11/28 水膨れの円を有難がれ
 アベノミクスとやらの効果で、日本の富裕層の数が増えたとかで「勝った、勝った」と大燥(はしゃ)ぎのご様子だが、小学生の算数が分かっておられないのではないのか。
 例えば漱石が高等師範学校英語教師をしている頃の初任給は80円だったが、これを今の80円と比べる人は居ないだろう。明治28年~明治38年の話だ。因みに松山中学校教諭の坊っちゃんの給料は40円で、本の中では不満たらたらだ(「そんなものが出来るくらいなら四十円でこんな田舎へくるもんかと控所へ帰って来た」「そんなえらい人が月給四十円で遥々(はるばる)こんな田舎へくるもんか」等々と文中に在る。)
 何かを測るには不変で絶対的な尺度に基づかなくてはならない。定規や重量計に匹敵するのは、金融であれば金(ゴールド)か、若しくは基軸通貨のドルになろう。
 円を円で図っても意味はない。既に円はマネタリーベースで3倍程に薄まっており、薄まった分だけ価値を損なっている。水増しされた円で測れば、嵩が増えて算出されるに決まっている。
 本年11月発表の野村総合研究所のデータによるが、まず定義として超富裕層なる人々をして純金融資産5億円超、富裕層なる人々をして純金融資産1億超~5億円以下、とするのだそうな。純だから住宅ローンなどの債務を引いた正味の金融資産である。
 それが平成23年と平成25年とを比較して、超富裕層が44兆円から73兆円、富裕層が144兆円から168兆円に増えているから、アベノミクス大成功なんだと仰る。手放しの歓び様だ。
 しかし子供でも明治38年の40円と平成26年の40円は比較しない。
 平成23年の資産がそのまま平成25年に移行したとして、各々をドルに置き換えて比べてみる。平成23年が1ドル76円、平成25年が1ドル118円とすれば、理論値で次の価格となることになる。
 超富裕層が44兆円×118円÷76円=68.3兆円となるし、富裕層が144兆円×118円÷76円=223兆円となる。
 すると超富裕層は名目値73兆円に対し理論値68.3兆円となり、まずは良いとして、富裕層は名目値168兆円に対し理論値223兆円となって乖離が大き過ぎる。
 そこで比率を変えて平成23年が1ドル80円で、平成25年が1ドル110円とする。すると、144兆円×110円÷80円=198兆円となる。
 つまり富裕層の純金融資産は円安効果で最低でも198兆円に嵩増しになっていないとおかしい。しかし現実には168兆円だから、168兆円-198兆円=-30兆円、つまり実質価値で30兆円損失したことになる。
 見方を変えて平成23年の144兆円がそのまま平成25年に168兆円になったとして、対ドルレートで、円が80円から幾ら値を下げたら、そうなるのか。レートの理論値を出せば、80円×168兆円÷144兆円=93.333円 となる。
 つまり円が対ドルレートで93.333円まで下がると、円が薄まって144兆円が168兆円に水膨れして見せて呉れることになる。然るに平成25年の時点では既に対ドルレートで105円以下に下落していた訳であるから、168兆円では水膨れの度合いが全く足りないことになる。223兆円とは云わなくとも200兆円位に水膨れになっていないと奇怪しい。
 「為替のド素人が黙っとれ!」と金融の大先生方のお叱りを受けそうだが、そのド素人でも小学生の掛算割算で、この程度は理解できる。
 素人がサラッと検証しても分かるように、アベノミクスの正体は円安による初歩的な為替トリックに過ぎない。円通貨の価値を毀損することでの、円ドルレートでの見せ掛けの嵩増しが正体である。
 正体は為替トリックによる嵩増しだから、別にアベノミクス大成功の証明でも何でもない。むしろ逆に大失敗たることを証明している。現にたったこれっぽっの資料だけでもアベノミクスとやらの中味の貧困が伺えるし、大惨敗が証明されている。