電気通信大学の2015調布祭にいってみた/ビッグデータ・係留式高層プラットフォーム・ローバー | なか2656のブログ

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11月20日から22日まで開催された、電気通信大学の学園祭・「2015調布祭」に行ってきました。


・電気通信大学 第65回調布祭サイト









文系人間ながら、個人情報保護法改正などに関心があったため、情報セキュリティの研究室をいくつか見学させていただきました。

吉浦・市野研究室


複数の学生さんにより説明をしていただきました。

ビッグデータの匿名化とプライバシーの問題について、社会に散在するデータベースにより個人情報が名寄せされ特定されてしまう仕組み・危険性を図をもとに説明していただきました。



現在、そのような危険や、個人情報を不正に取得する方法がどのようなものがあるかを研究している段階であるそうでした。

それらの危険をブロックする技術的な方法や、あるいは企業などが持っている個人情報をどのレベルまで匿名化すれば本人の同意等なく第三者提供可能とされる「匿名加工情報」(改正個人情報保護法2条9号)と言いうるかといった段階までは、研究は進んでいないようでした。

しかし、説明をお伺いするやり取りのなかで、学生の方が、2013年のJR東日本のSuicaの乗降履歴の第三者提供の問題は、新宿駅などのような大規模な駅ならともかく、例えば布田駅のような各駅停車しか停まらない駅で乗り降りする人に関する乗降記録に関しては、氏名・住所等を匿名化してもその人を特定できてしまうので、個人情報であろうとのご見解を伺うことができました。(このあたりは鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』78頁を思い出しました。)

また、近年、わが国で企業により、Wi-Fiによる位置情報の利活用の研究開発が進められているという興味深いお話もお伺いできました。


このWi-Fiによる位置情報の調査で、日々立ち寄る場所、時間帯などにより、スマホの所有者が学生なのか会社員なのかなどの属性を割り出すこと等が可能であるそうです。

GPSと異なり、現在のわが国では、Wi-Fiによる位置情報に関しては法的に野放しの状態であり、日本は民間企業や大学が、Wi-Fiによる位置情報の利活用の研究開発を推進している状況とのことでした。

一方、海外の事例では、アップルは、スマホからWi-Fi送・受信器へ発信するデータに含まれるスマホIDをランダムに変更することにより、スマホ所有者の個人情報を保護しており、アメリカと日本では進む方向がまったく違っているという興味深いお話を伺うことができました。

図書館等の利用者に関するビッグデータの収集・解析を行っている岡本研究室というものがあり、ちょっと驚きました。
残念ながらパネルの展示だけだったようなので、パネルだけ拝見してきました。




うーん、個人の思想・信条を推測できるセンシティブ情報である図書の貸出履歴の解析とかしちゃって大丈夫なのだろうか?

また、デジタル化された現在の日本の図書館では、図書が利用者により返却されたら、貸出履歴は情報システムから消去されるというのが図書館に関する解説書における説明(鑓水三千男『図書館と法』183頁)なのに、そこがどうなっているのか気になります。

さらに、そのセンシティブな個人情報のデータの山が、大学の研究室に第三者提供されているというのは、利用者本人の同意を得るなど、きちんと法律の定める手続きを踏んでいるのかと疑問です(個人情報保護法23条)。

加えて、図書館内の利用者を監視カメラでモニタリングして、行動を分析するというのは、もし、「カメラで防犯だけでなく、行動の分析もしています」等という掲示などをしていない場合は、法令に反します(個人情報保護法18条4項4号・菅原貴与志『詳細個人情報保護法と企業法務[第4版]』105頁)。

なお個人情報保護法50条1項は、大学などに対する適用除外の規定を置いていますが、同2項は、それらの機関は自ら個人情報保護のための適正な措置を講じなければならないという歯止めの規定を置いています。

また、この50条により大学が違法とならないとしても、研究の成果を民間企業が利用してしまったら、それは完全に個人情報保護法違反となるのではないかと思われます。

こういったことを武雄市、海老名市のCCCのツタヤ図書館がやってしまっていないかと心配です。


ロボットシステム、メカトロニクスの金森研究室を見学しました。

今後はロボットが家に入り、家事を支援する時代だということで、家事支援ロボットというテーマで研究開発中のロボットが多く展示されていました。


写真のロボットは、洗濯機に腕を入れて、洗濯物をつかみ出す動作の研究開発を行っているとのことでした。実際に動く動作を見学させてもらいましたが、非常に多くの関節部分が動いている様子に、素人ながらおどろきました。

