二月五日に遡るが、テレビでグレアム・グリーン原作の『ブライトン・ロック』リメイク版(Rowan Joffe監督)を見た。
グリーンは愛、信仰、性格に問題ありの登場人物を絡めた物語展開が非常に上手い。この映画で描かれる宗教はローマン・カソリック。キリスト教信仰が70%を占めるイングランドでも信者は10%に過ぎない。そもそも、グリーン自身が大人になってから英国国教会からカソリックに改宗。同じテーマを扱った『情事の終わり』、宗教の代わりにイデオロギーを信仰として使ったのは『ヒューマン・ファクター』、イデオロギーと国民性を表現した『静かなるアメリカ人』、いずれも忘れ難い名作である。どの作品も「愛とは何か」「信仰とは何か」を読者に問いかけてくる。

映画ならではの強みはブライトン・ピアを中心としてブライトンという町が描けること。ブライトンの海岸は砂浜ではなく小石または石。初めて行ったときに、てっきり砂浜だと思っていたので、あまりに歩きにくく、どうしてこんなところをイギリス人はリゾート地として開発したのか不思議だった。ただ、海岸としてはゴミも全く見かけなかったし、ピアは古臭い遊園地のようだが妙に懐かしさを感じさせ、映画にも出てくるブライトン離宮はリージェント公のためにジョン・ナッシュが設計したオリエンタリズム満載の作品で、中国と日本との混同も相まって独特の存在感を放っていた。映画ではピアの下という半オープンな場所でブライトンの石を凶器に使っているし、映画の最高潮の場面はイギリス南部の海岸を象徴する白い崖(ホワイト・クリフ)。

時代性を強調する細工も利いていて、サイコパスの主人公ピンキーが恋人(?)ローズのために声を録音するのはSP版のレコードだが、これがテープレコーダーだったり、ボイストレックだったりしたら、この話は成立しない。
総じて見終わった後しばらく考え込んでしまうところがある映画なのだが、私が10年くらい前、ブライトンのピアに行ったときの経験がどうにも邪魔をする。当地で最も強烈な印象を受けたのは、日本発のカニ風蒲鉾が「シーフード」と銘打って氷入りのプラスチックコップに刺して数ポンドで販売されていたことだった。イギリス人観光客は当時、あれを蒲鉾とは知らなかったのではないだろうか。