消費税が価格支配力を生む28.10.7
 事業者側にしても消費税実施に於いて理解が不十分だった。だいいち、資料も説明も事実上存在しなかったのであるから。賛成しない奴は非国民との風潮だけがマスゴミによって流布された。新聞・テレビは今こそ財務省に忠勤を示す時とばかり宣撫工作の御先棒を争う様にして担いだ。

(後の増税時の話になるが、テレビや講演で人気の自称元鬼検事の堀田力様は、テレビで以下の趣旨を力説しておられた。
『かっての国民は「利己主義」で自分に損になる増税のようなことは絶対反対だった。それが32%ものひとが賛成するようになったのはすばらしいことだ!』
 私の個人的体験に照らしても検事の自称良識なるものには重大な疑義がある。)

  消費税の毒素を諸(モロ)に浴びるのは、納税責任を負う、末端の零細事業者に他ならなかった。しかし多くは日々の稼ぎに忙殺されて、検討する余裕もなかった様だ。
 零細事業者にとって消費税がどれほど致命的な殺傷力を持つ税制か、不幸にして彼らは未だ分っていなかった。実は彼らこそ最初のモルモットだったのである。

 収益からの1%ではない。売上からの1%なのだ。これがどれほど恐ろしいことか。予測しただけで怖ろしくなったのではないのか。仮に1%であれ、売上から問答無用で刎ねられたら、どうなるか。イマジネーションすることが出来なかった。否、無意識に想像しまいとしたのではあるまいか。

  業種によっては売上比で利幅1%と言うものもあるのではないのか。薄利多売を旨とするスーパーや小売は該当する事業者も居るのではなかろうか。その1%が命綱の人も居られよう。
 1%は比喩としても、現実に売上比5%程度の利幅で商売している人は大勢いる。それで1%が税金で刎ねられたら2割の減収になる。死活問題だろう。3%刎ねられたら憤死だ。日本人特有の対世間的見栄で、涼しい顔を取り繕うが、心はブリザードだろう。

 斯くして所謂良心的商いに徹する者ほど深刻な事態に直面する。己が利を削って需要側・消費者に奉仕して来た者ほど、退引(ノッピキ)ならない事態に追込れる。良心的な者ほど不幸になるとは、何とも皮肉な話ではないか。悪魔の税制、は決して誇張ではない。

 成る程、利幅30%40%の事業者は当初は左程の痛痒はあるまい。だが消費税が10%になったらどうか。事業者側も気が付かないうちに、納税出来る者と、出来ない者とが、峻別されているのではなかろうか。
 それでも納税がキツクなると、納税分の利幅を確保せんが為に悪足掻きに走る。仕入れの品質を落としたり、従業員を正社員からアルバイトに替えたりする。当然のことながらサービスは劣化し顧客は離れ、売上も急降下。
 結局残るのは、納入業者に消費税分の8%の値下げを強要できる者、即ち価格支配力を持つ大手だけとなる。逆に言うと資本力のある大手にとっては寡占化を進めるうえで、消費税は強力な援軍になるという事である。消費税によって、大手が自ら手を汚さずとも、自ずと、正確には財務省の手で、中小は衰弱死していく訳だから、大手にとっては万々歳のシステムなのである。

 ここで事業者は最初の関門に出会う。つまり消費税分を価格に乗せられ事業者と載せられない事業者に振り分けされるのだ。載せられるのは、ある程度の価格支配力を持つ事業者である。商品に独自性があったり、競合他社が少ないケースだ。現実には潤沢な資本力を誇る企業となる。

 此処で我々はお人好しながらも気付かざるを得ない。即ち、財務省は最初から、価格に消費税分を載せられないような事業者は、身銭を切って消費税分を払えと宣告していたのだ、という事である。たぶん斯かる弱小事業者は淘汰されて然るべき存在だと役所は踏んでいたのだった。我々は役所や政府を信じたばかりにウマウマと口車に載せられ、ド壷に叩き落された。己のお人好しさ加減を愧ずる外はない。財務官僚様の方が役者が一枚上だった。
 
  事業者は此処で選択を迫られる。消費税相当分を自分で被るか、消費税を請求できずに事業を廃止するか、だ。それで私めも躊躇なく廃業し、隠遁生活に入った次第です。

 此処で言いたいのは「消費税は市場メカニズムを強烈に歪めてしまう」という厳粛な事実だ。業種によっては自由競争が死滅し既に寡占独占が達成されたところもある。
 消費税は価格支配力を持つ大資本に極めて有利に作用し、その結果、市場メカニズムを破壊し、寡占や独占が招来されてしまうという事である。

  勿論、財務省は言うだろう。
「価格に消費税分を上乗せすれば済む話ではないか。こんな簡単なことも出来ないのか」と。半ば呆れ返った顔で宣う。
「我々は適正に業界を行政指導して来た」と胸を張る。「役所は遣るべき指導は果たしており、それ以上は干渉できない」
 と言うに決まっている。」
「吹けば飛ぶような零細事業者の分際で、役所の手を煩わせるんじゃない!」
 と最後はお叱りを賜る。