ツイッターのリツイートは著作権侵害にあたるか?(東京地裁平成28年9月15日) | なか2656のブログ

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一.はじめに
「ジュリスト」2017年3月号を読んだところ、ツイッター(Twitter)のリツイートが著作権の一つの公衆送信権侵害にあたるか否かが一つの争点となった興味深い裁判例が掲載されていました。

二.東京地裁平成28年9月15日判決
1.事案の概要
(1)プロの写真家X(原告)は、自ら撮影し著作権を有する本件写真を自己の運営するウェブサイトに掲載していたところ、氏名不詳者AがXに無断でツイッターアカウントAのプロフィール画面として本件写真の画像をアップロードしたことにより、ツイッターのプロフィール画像ファイル保存URLに同画像が保管・表示された(以下「流通情報A」とする)。

(2)また、氏名不詳者BがツイッターアカウントBを使用し、Xに無断で本件写真の画像ファイルを添付した本件ツイートBを行った(以下「流通情報B」とする)。

(3)さらに、氏名不詳者C、D、Eは、ツイッターアカウントC、D、Eを用いて本件ツイートBのリツイートを行い、C、D、Eのタイムラインに本件写真が表示された。

(4)Xは、(1)から(3)までの行為により、Xの著作権および著作者人格権が侵害されたとして、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、発信者情報の開示を、ツイッターの運営を行う米ツイッター社(Y1)および日本の同社の子会社でありマーケティング等を行っているツイッタージャパン社(Y2)に求めたのが本件訴訟である。

なお、(1)(2)行為がXの公衆送信権侵害であることは当事者に争いがない。

2.判旨
(1)本件リツイートの性質
『流通情報C~Eの各URLに流通情報Bのデータは一切送信されず、同URLからユーザーの端末への同データの送信も行われていないから、本件リツイート行為は、それ自体として上記データを送信し、又はこれを送信可能化するものではなく、公衆送信(略)に当たることはないと解すべきである。』

(2)公衆送信の主体
本件写真の画像ファイルはツイッターのサーバーに入力し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは本件アカウントBの使用者であるから、上記送信の主体は同人であるとみるべきものである(最三小判平成23年1月18日判決(まねきTV事件最高裁判決)参照。)

『ツイッターユーザーにとってリツイートは一般的な利用方法であること、本件リツイート行為により本件ツイートBは形式も内容もそのまま本件アカウントC~Eの各タイムラインに表示されており、リツイートであると明示されていることが認められる。そうすると、本件リツイート行為が本件アカウントBの使用者にとって想定外の利用方法であるとは評価できないし、本件リツイート者らが本件写真を表示させることによって利益を得たとも考え難いから、これらの点から本件リツイート者らが自動公衆送信の主体であるとみることはできない。』

(3)結論
このように東京地裁は判示し、Y1に対する請求については本件アカウントA、Bの情報の一部開示を認め、一方、本件アカウントC~Eについては情報の開示を認めませんでした。また、判決はY2はツイッターを運営する者ではなく、発信者情報を開示する権限を有していないとして、Y2への請求を棄却しています。


三.検討
1.本件リツイートは公衆送信侵害とならない
本判決は、リツイートは自動的にリンクを作成するものにすぎず、ファイルを送信するものではないので、リツイートをした者は公衆送信の主体でないとしています(著作権法2条1項7の2、23条)。

ただし、リンクを貼る行為においてリンク先が著作権侵害などであった場合、リンクを貼った者が著作権侵害のほう助となるのと同様に、リツイートをする者にもほう助が成立する余地があります(大阪地裁平成25年6月20日・ロケットニュース24事件)。

2.権利侵害の主体
(a)本判決
本判決はツイートをしたBを公衆送信権侵害の主体と認め、BのツイートをリツイートしたC~Eは侵害の主体ではないとしました。

(b)カラオケ法理
著作権の侵害主体に関しては、1999年改正前の著作権法下において、カラオケスナックで客が唱歌することが録音物の演奏権にあたるか否かが争われ、①管理・支配、②利益の帰属、の二つの要件を満たす場合には直接著作権侵害を行っていない者も、規範的にみて著作権侵害の主体となるとする最高裁判例が出され(「カラオケ法理」、最高裁昭和63年3月15日判決、クラブキャッツアイ事件)、その後の著作権法に大きな影響を与えました。

(C)まねきTV事件
そのようななか、平成23年に、「まねきTV」という名称で実施されていたテレビ番組の転送サービスが放送事業者の送信可能化権と公衆送信権を侵害しているかが争われた訴訟において、最高裁はつぎのような判決を出しました(まねきTV事件・最高裁平成23年1月18日判決)

まねきTV事件・最高裁平成23年1月18日判決の判旨

『著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定した趣旨,目的は,公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行う送信(略)が既に規制の対象とされていた状況の下で,現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにある。このことからすれば,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。』

 『そして,自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると,その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。』


このように判示し、最高裁は著作権侵害を行っている主体は個々の利用者ではなく、装置を管理・運営している転送サービス事業者であるとしました。

(d)再び本地裁判決について
ここで再びリツイートに関する本地裁判決をみると、「最高裁平成23年1月18日判決参照」と明記したうえで判断枠組みはまねきTV事件判決に従うことを示しています。

学界からは、まねきTV事件判決の判断枠組みは漠然としすぎており、地上波テレビ番組の転送サービスに限って適応されるべきとの批判的な見解が示され(平嶋竜太「侵害主体(4)」『著作権判例百選[第5版]』194頁)、また、クラウド・コンピューティング・ビジネスに大きな影響を与えかねないので事例判決と考え、射程を狭く解釈すべきとの見解(中山信弘『著作権法 第2版』613頁)も示されているところです。

ところが、この、まねきTV事件判決が地上波テレビ番組だけでなく、ネット上のSNSの事案の判断に今回適用されたわけで、今後の裁判例の動向が大きく注目されます。

(e)非公式リツイートであったらどうか?
なお、本判決の事例は、Bが投稿したツイートを、C~Eがそのままの形でいわゆる公式リツイートしたものであり、上述のような結論となりました。しかし、これがBが投稿したツイートを、Cなどが、その文章などをBの意図とは異なる形で改変した上で、いわゆる非公式リツイートなどをした場合は、今度はC等も著作権侵害の主体の可能性が発生するかもしれません。本地裁判決は、「本件リツイート行為が本件アカウントBの使用者にとって想定外の利用方法であるとは評価できない」こと等を論拠としていますので。

■参考文献
・小泉直樹「リツイートと著作権」『ジュリスト』2017年3月号8頁
・中山信弘『著作権法 第2版』613頁
・平嶋竜太「侵害主体(4)」『著作権判例百選[第5版]』194頁


著作権法 第2版



著作権判例百選 第5版 (別冊ジュリスト 231)





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