海上保安庁法2条/辺野古の国民に海上保安庁が暴力をふるうことは許されるのか? | なか2656のブログ

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ある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

1.はじめに
新聞記事などによると、辺野古への米軍基地移転に反対し、洋上で小型の船などでデモを行う国民に対して、海上保安庁の職員らが連日のように暴行・傷害を行っているそうです。

たとえば、2014年8月22日には海上デモでフロートに近づこうとしたカヌーの男性を海上保安庁の巡視船が取り囲み、同庁職員が男性をゴムボートに引き上げる際に羽交い絞めにして首を強く押さえつけたため、男性は頸椎捻挫で全治10日間のケガを負ったそうです(沖縄タイムズ2014年8月23日付「「暴力的」警備批判海保は事実否定 辺野古沖」)


また、同年8月26日には海上デモを行なう市民のカヌーに海保のボートが体当たりしカヌーを転覆させ海保職員が海に落ちた市民の首や顔を押さえつけ繰り返し海中に沈めた、という暴行を報じる新聞記事もあります(琉球新報2014年8月27日付「辺野古で海保9人拘束のべ19人に」

2.海上保安庁の「安全指導」の根拠は何なのか
このような海上保安庁などの、過剰な実力行使(比例原則に反する行為)について、市民や報道関係者から海保に対して何度も「法的根拠は何なのか?」という質問がなされたそうですが、海保側からは「安全指導の一環である」というあいまいな回答しか得られなかったそうです。

しかし海上保安庁側も、この点はさすがに無理があると判断したのか、その後、自分達の行為は「海上保安庁法2条に基づく」という回答に転換したそうです(琉球新報2014年8月16日付)。

3.海上保安庁法2条と交通検問
たしかに海上保安庁法2条1項はつぎのように規定しており、「安全の確保」が含まれています。

海上保安庁法
第2条  海上保安庁は、法令の海上における励行、海難救助、海洋汚染等の防止、海上における船舶の航行の秩序の維持、海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕、海上における船舶交通に関する規制、水路、航路標識に関する事務その他海上の安全の確保に関する事務並びにこれらに附帯する事項に関する事務を行うことにより、海上の安全及び治安の確保を図ることを任務とする。


しかし、海上保安庁法は、全体としてみると、組織法です。海上保安庁がこの組織法たる法律をあえて「安全指導」の根拠として持ち出しているのは、分野は違いますが、これも「公共の安全と秩序の維持」を目的とする警察の組織法である警察法2条1項が念頭にあるのではないかと思います。

なぜなら、明文の根拠規定のない警察の行う自動車検問のひとつである交通検問を、警察法2条により適法とした判例があるからです。

交通検問を含む自動車検問は、直接の明文の根拠規定が存在しないことから、その法的根拠が問題となってきました。

この点、学説においては、交通検問が自動車を止めて質問を行うことに着目し、警察の交通検問にある程度の実力の行使もやむを得ないとして、その根拠を警察の行う業務の手続きを定めた手続法である警察官職務執行法2条に求める考え方などがあります。

しかし判例は、①交通違反の多発する地域であること、②短時間の停止であること、③相手方の任意に基づくものであること、④自動車利用者の自由を不当に制限する方法・様態でないこと、という要件を満たす場合には、「警察法2条1項」に基づき交通検問は適法であると判断しました(最高裁昭和55年9月22日判決)。

この判例については、学者から、警察官職務執行法2条ではなく、あくまでも警察法2条に基づいているので、「実力の行使は警察法の文言に読み込めない以上、純粋な任意処分の限度でのみ許される」と評価されています(田宮裕『刑事訴訟法[新判]』61頁)。

4.海上保安庁などの行為を考える
そこで、警察法2条とパラレルな関係にあると思われる海上保安庁法2条1項は、「安全の確保」など、海上保安庁が行うことにできる業務を規定するのみであり、それらを具体的にどのように実施するかという手続法的な側面を規定していません。

そのため、うえであげた昭和55年の交通検問の最高裁判決に照らして考えると、海上保安庁が行うことができるのは、「安全の確保」であるとしても、「純粋な任意処分の程度」に限られると思われます。

したがって、海上保安庁の職員らが、洋上のデモなどを行っている国民に対して「安全の確保」の名のもとに、国民の意思に反して国民に暴力をふるったり、国民のボートを転覆させる行為などは、明らかに許容される限度を超えており、完全に違法であると思われます。

5.比例原則違反・適正手続の原則違反の問題
そして、私が以前の記事で取り上げたとおり、海上保安庁などの行為は比例原則(警察比例の原則)、令状主義、表現の自由および適正手続の原則から、あまりに不当であり、行政庁の行為として手続的に違法であり、手続き的正義に反します。そしてそのような行政上の重大な手続上の瑕疵は、政府の基地移転という目的の正当性にすら疑問符をつけることにつながると思われます。

■参考
・辺野古基地移設の海上デモ/適正手続きの原則と比例原則
・辺野古基地問題:サンゴ破壊89群体、県の許可区域外が判明/機関訴訟・国地方係争処理委員会
・辺野古埋め立て「承認の撤回は法的に可能」弁護士・学者らが意見書/職権取消と撤回

■参考文献
・田宮裕『刑事訴訟法[新判]』61頁
・田口守一『刑事訴訟法[第4版補正版]』63頁

刑事訴訟法



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