東京五輪招致でIOCに裏金を送金した企業等を東京地検は捜査しないのか? | なか2656のブログ

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天文学的な新国立競技場建設費の問題、エンブレム盗用の問題、そして競技場の聖火台をどこに置くのかという一般国民の想像の斜め上をいく問題等など、ダーティーな話題が尽きることがない2020年の東京オリンピック・パラリンピックです。



そのようななか、今度は2013年に決定した東京五輪招致について、同委員会側から国際陸上競技連盟のラミン・ディアク前会長(セネガル国籍)側になんと約2億円もの巨額の裏金が振り込まれたという疑惑が飛び出してきました。

・<東京五輪>招致巡り裏金、仏当局捜査…国際陸連前会長側に|毎日新聞

このディアク氏は1999年から13年まで国際オリンピック委員会(IOC)委員も兼ねており、招致決定当時は開催都市を決める投票権を持っていました。

記事によるとフランス検察当局はこの事件を捜査中であり、また、東京五輪招致で1.6億円の金銭を、招致委員会が国際陸連前会長側に渡したことを、イギリスのガーディアン紙も大きく取り上げたとNHKが伝えています。

BBCのニュース記事
・東京五輪「裏金支払い」報道 IOCは沈黙|BBC

このような世界的に注目されている不祥事なのですが、なぜか日本政府や日本の検察当局の腰は重いようです。

この点、あるジャーナリストの方は、民報のTV報道番組が「IOCは民間だから賄賂は成立しないし、従来各国が招致に金を使ってきたわけでさほど問題にすることもない」という番組を放送していて耳を疑った、という趣旨のツイッターの投稿をされていました。これは私も賛成です。



たしかに、IOCは組織形態としてはNGOのようです。また、複数のニュースを読んでいると、今回、2億円の金銭を渡した直接の主体は日本の大手広告代理店の関連企業であるそうです。

しかし、そうであるなら、この日本の広告代理店の関連企業の2億円の金銭の振込という行為が、背任罪(刑法247条)に該当しないか否かが問題とならないでしょうか。

また、株式会社の取締役などが自己または第三者の利益を図るなどのために背任を行うことは、特別背任罪としてより重い罪に科せられます(会社法960条)

さらに、東京五輪の招致が成功するか否かは、現在、新国立競技場が千億円単位の予算がかかり、五輪全体では数兆円の予算がかかることが予想されている予算規模の事業であることを考えると、まさに日本経済振興のための国家プロジェクトです。新聞などを読んでいても、多くの大臣、中央官庁という政府部門が取り組んでいます。

つまり、今回の東京五輪誘致を成功させるために、今回の大手広告代理店に指示を出し、あるいは連携し、動いていた中央官庁や招致委員会などの組織・機構、多くの官僚達などが存在するでしょう。(この2億円のカネの出所も気になるところです。)

そのような官僚達(オリンピック招致委員会、文科省、内閣府など)の行為は、公務員職権濫用罪(193条)が該当する余地があるのではないでしょうか。そして、もしそれが認められるなら、いわゆる共謀共同正犯の理論により、その官庁のトップの大臣クラスまで刑事責任がおよぶ可能性があります。

このように考えると、フランスの検察が捜査を行っているのに、日本の東京地検が政府・与党の顔色をうかがい、寝たふりをしている場合ではないのではないでしょうか。

とくにうえであげた、背任罪と公務員職権濫用罪は公訴時効が3年となっており(刑事訴訟法250条2項6号)、2013年9月に東京五輪招致が決定・公開されたことを考えると、東京地検に残された持ち時間はあと数か月しかないはずです。

検察官は、全国的に統一的・階層的な組織をなし上命下服の関係で一体の事務を行うとされます(検察官一体の原則)。

しかしその一方で、この上命下服の関係に政治的圧力を排除するための歯止めとして、法務大臣は検察官を一般に指揮監督することはできるが、個々の事件の取調べ・処分については検事総長のみを指揮できるにとどまるとされています(検察庁法14条)。

数年前からすっかり牙を抜かれてしまった感のある地検特捜部ですが、「秋霜烈日」の精神で再び国民のために政治権力側と闘ってほしいものです。

(一番望ましいのは、もし可能なら東京五輪を今からでも中止することだと思うのですが・・・)

■追記
新聞記事によると、フランスの刑法では民間同士の賄賂のやり取りでも贈収賄罪が成立するとのことです。
・「五輪招致疑惑:民間同士も贈収賄罪 仏、コンサル料を捜査」毎日新聞2016年5月18日付

■参考文献
・大塚仁『刑法概説 各論[第3版増補版]』315頁、619頁
・田宮裕『刑事訴訟法 新版』24頁
・田口守一『刑事訴訟法[第4版補正版]』160頁


刑法概説(各論)



刑事訴訟法



刑事訴訟法 第6版 (法律学講義シリーズ)





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