また、腕ができて洗濯物を取り出せたら、今度はそれを家の中で運びたい、しかも家の中を壊さないように運びたいということで、犬や猫のように四本足で歩くためのロボットの足の部分も開発中とのことでした。動画をみせてもらいましたが、回り階段を四本足のロボットが登って行っていて、すごいなーと思いました。

さらに、ロボットが安全に家の中を移動するためにロボットにつけるセンサーも研究開発しているとのことでした。電磁波を周囲に飛ばし、跳ね返ってくるタイミングを計測するなどして、平面的な位置と高度を把握するそうです。

加えて、ロボットが人間と衝突などしてケガを負わせてはいけないので、人間の人体の24の骨格の動きをセンサーが読み取り、衝突を回避する、という説明には驚いてしまいました。

家事支援だけでなく、スーパー・百貨店などにおけるお年寄り等の買い物の支援なども想定しているとのことでした。

航空宇宙システム設計・設計情報学の千葉研究室を見学しました。



説明してくれた学生さん達によると、千葉先生は元JAXAの方であり、また、この研究室は三菱のMRJの機体の一部の設計にも携わっているとのことで、すごいなーと思いました。



いろいろ興味深かったのですが、とくに「係留式高層LTAプラットフォームシステム」という研究はとても興味深いものがありました。

これはテザーという名称のケーブルにくくりつけられた頑丈な大きな飛行船のようなプラットフォームを、高度20Kmの成層圏の高さに浮かべ、電波の基地局や、あるいはロケット打ち上げ基地にしようという構想だというのです。

昔からSF小説などに、「宇宙エレベーター」、「軌道エレベーター」という概念が出てきます。つまり、宇宙に行くのにいちいちロケットを打ち上げていては予算などの面で大変なので、宇宙まで直通のエレベーターという構造物を作ってしまおうという考え方です。

しかし宇宙エレベーターも、その建造に莫大な予算や時間がかかるでしょうし、どこに建てるかなどの問題、どんな素材で作るかなどの技術的な問題など、国家的どころか国連規模の問題になりそうです。

その点、この係留式高層LTAプラットフォームシステムであれば、ケーブルでのばしたプラットフォームをあげるだけのシンプルなもので、宇宙エレベーターに比べて予算面や技術面などで現実的な気がします。

ケーブルでのばしているだけですので、もし運営主体の予算その他の都合や、あるいは他の国から領土問題などでクレームをつけられても、すぐ撤収ができるようにも思えます。

また、これも学生さんが説明してくれたのですが、プラットフォームには、ISSのように要員を配置し、テザーでゴンドラのようなものを経由して要員を交代することを考えているそうです。

そして、プラットフォームは地上20Kmなので、民間人の観光目的での利用も考えられるのではないかとのことでした。

たしかに成層圏といえば”宇宙の底”です。現在、アメリカのスケールド・コンポジッツ社が宇宙旅行用の宇宙船を開発していますが、あれは弾道飛行で宇宙空間に行って帰ってくるだけの短時間のもので20万ドルもの高額の料金で予約を募っており、しかし、それなりの予約が集まっているそうです。

日本でも、係留式高層LTAプラットフォームシステムなどに対して、国だけでなく、目新しいことが好きな民間企業が手をあげるのではないでしょうか。

電通大のビルの屋上に望遠鏡のドームが大小2つもあるとは知りませんでした。


柳澤研究室が、この望遠鏡で小天体が月に衝突する閃光を観測し、研究しているのだそうです。
中を見学させてもらいました。大きい方の望遠鏡。45cmだそうです。




小さい方の望遠鏡。


案内してくれた学生さんによると、小天体の月面への衝突の観測を研究することにより、月の研究ができるだけでなく、なんとスペース・デブリ(宇宙ゴミ)の観測・研究も行っているのだそうです。すごい。ただ、光学式なので、今のような雨の多い時期は大変とのシビアなお話もありました。

