BBC製作のテレビ映画『Page Eight』を見た。豪華キャストなので、さぞかしBBCも力を入れていたのだろう。『ケンブリッジ・スパイ』といい、『SPOOKS』といい、BBCがMI5ものを製作するとき、いつも力が入っているような気がする。いろんなスパイ物を見てきた結果、良くわかったのは、MI5とBBC、イギリスの新聞社は皆さんお仲間で、MI5とBBC職員兼任とか、MI5から新聞記者に転身などというのは当たり前なのだ。このドラマでもパブリック・スクール出身で大学はケンブリッジ、MI5にスカウトするのはケンブリッジのチューター(日本で言う助手、助教)という定番をきちんと踏まえ、ビル・ナイがMI5のベテラン諜報員を演じている。

 ご近所さんでイスラエル出身のアクティビストを演じるのは、これまた実際にケンブリッジ出身女優のレイチェル・ワイズ。彼女はジョン・ル・カレ原作の映画『ナイロビの蜂』でも外務省職員のレイフ・ファインズの奥さんで、アクティビストという役柄を演じていたが、イギリス女性で知的な役はやたらと彼女にオファーが行っているようだ。

 ドラマはMI5諜報員の主人公が、まるで『舞踏会の手帖』のように過去の奥さんやガールフレンドを訪問しながら、ある文書を巡って捜査をする。一人娘が居るのだが、そのお母さんが妊娠中に次の女性と仲良くなり、離婚。当の元妻はMI5の上司で親友のマイケル・ガンボンと再婚している、という設定。この親友はどれだけ面倒見が良いのか、とまったく呆れる。
 
 絵のコレクションで埋め尽くされた家がなかなか素敵で、ターコイズブルーのペンキでも絵とうまく調和して見えることに、感心した。この映画でイギリス人の画家クリストファー・ウッドについて知った。それにしてもドラマの途中で娘とケンカしたときのビル・ナイの困った顔などが笑えて「このドラマはスリラーじゃないてコメディだろうか?」という程で、拍子抜けだった。
 
 イギリスのスパイ物の常で、最後は殉死または海外逃亡と決まっている。ネタバレになってしまうが、退職も近いような歳で、生まれてくる孫も含めた家族、好きな女性と離れ、親友とは死別の状況での北欧暮らしは相当厳しいだろうな、と思った。
 
 海外での客死で思い出したが、今日リドリー・スコットの弟のトニー・スコットがロスの橋から飛び降りて自殺した。美術的に優れた兄とは方向性が違って、人間ドラマの描き方が上手く、『トップ・ガン』、『クリムゾン・タイド』などヒット作にも恵まれていたのに。イギリス人がアメリカでいざ死ぬという状況でわざわざあれ程の高さのロスの橋を選ぶとは…それだけの勇気があったら、クリエイターの苦悩も何とか乗り越えられなかったのだろうか。
 
 一方、『ページ・エイト』でのビル・ナイはクリエイターではないし、そこに居るだけであれだけ面白く、5回近くも結婚しているのだから、北欧でも新しいガールフレンドを見つけ楽しく生きていくのかもしれないな、と思った。