最近、会社法を少しづつ勉強していると、モリテックス事件判決がけっこうあちこちに取りあげられているので、復習してみました。
1.会社の株主の権利行使に関する利益供与の禁止の趣旨
会社は誰に対してであっても、株主の権利の行使に際し、財産上の利益を供与してはならないとされています(会社法120条1項)。これは、企業経営の健全性を確保するとともに、会社財産の浪費を防止する趣旨であるとされています。利益供与があった場合は、その供与を受けた者はそれを会社に返還しなくてはならず(同120条3項)、株主代表訴訟などが認められることにもなります(同847条)。(神田秀樹『会社法 第十版』66頁より。)
2.モリテックス事件判決(東京地裁平成19年12月6日判決・金融商事判例1281号37頁)
(1)事案の概要
株主総会に関連して会社提案と株主提案が対立し、委任状争奪合戦となった状況のものとで、総会における有効な議決権行使を条件として、株主1名につきQuoカード1枚(500円分)を会社が交付した事案において、このようなQuoカードの交付が会社提案に賛成する議決権行使の獲得を目的としたものであり違法であると裁判で争われた事案。
(2)判旨
裁判所はつぎのとおり120条の判断基準を示しました。
「(会社法120条)の趣旨は,取締役は,会社の所有者たる株主の信任に基づいてその運営にあたる執行機関であるところ,その取締役が,会社の負担において,株主の権利の行使に影響を及ぼす趣旨で利益供与を行うことを許容することは,会社法の基本的な仕組に反し,会社財産の浪費をもたらすおそれがあるため,これを防止することにある。
そうであれば,株主の権利の行使に関して行われる財産上の利益の供与は,原則としてすべて禁止されるのであるが,上記の趣旨に照らし,当該利益が,株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的に基づき供与される場合であって,かつ,個々の株主に供与される額が社会通念上許容される範囲のものであり,株主全体に供与される総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないときには,例外的に違法性を有しないものとして許容される場合があると解すべきである。」
そして、裁判所は事実認定をしたうえで、本事案においては、「Quoカードの提供が株主による議決権行使に少なからぬ影響を及ぼした」と認定し、結論として、本事案の会社側のQuoカード交付は会社法120条に反して違法であるとしています。
3.まとめ
この判決によると、つぎの3つの要件をクリアした場合は、会社の株主への利益供与は許容されることになります。
①利益が株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的に基づき供与されること
②個々の株主に供与される額が社会通念上許容される範囲のものであること
③株主全体に供与される総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないこと
今日の多くの企業は株主優待制度を設けることが一般化していますが、その取り組みにあたっては、株主平等原則などだけでなく、利益供与の禁止への配慮も必要であると思われます。
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