酒井研究室のアルマ望遠鏡の展示




説明してくれた学生さんが、なんとチリのアルマ望遠鏡の受信機内部の受信素子の制作に携わっており、その関係で三鷹市の国立天文台にも頻繁に行っているという話には大変おどろきました。国立天文台は従来から大学生等の受け入れ・教育に積極的であるそうです。

今後の取組みとしては、現在、バンド10の受信機が完成したところ、バンド11の開発を進めているとのことでした。また、現在はひとつの受信機でひとつのバンドしか観測できないところ、複数のバンドを並列して観測できるような受信機の研究開発を進めているとのことでした。

先般、秋の国立天文台の特別公開を見学した際に、アルマ望遠鏡の担当の研究者の方が、受信器を納める容器の大きさが決まってしまっているので、そこに部品をおさめるよう設計・作成するのがパズルのように大変とおっしゃっていたのを思い出しました。

複数のバンドを同時に観測できる受信機が開発できれば、省スペース化とともに、複数のバンドにより天体の観測ができるので、より効率的な観測ができるとのことでした。

・電気通信大学 酒井研究室

・アルマ望遠鏡|国立天文台

光エレクトロニクスの上野研究室です。


光通信や光信号の高速化の研究開発を行っている研究室とのことで、好奇心で入った素人の私に、複数の学生の方がていねいに教えていただき、素人なりにすごいなーと思いました。

まず、現行のデータ通信が、光ケーブルなどの光信号とともに、要所要所でICチップによる電気信号による処理が行われ、再度光信号に戻されるプロセスを経ていることから、このICチップの部分で「遅く」なるので、このICチップの部分を使わずに、光のみで処理を行う研究開発をしているというから、壮大です。

また、この研究室で、従来に比べて非常に精密な光を発射する装置が開発できたそうで、現在の光通信・光信号が、「0101」と0と1でデータを送信しているところ、この装置を使えば、なんとごく短時間に送る光の周波数の「波形」(波が上がったり下がったりのそれぞれがひとつひとつ意味を持つ)で大量のデータを伝えられると研究開発をしているというのです。

そして、これらの技術を組み合わせると、現在の光ファイバーの150倍から200倍ものスピードでデータが送れるというのです。それは例えば、インターネットの動画サイトなどから映画のDVDのデータをダウンロードするのがわずか1、2秒で済んでしまうスピードだそうです。

研究室の方々がまず想定しているのは海底ケーブルなどのインフラにおける情報通信のスピードアップとのことでした。

私が思ったのは、証券取引につき売買をプログラム化させ、あとはいかに証券取引所に自社のサーバーを近くに設置し、さらに光ファイバーを屈折させないようにし、株価の変動に応じて100分の1秒のスピードでコンピュータによる自動取引を行い利益を少しでも上げることを狙っているという証券会社のことでした。当然、機関投資家としての保険会社などの、その他の金融機関も、もしこの150倍から200倍という猛スピードの情報通信技術が実現したら黙っていないのではないでしょうか。

ただ、現在の科学技術ではデータ通信の速度を速めても、コンピュータのCPUの速度の限界がボトルネックになってしまうとのことでした。

その点、量子コンピューターや、京などのスーパーコンピューターなどの仕組みも説明していただきました。スーパーコンピューターは並列処理のお化けなので、ひとつひとつの処理が格段に速いわけではないといったことや、また、並列処理の例として、ハリウッド映画などで海の波の動きなどを描くことに使われる、NVIDIAという会社を紹介していただきました。

・電気通信大学 上野研究室

・NVIDIA

いろいろと社会的に影響範囲が大きい分野だなと思いました。

高玉研究室に、なんとローバーがありました。




小型ロケットで打ち上げて、パラシュートで地上に着地、その後、このローバーがゴールを目指して自分で判断して自律的に砂漠を走るという、『宇宙兄弟』11巻にも出てくるあれですね。

高玉研究室は、ARISSというローバーの大会で2015年まで4年連続で優勝しているそうです。そのため、説明してくれた学生さんによると、アニメ版『宇宙兄弟』の制作スタジオが取材に来たそうです。

また、この研究室では、大規模な震災時で、電波の基地局などが壊れてしまった場合に、複数の電波基地局の機能を持つロボットを人の指示を受けず自律的に展開させるという研究開発を、ルンバを使って行っていました。これも興味深いなと思いました。


