緩やかな崩落過程 | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

緩やかな崩落過程

秘書です。下の引用記事、アンダーラインをひくところがとてもたくさんな名文です!

■鳩山政権は緩やかな崩落過程に 統治能力が疑われる普天間問題
(12月14日毎日新聞)
 ◇古賀攻(こが・こう=毎日新聞政治部編集委員)
 国民に「格差の是正」を訴えてきた「友愛」の騎士が、実母からの湯水のごとき資金提供に「驚いている」と他人事のようにのたまうのは笑止千万、滑稽そのものだ
 華麗なる閨閥がもたらした巨万の富に支えられながら、カネの出所に無頓着でいられる人物の存在を、格差と呼ばずして何と呼ぶのか。
 世間には「汚いカネに手を出したわけではないから」との同情論もある。しかし、国民が政党に年間300億円超もの税金(政党交付金)を出しているのは、政治資金の透明化と引き換えであったことを忘れてはならない。カネの清濁にかかわらず、政治資金規正法の精神を理解できないのなら民主党は即刻、交付金を国庫に返納すべきである。
 ◇オバマにすれば「鳩山が嘘をついた」
 100日間のハネムーン期限を待たずして空気は一変した。鳩山由紀夫政権は、国民に官僚叩きの快感を味わわせた  「事業仕分け劇場」の終了(11月末)をもって、緩やかな崩落過程に入ったと見るべきだろう。  
 政治資金スキャンダルだけではない。景気の2番底が迫るなかでの予算編成や、2010年1月からの通常国会を通じて、政権へのストレスは格段に高まる。その圧迫に耐え得るだけの知力も体力も決定的に不足していると思われるからだ。
 とりわけ鳩山政権の統治能力不足を見せつけたのが、沖縄県宜野湾市の中心部を占拠する米軍普天間飛行場の移設案件だった。
 鳩山首相は「時間をかければかけるほど解決が難しくなる」と自ら表明しておきながら、党首選を目前に控えた福島瑞穂社民党党首が「重大な決意」を振りかざすと、慌てふためいて「越年決着」へと舵を切った。そして今さらのように「名護市辺野古以外の候補地はないのか」と、岡田克也外相や北沢俊美防衛相に対案の検討を指示したのである。
 社民党は参院にわずか5議席しかない少数党だ。しかし、この5議席なくして民主党は参院で過半数を確保できない。同じく参院5議席の国民新党も発言権確保を狙って社民党に同調したため、首相は連立維持を最優先して米国を裏切った
 調整に翻弄された外務官僚が事態の深刻さをこう解説する。
 「オバマ大統領にすれば『鳩山が嘘をついた』ということになる。首相は『私を信用してほしい』と伝えたのだから、大統領との阿吽の呼吸を破ったのは確かだ。米国は表立って厳しいことは言わないだろうが、首脳同士の信頼関係はなくなった。これから日本外交の多方面に影響が出てくるのは避けられない」 
 社民党の党首選がこの時期に予定され、党内の沖縄県選出議員から突き上げが強まるのは初めから分かっていたことだ。しかも、鳩山首相は12月上旬に辺野古への移設方針を正式に表明しようとしていたとの有力情報もある。ならば、綿密な根回しに動くのがプロというものだ。
 ところが、結果として判明したのは平野博文官房長官をはじめ首相周辺の誰1人として汚れ役を担い、必要な合意形成に努める「アヒルの水かき」をやっていなかったという事実だ。小沢一郎民主党幹事長も、突き放したように静観を決め込んだ。
13年前、普天間返還で米側と合意した故橋本龍太郎元首相の首席秘書官を務めた江田憲司衆院議員(みんなの党)は、メールマガジンで怒りを綴っている。
   「普天間返還が、鳩山政権の口先だけの、机上だけの、パフォーマンス政治で台無しにされようとしている。最も致命的なことは、この政権で誰一人、当時のように血ヘドを吐き、地べたをはいずり回るような調整もせず、沖縄の声にも真摯に向き合わず、やれ『県外だ、国外だ』『いや嘉手納への移転だ』と『ほざいている』だけのところだ」 
 首相の執務室には、毎日のように寺島実郎・日本総合研究所会長からファクスが届くそうだ。首相官邸では  「寺島メモ」  と呼ばれている。寺島氏は、首相と同じ1947年生まれで、かつ首相の選挙区のある北海道出身。リベラルの立場から「対等な日米同盟」を唱えてきた。このメモを仲介しているのは寺島氏の紹介で住友銀行(現三井住友銀行)のシカゴ支店長代理から民主党職員に転身した須川清司氏。外交が専門の須川氏は現在、内閣官房専門調査員として官邸で勤務している。
 外務省や防衛省は  「寺島-須川ライン」 が首相の外交判断に大きな影響を及ぼしていると見ている。官僚機構が「日米関係が危ない」とどんなにアラームを発しても、聞く耳を持とうとせず、懸案を先送りするのが「政治主導」の実態である。
 ◇「心が折れたのでは」と質問された首相
 社民党が普天間について「県内移設阻止」を党是としている以上、決着は10年夏の参院選後までずれ込む可能性が高くなってきた。
 ただ、これは民主党が単独過半数を得て、社民党との連立を解消できた場合の話だ。しかも、10年1月の名護市長選で受け入れ反対派の市長が誕生したら、参院選後に「やっぱり辺野古でお願いします」と言っても通らないだろう。首相の判断は普天間の固定化に道を拓いている
 米国は今なお国際政治での巨大パワーだ。対米関係を適切にマネージできないと日本の政権が不安定化することは、過去の歴史が教えている。鈴木善幸内閣しかり、細川護熙内閣しかりだ。日米協調は、太平洋を挟んで米国と向き合う日本の地政学的な宿命であり、安易な対米自立論は日本を破滅に導く危険がある。
 10年度の予算編成は、切り立った崖を登るような作業になる。30兆円台が確実の税収見通しでマニフェスト(政権公約)をどう実現するのか。事業仕分けの結果を機械的に反映させたら、景気を傷めかねない。辻褄の合わないことが、一度に噴出してくる。虚偽献金、普天間、矛盾した予算を抱えて鳩山政権が通常国会を乗り切れるとは考えにくい。崩落過程に入ったとはそういうことだ
 11月30日の参院本会議で首相は、実母からの資金提供について「違法な子ども手当だ」と自民党議員に指弾され、狼狽の表情を浮かべた。記者団との珍妙なやり取りがあったのは、翌12月1日朝だ。
 記者「最近、総理の元気がなくて心が折れたと心配する声があるが」
 首相「全然折れてはおりません」
 トップリーダーの心が折れたかどうかが平然と話題になる状況に、日本は置かれている。

