あぜん | なか2656のブログ

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ある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

新聞報道などによると、某T電力が被害者の方々に
配布した損害賠償の請求書類が、請求書自体が60
ページ、その説明書が160ページだそうで、
正直、驚きました。


電気、ガス、水道、保険などの、定形的・大量な
取引形態においては、事業者側が約款を作成し、
それにしたがって各種の契約が締結されます
(いわゆる附合契約)が、電気事業者であるT電力は、
悪い意味での約款的思考から抜け出せていないのでは
ないかと思います。不法行為に対する賠償は、定形的
な業務になじまないものではないかと思います。
(あるいは”殿様体質”なのかもしれませんが・・・。

なお、同じ附合契約である保険契約における保険金

などの請求書類は、多くても8枚くらいです。)


また、たしかに民法における不法行為の規定においては、
不法行為に基づく損害賠償請求においては、被害者側が
その主張・立証責任を負うこととされており、
さらに、民事訴訟法においても、権利を主張する側がまずは
主張・立証を行うこととされています。
しかし、今回の事故は、加害者たる事業者側と、被害を受けた
市民との間の、情報力や交渉力などの力関係に格差がある
典型的な事案であるように思われます。
このような場面では、もし訴訟となった場合は、「一応の推定」
が裁判所による認められる可能性が高いのではないかと思

われます。

「一応の推定」とは、たとえば医療過誤訴訟や不法行為訴訟

などにおける被害者である原告が、病院や大企業などの被告

と比べると情報力や力関係などが劣り、過失や因果関係の

証明などにつき証明責任に困難な地位にあって、そのような

場合に訴訟上の地位の実質的平等の実現を目指すために、

被害者側の主張・立証の程度を下げることを認める訴訟上

のやり方です。

このようなことを考えると、T電側が、日本の史上まれにみる

事故を引き起こしたにもかかわらず、60ページもの書類の

提出を被害者に求めるということは、とても奇異なことと

思われます。