・電気通信大学 高玉研究室

研究室を中心にまわったので、時間の関係上、それ以外はあまり見れませんでした。

人力飛行機のU.E.C.wingsの展示の教室です。
航空系のロマン満載です。


こちらの教室でも部員の方が非常に丁寧に説明してくれました。

胴体桁


鳥人間コンテストの大会に出場するために現地のスタッフにチェックされ、機体安全、パイロットの健康状態などが問題ないとすべてOKがでたことを証明する3つのステッカー。


後部の尾翼部分のギア部分
コックピットの操縦桿の動きはフライ・バイ・ワイヤーでこちらに伝わるそうです。


コックピット





翼を小骨のように支えている等間隔のパーツは左右合わせて100個あり、手で切り出すそうですが、とくに前の曲線の部分が揚力を生み出すために重要なものであるが、作るのが難しく、設計図どおりに切り出すのに熟練の技術が必要だそうです。

プロペラ


パイロットのトレーニング機


フェアリング


パイロット支援システム「らごぱすたんシステム」


この「パイロット支援システム」は興味深いと思いました。高度、速度、プロペラの回転数などのデータをセンサーで収集し、またパイロットの声を自動認識し、パイロットへ音声による情報を通知し、警告を行い、さらにただのおしゃべりも行うと説明文にあります。

説明をしてくれた部員の方によると、地上と人力飛行機とで、無線機のみで高度、速度などのやり取りや指示を行おうとすると、無線機が故障するリスクや、あるいは、発進するとパイロットは孤独となるなどの理由で、このシステムの開発をはじめたそうです。

さすが電気で通信な大学だなーと思いました。ライトノベルSF小説の『フルメタル・パニック!』に出てくる、ロボットに搭載された、パイロットに無駄話をしてくるAIを思い出しました。

まだまだ開発中のようですが、こういったSF的な技術も、もう少ししたら、たとえば自動車のカーナビなどの機能に追加されるのでしょうか。

この電通大のサークルは、従来はグライダーをやっていたところ、2009年からプロペラ機も開始し、今年初めて、鳥人間コンテストの大会への出場を果たしたそうです。大会での成績はいまいちであったそうですが、一般人ながら、これからが楽しみなのではと思いました。

・U.E.C.wings公式サイト

大学構内では、サイクリング部が自転車修理を行っていました。さすがです。


「災害ボランティアの育成と防災におけるICTの利活用の推進」という講演会も行われているようでした。


おもちゃの病院、子ども向け工作室などの子ども向けコーナー。
電通大は学園祭の時以外も定期的に、このような子ども向けの取組みを行っているようです。


構内でみかけた「古本募金」というポスター。古本を提供すると、古本屋が買い取り、そのお金が電通大の学生の奨学金になるのだそうです。これはいいですね。


「府中刑務所」というものものしいロゴの模擬店のテントがところどころにあったのですが、電通大は府中刑務所と何らかの連携をしているということなのでしょうか?


有志の会も健在のようです。


なお余談ですが、調布祭を見学していると、研究室案内の貼り紙にアニメキャラのイラストがあったり、教授室のガラスにアニメポスターが貼ってあったり、ポケモン関連のイベントが開催されていたりと、電通大は理工系だけあって、漫画・アニメ文化に柔軟というか、寛容なんだなーと思いました。








ある宇宙開発系のSF小説には、「アメリカの宇宙業界の人間は、トレッキーが6割、オタクが3割、あとは趣味すら持てない無能です」という台詞が出てきますが、それを地でいく世界ですね。

電通大は、この11月下旬の学園祭だけでなく、7月にもオープンラボという形で一般公開を行っているとのことで、是非夏も見学に来たいなと思いました。

国立天文台やJAXAの一般公開などを見学する度に思うことですが、全般的な話として、社会科学系の分野が右肩下がりに悲しい未来しか描けない状況になってゆくのに対して、理工系の分野の未来は明るいと感じます。

政府・与党は日本の大学に対して、スーパーグローバルなんとか改革とか、”シェークスピアよりトヨタの工場の産業機械の使い方を”という大学の職業訓練校化のG型L型大学改革とやらを推進しているそうですが、電通大はそういうのは軽くスルーして、自由闊達でオープンな校風で今後も学問と研究開発に邁進してほしいなと、一般人ながら思いました。

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