(獅子16)トップリーダーには、複数のルートからの情報が入ることが大事だといわれています。公式ルート以外の非公式ルートがあることも、とても大事。しかし、「もう一つの非公式ルート」が「ただ一つのルート」になることは極めて危険です。佐藤政権のときの非公式ルートは沖縄返還におおいに寄与しました。鳩山政権の「寺島-須川ライン」といわれるものが存在するとすれば、それはどのように機能するのでしょうか。日本の崩落過程を加速するのでしょうか。どのように、だれが結果責任をとるのでしょうか。

崩落過程が緩やかなのは、問題を先送りしているから。55年体制下で問題を先送りしてうまくいったのは、基本的には経済が成長していて、税収がどんどんのびて、政府がカネで問題を解決できたから。そして、問題処理に必要な金額の対GDP比は、GDPが拡大する中では放置しておけばその比率はどんどん小さくなっていったっから。しかし、いまは問題処理に必要な額のGDP比はデフレのもとではどんどん比重が大きくなります。なんといっても今の日本の名目GDPは1991年のレベルになってしまいましたから。反成長派の民主党(とくに経済成長時代の自民党全盛期にいたみなさん)はそこをしっかり認識したほうがいいと思います。それだけに崩落が決定的になったとき、方向転換には大変なエネルギーが必要となるでしょう。もはや、カネで問題は解決できない覚悟を。