(日本経済)「偽りの夜明け」に増税を決める愚は許されない | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

(日本経済)「偽りの夜明け」に増税を決める愚は許されない

東京新聞社説の結語である「国際通貨基金(IMF)は同日、日本経済について『内外需のバランスがとれた成長を確保するためにも構造改革が必要』として、農業や医療、保育、高齢者サービスなどの規制改革を求めた。長年懸案の政策課題に手を付けず、その場しのぎではだめだ」は、正論である。

昨日の日経の「IMF筆頭専務理事リプスキ―氏に聞く」で、「日本の内需拡大にはほかに何が必要か。『重要なのは構造改革で内需を振興し、経済の底上げに役立つ。こういう時期なので、改革の速度や中身には注意が必要だが、成長が戻るまで改革をやめるということではない。改革を進めれば成長も早くおとずれる』」と述べている。

農業、医療、保育、高齢者サービスは、いずれも、国民が「改善」を望んでいる分野である。改善を望んでいるということは、強いニーズがあるということであり、成長の潜在的可能性があるということだ。

改革に後ろ向きになってはいけない。そして、増税をしてはいけない。

09年1-3月の実質GDPは前期比年率▲15.2%と過去最大の減少幅であるが、GDPギャップは、40兆円を上回った可能性がある。この膨大なGDPギャップを背景に、国内需要デフレーターは前年比▲0.9%とマイナスに転じた。 完全にデフレである。デフレのもとでは手取り賃金が増えるのは難しい。09年1-3月期の雇用者報酬(名目)は、3四半期連続の減少である。

一部では、7-9月、10-12月に年率3%以上に達するとの見方もあり、先行きは明るいとの論調も出ている。しかし、2四半期連続での二桁のマイナス成長の結果、GDPは1年前の水準より8.6%も大幅に低下していることを忘れてはならない。15兆円の真水の経済対策も、3%のしかリバウンドしないというのは、極めて内需が弱いことの証左である。

 市場には、消費者物価の下落は今後5年間続くという見方もあるようだ。

GDPギャップが大きいままではデフレと失業は解消されない。過去最大のGDPギャップを、デフレ圧力を、主体的に解決しない限り、2010年には景気は二番底に向かう可能性もある。

 4月23日、白川日銀総裁はニューヨークでの講演で、日本がバブル崩壊後に何度か一時的な景気回復局面を経験したことを踏まえ、「偽りの夜明け」を本当の回復と見誤らないよう注意する必要性を強調している。

 白川総裁は「日本経済は1990年代の低成長においても、何度か一時的な回復局面を経験したが、このことは経済がついにけん引力を取り戻したと人々に早合点させる働きをしたように思う」と指摘。その上で「これは『偽りの夜明け』とも言うべきものだったが、人間の常として、物事がいくぶん改善すると楽観的な見方になりがちだ」と述べている。

 今日の読売新聞社説も「90年代半ばには、一時的な景気回復に安心して緊縮財政にカジを切り、深刻な金融不況を招いた苦い経験がある」として、「一時的な明るさに惑わされて政策の手を緩め、景気を再び底割れさせてはならない」と結ぶ。賛成である。

「偽りの夜明け」に増税を決める愚は許されない。(5月21日記)



(参照記事)東京新聞社説「GDP最悪」「夜明け前が最も暗い」

「ことし1-3月期の実質成長率が戦後最悪を記録した。内外需とも総崩れ状態だ。ただ『最悪期は脱しつつある』との見方もある。楽観はできないが、いま『夜明け前』とみて明日に備えたい。

予想されていたとはいえ、ここまで落ち込むと、やはり衝撃が走る。実質成長率は前期比で4%減、年率に換算すると15・2%減と昨年10-12月期に続いて、2けた台の大幅減少になった。どの需要項目がどれだけ増減に寄与したかを図る寄与度でみると、外需の1・4%減少に対して、内需が2・6%減少と外需の落ち込みを上回った。

世界的な経済危機の影響を受けて、自動車や電機といった輸出産業が打撃を被ったのは理解できるとして、国内の需要までが大きく落ち込んだ。民間の設備投資や住宅投資、個人消費といった内需の柱がどれも折れた状態だ。輸出頼みだった経済が四半期遅れで、ついに内需にまで余波が及んできたとみていい。

家計は明らかに財布のひもを締めている。土日祝日の高速道路料金値下げなど下支え材料もあるが、ここへきて新型インフルエンザが国内でも拡大してきた。スーパーでもマスク姿が目立ち、客足は鈍い。消費活動の本格回復は当分、期待できそうにない。

こうなると、企業も家計も「いまは我慢の時」と覚悟を固めるしかないが、明るい材料がないわけではない。3月の稼働率指数が小幅プラスに転じるなど、生産水準は底打ちの気配もある。中国向けなど輸出も回復の兆しがあることから、民間エコノミストの間では『4-6月期には実質成長率がプラスに転じる』という見方が増えている。なにより『景気の動きを半年から1年程度、先取りする』といわれる株式市場が戦後最悪のGDP発表にもかかわらず、20日は小幅高で引けたのも心強い。

むしろ大きな問題は、景気刺激に巨額の財政出動をした陰で、民間活力を伸ばす改革の努力がなおざりになっている点である。補正予算の中身をみても、庁舎改修に充てる施設整備費の増加など『官の焼け太り』が目立つ。国際通貨基金(IMF)は同日、日本経済について『内外需のバランスがとれた成長を確保するためにも構造改革が必要』として、農業や医療、保育、高齢者サービスなどの規制改革を求めた。長年懸案の政策課題に手をつけず、その場しのぎではだめだ」。