国民ひとりひとりの生きざまとして成長戦略を考えよう(中川語録) | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

国民ひとりひとりの生きざまとして成長戦略を考えよう(中川語録)


今日の日経新聞の「核心」で岡部直明・本社主幹は、2010年の日本は『新衰退国家』への道に足を踏み入れるか、デフレを克服し新たな成長の突破口を見出すかの重大な岐路を迎える、と書いている。

企業が物価下落に対して賃金引き下げで対応する気配を感ずる。そのようなことが本格化すれば、本物のデフレスパイラルがはじまる危険が迫っているように思う。

岡部氏も指摘している通り、ポイントは「企業家精神」であるが、「デフレ期待が高まれば実質金利が高まり、意図せざる引き締め政策になる」との元日銀副総裁の岩田一政経済社会総合研究所長の警告を当局の責任者は重く受け止めて頂きたい。

私は、農業を産業ではなく社会政策に位置づけ、また、終身雇用を金科玉条とする民主党には真の成長戦略は不可能であると考える。前政権と大きく変わらぬ内容で実質成長率2%という小泉政権で実現できたことを上回る目標を提示できないことがその証左である。

真の問題は、鳩山政権がいうようなリーダーシップの問題ではないし、成長戦略の各論の問題でもない。それは国民ひとりひとりの生きざまに関する根本的なところにある。

雇用を創造し生活水準を向上させるのは、ロマンをもってリスクに立ち向かい新しい結合をもたらす起業家なのであるが、日本社会はその起業家を「根絶やし」にする方向に進んできているのではないか。

日本経済は、シュンペーターがいうような、資本主義が成功したがゆえに衰退していく過程にあり、鳩山民主党政権はその最終段階にいるのではないか。

高度経済成長期の日本には、子供をいい大学、いい会社あるいは役所に入れるための教育ブームがあったが、その目的は「安定」だったのではないか。

受験競争の勝ち組が最大の価値観を「安定」とする社会は活力を維持できるだろうか。地域の最も優秀な人材が役所に勤める地域社会は活力が維持できるだろうか。

米国では最も優秀な人材は起業するといわれている。日本の若者も、親の世代の価値観とは異なり、起業を志向するようになっているようだ。女性の起業家が増えていることも未来への希望である。彼ら、彼女らの存在こそ、日本はもう成長できない、ほしいものはない、という安定を手に入れた勝ち組の中高年の成長限界説に対する確かな反証である。

世の中には解決されなければならない生活課題はたくさんある。それはビジネスチャンスである。新しい発想、新しい出会い、新しいチャレンジが価値を生み、生活水準をあげ、結果として、経済を成長させる。

こうした起業努力を応援するのか、それとも、新規参入者への嫉妬から妨害したり、性別での偏見でチャンスを奪ったりするのか。そこが問われている。

つまり、成長戦略は、ひとりひとりの人生観・価値観の問題である。若いみなさんにとっては、今後のライフプランの話である。

日本はもう成長できないという人々こそ、人生の安定を手に入れた究極の勝ち組で、これから起業する意欲のある人々の気持ちのわからない人々である。こういう人々に政策を任せていていいのか。それが「新衰退国家」となるかどうかに重要なポイントである。

私は一昨年、『官僚国家の崩壊』という本を書いたが、これは官僚のみなさんをたたくための本ではない。最も優秀なエリートが「安定」志向に走ることが日本の衰退につながることへの問題提起の本である。

みなさんにお子さん、お孫さんがいらしたら、坂の上の雲に「安定」を求めよというのか。それは、子供に白襷をかけて「安定」という名の203高地をめざせ、ということに等しいのではないか。そして、経済成長率に比例する年金の運用益はゼロに近くていい、といっているのと同じではないか。

真の成長戦略は政府が実現できるものではない。国民ひとりひとりのライフプランにある。このライフプランの妨げになるような政策・制度・政治を変えることこそが、真の成長戦略なのである。

成長戦略は他人事ではない。「新衰退国家」に向かおうとも、それでもなお自分一人、わが子一人の「安定」を求めるのか。ひとりひとりの生きざまの問題である。その原点から、今年の政治の議論をはじめよう。

1月4日記 中川秀直