茨木市職員組合事務所明渡請求事件判決(大阪高裁昭和40年10月5日) | なか2656のブログ

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行政上の強制執行が認められる場合に、民事上の強制執行(司法的強制あるいは司法的執行)が許されるか?

これは簡単そうで、かなり悩ましい問題です。


この点、櫻井敬子・橋本博之『行政法[第2版]170頁以下は、学説からの批判は多いものの、a)最判平成14年7月9日判決(宝塚市パチンコ条例事件)(b)昭和41年2月23日判決(『行政判例百選Ⅰ』111事件)などの「判例により不可とされている」、としておられます。

これに関して、塩野宏『行政法Ⅰ[第4版]204はさらにこの問題を分解し、(1)法律上特別の義務履行確保の手続きが用意されている場合と、(2)用意されていない場合とに分けて説明されています。

すなわち、塩野先生によると、(1)の場合は、(b)判決があるが、この判決は「立法趣旨に適合している」ので妥当であるとされております。しかし、(2)の場合に民事上の強制執行を認めないとした(a)判決に対して、塩野先生は、「法律上の争訟をこのように片面的に把握することに根本の問題がある」とともに、「わが国の行政上の義務履行確保制度の歴史的・比較法的考察」の観点から、「二重の意味で疑問」であるとして、「戦後のわが国の強制執行体制の展開の意義に全く理解を示さない」と痛烈な批判をなさっておられます。


ところでさらに悩ましいのが、この(1)の場合に関しても、たとえば芝池義一『行政法総論講義 第4版補訂版』206頁以下は、「少なくとも行政上の強制執行が著しく困難であるなどの事情により司法的強制によるべき必要性がある場合には、その可能性が認められるべき」であるとしており、同様に(b)判決に反対する多くの学説があるようです(小早川・原田・兼子など)。

そしてこの(1)の場合に関しては、多くの文献で引用されている行政代執行に関する有名な下級審判決である、(c)大阪高裁昭和4010月5日決定(茨木市職員組合事務所明渡請求事件 『ケースブック行政法 第4版』7‐1事件)は、傍論ではありますが“市は、職員組合に対し、市の事務所の明渡を求める公法上の当事者訴訟または民事訴訟を提起することができる”という判断を示しています。


そこでこれが一番悩ましいのですが、(a)の宝塚市パチンコ条例事件判決の出された平成14年の翌年である、平成15年の国家Ⅱ種の問題として、この(c)の茨木市に関する判決がまるまる1題として出題されているという事実です(『公務員試験 新スーパー過去問ゼミ2 行政法[改定版]155)。国家公務員試験の問題は、人事院のお役人の方々と、その委託を受けた学者の方々が作成なさっているといわれています。この平成15年の国家Ⅱ種の問題は、(a)の宝塚市の判決がでたことを受けて、受験生に対して、その前提として、(c)の判決を知っているか?と問う、ひっかけ的な要素の強い、難易度の高い問題であると思われます。(正直、受験生の正答率は低かったのではないかと思われます。)


公務員試験や行政書士試験などの受験生としては、“原則として、(a(b)の2つの判例により、行政上の強制執行が認められる場合は、民事上の強制執行は許されないが、しかし(c)のような下級審判決があり、それを支持する学説もある”と押さえておくべきなのでしょうか。かなり細かいところですが、悩ましいところです。


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