国債発行額:会計操作で公約達成? | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

国債発行額:会計操作で公約達成?

秘書です。
財政再建について学習しましょう。


■「国債発行額のマニフェスト盛り込み」が政府に好都合な理由
実は会計操作で公約達成も可能

2010年05月17日 高橋洋一「ニュースの深層」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/571

 マニフェストに何を書くかは、きわめて高度な政治判断が必要である。その点、新規国債発行額の抑制は政権にとって好都合である。

 第一に、マニフェストは国民に受けなければいけない。新規国債発行額抑制は、財政健全化への姿勢を示すことができるので、ばらまきの放漫財政でないまじめイメージを与えられる。

 財政健全化というと、歳出カットか歳入増加しか手段がないが、利害関係が大きい個別項目の歳出カットや増税を言わなくてもすむので、マイナス面も少ない。

 第二に、マニフェストを実行できないリスクが少ない。マニフェストに書きながら、できなかったことを考えるのは、不謹慎かもしれないが、政治とはそういうものだ。一般的な戦略論からいっても、マニフェストのプラス面と実行できなかった場合のマイナス面の両方を考慮すべきである。この点において、新規国債発行額抑制はとても便利だ。

 仮に実行できなくても、それがわかるのは、今年の年末の政府予算案ができたときだ。予算案の公表のときには、もちろん新規国債発行額が明記されるが、一方で個別の予算歳出項目が多数ある。国民にとって関心の深いのは個別項目の歳出面であり、マスコミもそちらへと関心が向く。

 また、新規国債発行額が公約どおりに守れなかったとしても、そのダメージは少ない。というのは、経済状況はその時々で変化するので、経済政策の場合、公約どおりにしなくてもその理由を説明できるときがある。

 例えば、小泉純一郎総理は「30兆円枠を守る」といったが、政権運営2年目以降は30兆円を突破した。国会で公約違反を追及されると「この程度の公約を守れなかったことは大したことではない」と答弁した。これは、公約を杓子定規で守って国民生活が悪くなっては元も子もないという意味だ。この意味で、民主党が新規国債発行額の抑制に言及したのは、政治的には前例があり、もしできなくても自民党からの追求はできないという読みがある。

 さらに、重要なのは、新規国債発行額自体、ある程度会計操作できる数字であり、もし本当に破ることが政治的にも大変になれば、会計操作で公約達成は容易なのだ


そのからくりは以下のとおりだ。2010年度予算は歳出92.3兆円、租税など歳入48兆円、新規国債44.3兆円である。ここで、歳出92.3兆円は、国債費20.6兆円、地方交付税等17.5兆円、一般歳出等54.2兆円である。ここで曲者は国債費だ。普通の人は、利払費は削減できないので、これは切れないと信じ込んであるだろう。

 たしかに、利払費をカットしたら、それこそ日本国の破綻宣言になるので、できないのはたしかだ。しかし、国債費20.6兆円のうち利払費は9.7兆円で、残り10.9兆円は債務償還費というものだ。

 これは、債務償還のために一時的に政府内に積み立てておく資金だ。一方で、政府は債務償還のために借換債を発行できる。実際、債務償還のためには借換債で対応している。一般会計の債務償還費は、借金を返すためにさらに借金を増やすという「賢くない手法」だ。

 そのため、先進国では、とうの昔になくなっている手法だが、日本ではいまだにこの時代遅れの手法を続けている。


このため、一般会計では債務償還費10.9兆円の計上は必要ない。要するに、今年度の新規国債発行額44.3兆円は10.9兆円嵩上げされている数字で、35.4兆円でも支障はなかった。もし35.4兆円であったら、まず政府内の国債整理基金特別会計にある償還資金12兆円が取り崩され、その後は借換債が余計に発行されるだけだ。

 誰にも迷惑がでないので、そうなっても誰も気がつかないだろう。

 これで、わかると思うが、来年度予算の新規国債発行額を44.3兆円以下にするのは極めて簡単だ。ちなみに、こうした会計手法で新規国債発行額を減らしたこともある。前財務相の藤井裕久氏が細川政権の時1994年度予算編成で使ったことがある。

 さすがに、藤井財務相時代の今年度予算では使えなかったが、菅直人副総理兼財務相に人が変わったので、財務省がこの手法を菅財務相に「食わせた」のだろう。

(追記)
先週のコラム(菅財務相も騙される「ギリシャ問題」に悪のりした増税キャンペーン)でギリシャ問題を書き、その直後に勝間和代さんと対談した。

 その場で、ギリシャがユーロに参加したことが適切でなかったといった。参加したときに統計データを改竄していることも問題であるが、経済学を使っても最適通貨圏の理論からみると適切でないからである。

 最適通貨圏の理論とは、経済学者マンデル(1999年度ノーベル経済学賞受賞)がいったもので、ユーロのような同一通貨を使用するための条件を明らかにしている。それによれば、ユーロ地域と自国の経済変動が同じようであればいいが、それが異なる場合には、自国の財・労働市場など経済構造が柔軟でユーロ地域の経済変動を吸収できればいい。

それを示したのが下図だ。横軸にユーロ市場との連動を描き、赤い縦実線の右は適格だ。左に行くほどユーロ市場と連動性がなくなるので、柔軟性が求められる。赤い斜め破線の上なら適格だ。となると、ギリシャは不適格になる。ギリシャはかなり構造改革して、市場の柔軟性が増さないと、再び問題となりうる。


(※図表は本文をご覧ください)