民営化や規制改革などの政策を行うべきであると主張する。
しかし、インフレ目標政策とこれらの政策は同時に行うことができる。筆者は、景気の善し悪しにかかわらず、不良債権の処理について会計的な観点から一括して処理しなければ、金融機関経営者は商法違反であると実際の裁判において証言したことがあるし、特殊法人の民営化や規制改革にも異論はない。
なお、ゼロ金利が構造改革を遅らせるという批判もあるが、デフレ下では名目ゼロ金利でも実質でみると高い金利になってすべての主体が等しく負担しており、構造改革でいう停滞産業からも成長産業への資源移転を阻害していない。