金融政策:どれが本当の「人類の英知」? | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

金融政策:どれが本当の「人類の英知」?

秘書です。

国会で日銀総裁が「人類の英知」としたものは、本当に人類の英知なのか、という疑問。

まず、第175回国会閉会後 参議院財政金融委員会(平成二十二年九月九日)における白川日銀総裁の発言をご覧ください。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kaigirok/daily/select0105/main.html

○参考人(白川方明君)・・・現在、世界の多くの国で中央銀行による国債の引受けは禁止されております。これは先進国はもとよりでございますけれども、アジアの金融危機を経て、多くの先進国はこれは中央銀行による国債の引受けを禁止しております。そういう中で日本銀行が国債の引受けを行うということは、世界の多くの国の採用している基本的なルールを今回踏み外すというメッセージを送ることになるように私は思います。
 確かに、最初、国債を引き受けても問題がないように見えるかもしれません。しかし、多くの経験を見てみますと、最初はそうであってもどこかで歯止めが利かなくなる、それが人間の社会の現実でございます。そういう人間の弱さを自覚するがゆえにあらかじめ引受けを禁止するという、そういうものを入れる、これが人類の私は英知だというふうに思います
 それから、国債の消化に今困っているわけではございません。今、民間金融機関は貸出先がなくて、むしろないからこそ国債を買っている、したがって長期金利が下がっているという状況でございます。現状、財源が、国債が市場で消化できないから国債が発行できないという状況の実際に今正反対の極にあるという感じでございます。
 いずれにせよ、日本銀行としては日本銀行という職責をしっかりと果たしていきたいというふうに思っております。

そして、今朝のBloombergの記事をお読みください。


■ECB、国債買い取り額増やす‐欧州の債務危機懸念再燃で
2010年 9月 21日 8:18 JST Bloomberg

 【フランクフルト】欧州中央銀行(ECB)は、ギリシャとアイルランド、ポルトガルなどの債務返済能力をめぐり金融市場で懸念が高まるなか、国債の買い取り額を増やしている

 ECBは欧州の債務危機のさなかの5月、16カ国で構成されるユーロ圏諸国中で債務問題を抱える国の国債買い取りプログラムを開始した。このプログラムにはECBが信頼を醸成するための2つの狙いがあった。ひとつは問題を抱えた国での債務返済能力に対する一般国民の間の信頼醸成。もうひとつはECBがいつでも市場に流動性を提供するとの投資家の信頼醸成

 ECBにとって初の試みである同プログラムについては、ECBの政治からの独立性について疑問を提起するものとの懸念も出ていた。

 トリシェECB総裁は8月、国債買い取りの目的は「金融政策の伝達機能の回復を支援すること」だと述べている

 ECBによる国債買い取り額は、夏季のほとんどの時期に比べると増えているものの、同プログラムが開始された時期に比べるとはるかに少ない。

 ECBは5月以降、国債買い取りに610億ユーロ(約6兆8277億円)を費やしてきたが、債務問題を抱えた諸国の借り入れコストは低下していない。ギリシャとアイルランド、ポルトガル各国の国債利回りとより安全なベンチマークとなるドイツ連邦債利回りとの間のスプレッドは、これまでの最大もしくはそれに匹敵する水準に拡大しており、これらの国にとって資金調達が一段と困難にしている。

 ECBは国債買い取りに先週3億2300万ユーロ費やしたことを明らかにした。これは2週間前の2億3700万ユーロから増加し、8月中旬以来最高水準。ECBは買い入れた国債の国あるいは年限の内訳は明らかにしていない。

 買い取りプログラムが開始された際、ECBはかなり積極的で、最初の週に160億ユーロ以上を買い取った。こうした買い取り額は、夏季を通じて債券市場が安定しユーロ圏経済が回復の兆しをみせるなか減少してきた。8月初めまでに、ECBの買い取り額は1週間に約1000万ユーロ程度に低下し、その際、同プログラムが近く終了するのではないかとの憶測を生んだ。


白川総裁は、トリシェ総裁に「あなたのやり方は人類の英知に反している」とアドバイスしたのでしょうか。

それともトリシェ総裁の「金融政策の伝達機能の回復を支援すること」を目的とする国債買い取りという、欧州の英知のほうが正しい人類の英知なのでしょうか。


■国債引き受け禁止は「人類の英知」=白川日銀総裁が国会で
(2010/09/09-17:55時事通信)
 日銀による国債の直接引き受け禁止は「人類の英知」-。普段は硬い国会答弁の多い白川方明日銀総裁だが、9日の参院財政金融委員会では、日銀の国債引き受けで政府の財政出動を支援すべきだとの議論に対し、異例の文学的な表現でたしなめる場面が見られた。
 中山恭子氏(たちあがれ)への答弁。中山氏は「賢明な政府がしっかり対応すれば、(ハイパーインフレなどの)懸念を払しょくした上でデフレ克服への道が開ける」として、国債引き受けで財源を創出し、社会資本整備を進めることを訴えた。
 これに対し、白川総裁は「多くの経験を見ると、最初は問題がなくてもどこかで歯止めが利かなくなる。それが人間の社会の現実だ」と警告。日銀の国債引き受けを原則として禁じた財政法5条について「人間の弱さを自覚するが故に、あらかじめ引き受けを禁止している」と説明し、理解を求めた。
 日銀は、「百年史」の中で、戦前・戦中の国債引き受けを、政府の財政崩壊を招いた苦い経験から「本行百年の歴史における最大の失敗」と総括している。

「本行百年の歴史における最大の失敗」は、世界で唯一の長期デフレから脱却できない、デフレから脱却しそうになるとデフレを定着化させる金融政策をしていることでしょう?歴史認識が間違えてませんか?

