こんにちは。

 

前回、法令で用いられる「っ」の表記の変遷について触れました。法令といえども、不変のものではなく、時代につれて変化していくということです。

 

学生の頃、少々法律をかじった中高年にとって、一番の変化は、民法の条文が口語化されたことだと思います。

 

朝ドラ「虎に翼」では、戦前の女子学生が古い文語体の民法を学習するシーンが出てきます。


民法で言うと、戦後に制定された家族法の部分だけは口語体のひらがな混じりでしたが、他の部分は文語体の漢字とカタカナによる表記だったのです。

 

普段読むことのない文体の条文は、あたかも漢文を読んでいるような感覚でした。


読むだけでも大変で、その意味まで解釈するところまでなかなか行きませんでした。

 

例えば、民法709条の「不法行為」の条文は、「故意又ハ過失因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ」に始まります。

 

これが、口語化されて「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護された利益を侵害した者は」に書き換えられたのです。

 

これが行われたのが、何とまだ20年ほど前の平成17年4月のことでした。


口語体になってようやく、法律に書かれていたことがすんなりと頭のなかに入ってきたという人も多くいたと思います。

 

法律が庶民に歩み寄った瞬間だったと言えます。

 

この条文では、こっそりと「法律上保護された利益」という部分が追加されているところにも、法律が成長した跡を見ることができます。

 

実は現存する法律のなかにも、文語体のままの法律もあります。


「失火ノ責任ニ関スル法律」もそうですし、「身元保証ニ関スル法律」もそうです。


口語体にされていない理由は定かではありませんが、わざわざ書き換えるまでの内容でもないということなのだと思います。

 

これからさらに20年もしたら、今の条文では分かりにくいと言われて、もっと平易な文体に歩み寄ることになるかもしれません。

 

今回もお付き合いいただきありがとうございました。次回の更新でお会いできたら嬉しいです。