稲田朋美防衛相は6月27日夕、東京都板橋区で行った都議選の自民党公認候補の応援演説で「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」などと発言したことが大きな問題となっています。この問題は公職選挙法136条の2および公務員の政治的中立性等から問題となりますが、ここでは公職選挙法についてふれてみます。
(稲田防衛大臣。朝日新聞より)
2.公職選挙法の観点から
公職選挙法136条の2はつぎのように規定しています。
(公務員等の地位利用による選挙運動の禁止)
第百三十六条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、その地位を利用して選挙運動をすることができない。
一 国若しくは地方公共団体の公務員又は行政執行法人若しくは特定地方独立行政法人の役員若しくは職員
(後略)
第百三十六条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、その地位を利用して選挙運動をすることができない。
一 国若しくは地方公共団体の公務員又は行政執行法人若しくは特定地方独立行政法人の役員若しくは職員
(後略)
つまり、国家公務員等は、その地位を利用して選挙運動をすることができないと規定されています。そしてこの規定に違反した場合、二年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金が科されます(公職選挙法239条の2第2項)。
この条文にある「この地位を利用して」とは、「公務員がその地位にあるがため特に選挙運動を効果的に行いうるような影響力又は便益を利用する意味であり、職務上の地位と選挙運動の行為が結びついた場合をいう」とされています(選挙制度研究会『実務と研修のためのわかりやすい公職選挙法 第十三次改訂版』188頁)。
そしてその具体例としては、たとえば、「補助金、交付金等の交付、融資のあっせん、(略)契約の締結、事業の実施、許可・認可’(略)その他の職務権限を有する公務員等が、地方自治体、(略)請負業者、関係団体、関係者等に対し、その権限に基づく影響力を利用すること」などがあげられています(選挙制度研究会・前掲188頁)。
3.6月27日の応援演説
ここで稲田防衛大臣の27日における発言をみると、板橋区で行った都議選の自民党公認候補の応援演説で「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」などと発言したとのことです。
稲田氏は防衛大臣であり、防衛省および自衛隊のトップですから、稲田氏が「防衛省、自衛隊、防衛大臣としてもお願いしたい」と自民党候補を応援演説をしたことにより、「公務員等はその地位を利用して選挙運動をすることができない」と規定する公職選挙法136条の2が禁止する犯罪は既遂となっています。
このような犯罪の類型は「挙動犯」と呼ばれ、単に一定の行為がなされれば直ちに犯罪の成立が認められるものです。具体的には虚偽告訴罪(刑法172条)、偽証罪(169条)などがあげられ、また、公職選挙法等の行政取締法規に多く規定されています(日高義博『刑法総論講義ノート 第3版』55頁)。
したがって、新聞等によると、稲田氏は30日の記者会見でも「誤解だ」と記者団に語っているそうですが、公職選挙法違反はやはり発生しています。
4.稲田大臣の釈明
27日の応援演説のあと、稲田大臣は演説の趣旨を、「稲田氏は応援演説後、記者団に「(演説会場は陸上自衛隊)練馬駐屯地も近く、防衛省・自衛隊の活動にあたっては地元に理解、支援をいただいていることに感謝しているということを言った」と釈明したとのことです。
・稲田防衛相が発言、撤回 都議選候補応援「自衛隊としてお願い」|朝日新聞
しかしこれは、練馬駐屯地に近い板橋区の選挙区における防衛大臣の演説として、上であげた具体例の「契約の締結、事業の実施その他の職務権限を有する公務員等が請負業者・関係者等に対して、その権限に基づくい強力を利用する」という、つまり、「公務員がその地位にあるがため特に選挙運動を効果的に行いうるような影響力又は便益を利用する意味」であり、すなわち、公職選挙法136条の2の「この地位を利用して」そのものです。
そのため、稲田防衛大臣の27日の応援演説は、やはり公職選挙法136条の2に違反しています。
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