■為替介入の効果は一時的!21日のFOMCと23日の日米首脳会談に要注意せよ
「非不胎化」すら理解していない新聞を読んでもわからない円高の本質
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/1220

民主党代表選のために政府・日銀が無策の間に、円高が急速に進んだ。9月15日、ようやく政府が為替介入し、円高は小休止になった。

しかし、6日の本コラムで示したように、円はほとんどの通貨に対して高くなっている。その原因の8~9割は他国に比べて日銀による通貨供給の相対的な不足である。

 そのため、政府による為替介入は、為替市場の需給関係を直して一時的な円高ストップになるが、日銀による通貨供給が他国の中央銀行に比べて増加しないと、再び円高になるだろう。

 そのタイミングがいつかを予想することは難しいが、何かのイベントを契機に顕在化する可能性は高い。その意味で、今週、注目すべきなのは、21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)と23日の日米首脳会談だ。

 21日は、11月2日投票の米中間選挙前では最後のFOMCである。政策変更は今のところないともいわれているが、もしバーナンキFRB(連邦準備理事会)議長が米経済の先行きに懸念を示したり、少しでも金融緩和の方向へのサインを示すと、再び円高になるというシナリオもありえる。

基本的なことを間違えている新聞報道
 23日の日米首脳会談は、菅改造内閣のスタートであり、普天間だけに問題が集中せず広い範囲の話になるだろう。となると、円高問題も出てくる可能性がある。

 米国は為替介入に敏感な国だ。米政府は冷静に対処しているが、米議会は日本の為替介入に不満を持っている。中国に対しても批判的である以上、日本にも同じスタンスになる。さらに中間選挙で共和党優勢になると予想されているので、オバマ政権としても議会の感情をある程度は菅政権に伝えるかもしれない。となると、日本政府による為替介入には制約ができることも考えられる。その場合、やはり円高基調にもどる可能性がある。

 そんな目を離せない状況の中、15日の為替介入が6年半ぶりだったこともあり、先週は各新聞にいろいろな解説記事がでた。ところが、どれも基本的なところで誤りがある。たとえば「非不胎化」という言葉も再三、紙上に出てきたが、どの記事も消化不良だった。

そもそも「非不胎化」という日本語は、「非」と「不」の二重否定が「胎化」に被さっており、こなれていない。もともと「不胎化」は、sterilizeの経済学での訳語だ。sterilizeとは、無力化するとか無効化するという意味である。「非不胎化」は、その否定でunsterilizeの訳だ。

 これらの英語で議論されていたころは、固定相場制が当たり前であり、いずこの政府も中央銀行の資金を使って、為替介入をしていた。

 具体的には、自国通貨を発行して外貨債を購入したり、自国通貨を回収して外貨債を売却したりしていた。例えば外貨買い介入のために自国通貨を出せば、自国資金需給は緩み、金利が低くなり最終的にはインフレが進む。この意味で、その当時為替介入は金融政策と完全にリンクしていた。

 その場合、為替介入しても、自国の資金需給が変化しないようにするためには、中央銀行が「無効化する」ことが必要だった。それをsterilizeといったわけだ。中央銀行が何もしなければ、資金需給が変化するが、それをunsterilizeといった。

突出する日本の外貨準備高
 その後、先進国では、政府と中央銀行の分離が進み、1973年に変動相場制に移行。政府による為替介入はほとんどみられなくなった。国際金融のトリレンマにより、固定相場制、独立した金融政策、自由な資本移動のうち同時に二つしか実現できないので、固定相場制をあきらめざるを得ないのだ。しかし、それは金融政策によってある程度の為替の動きをスムーズにできるという話でもある。

 ただ、日本はかつて「ダーティフロート」とかいわれ、介入を行う唯一の先進国であった。それは為替介入の結果である外貨準備額が先進国で突出していることからもわかる。

 しかも、1999年まで、政府による為替介入の原資になる外為証券は、事実上全額日銀引受であった。このため、政府による為替介入は自動的に日銀信用増となって、原始的な通貨増と同じである。

 ところが、2000年から外為証券は市中公募となって、日銀信用増にはならない。この意味では、今の日本は、日銀が何もしなければ、「不胎化」、sterilizeとなる。政府にとっては、外為特会で一種の国債を発行して外貨債を購入する、いわば「円キャリーファンド」だ。そのオペレーションに日銀を使っているだけで勘定は、政府の外為特別会計である。金融政策に影響のある日銀の勘定は無関係だ。

 この点、19日の日経新聞は、為替介入で「財務省が日銀から円資金を借り」と書いており、事実関係として間違っている。このため、その後の記述もちぐはぐになっている。

さらに、日銀は「非不胎化」したと報道しているが、日々の取引での資金需給だけでみるのは早計だ。日銀が政策として金融緩和するかどうかは、日々のオペをする日銀事務方では判断できず、政策決定会合で決めるべき案件である。そのような重要な決定を、日銀事務方が政策決定会合の前に事実上行っていたとしたら、その方が問題であろう。

 6日のコラムで示したように、日銀による通貨増がなければ、円高は直らない。その意味で、「非不胎化」が重要である。しかし、その言葉の意味は、政府による為替介入とは無関係な、日銀による金融緩和ということにほかならない

 円高の要因は、19日の日経新聞が報じるような「米国経済の減速懸念が主因」ではない。円はほとんどすべての通貨に対して高くなっている。何より日本経済は世界の中でもっとも二番底の可能性が高い(OECD=経済開発協力機構のガリア事務総長)からだ。

 それも、日銀による通貨増の不足で、他国通貨に対して高く(円高)、自国財・サービスに対しても高く(つまりデフレ)となっている。デフレと円高はコインの裏表の関係なのである