3/18 偽ドルとインフレ誘惑
 貨幣国定学説は、現代なら違和感無く受け入れられる説だろう。なにせ現に政府発行の紙切れが1万円とかの価値があるものとして流通しているのだから。ドル札に至っては紙質の悪さといい透かし技術の稚拙といい、偽造してくれといわんばかりのシロモノである。思ふに北〇〇やメ〇シ〇辺りが偽造の魅惑に負けない様に、日本の最先端技術でドル札を印刷して遣ったら良いのではないのか。そうすりゃドルの流通量を日本がコントロールして遣れる。印刷手数料を安くしますから、是非どうぞ。
 余計な話だが、アメリカはドルの偽造に妙に寛大なところが有る。何で寛大かというと自分の所で印刷する手間暇を省いてもらっている様な気になっているからではないのか。どの道、アメリカはドル札を刷れる限り刷ってドルを徹底して薄めることで、借金踏み倒し、までは行かなくとも、債務の「実質」を極限まで縮小させることを目的としている。国是と言ってもいいくらいだ。ドルで債務返済するのであれば、ドルが薄まれば薄まるほど、返済の「額面」金額は変わらなくとも、「実質」の返済額は縮小する。だから少しくらい偽ドルでドルが薄まろうが、どうってことない、と云う本音が見え隠れする。
 ドル札が偽造されても平気だし、ドル札を粗雑な造りから精妙な紙幣に造り変える気もない。遅かれ早かれ紙屑になるのであれば、ドル札1枚を刷るのに余計なコストを掛けるのもバカバカしい話であるに違ひない。
 実は貨幣国定学説は現代に至ってみると案外に俗な説だったことが知れる。アカデミックでも何でもない。マネタリストなどと自称他称なさるから、我々気の良い庶民大衆は何やらスタイリストの一種かと錯覚して、格好良いカタカナ職業かと思ったりするが、中味は只の「お気楽札(さつ)ビラ信者」だ。札ビラで世の中良くなるなら、こんな楽なことオマヘンガナ。
 そして貨幣国定学説はそのままだとインフレの誘惑を自動的に孕んでいる点で危険性を持っている。欠け瓦でいいのなら政府はついつい通貨の過剰供給に走ってしまうからだ。節度を保てという訓誡諫言が、利に走り功を急ぐ現代人には耳に届かない。通貨が過剰供給され通貨が価値を落とせば、自ずとモノの価値は高騰する。貨幣国定学説はインフレ誘惑を内包するが故に、その発行量の節度を保つこと、ラクダが針の穴を通るより難事なのである。
 だから、荻原重秀勘定奉行が金の含有率を半分にした金貨を発行流通させたということは、頗(すこぶ)る賢明な処置だったと評価できる。金を一定量含有させることで供給する通貨量が自ずと制限されたからである。なまじ紙製の幕府札や証書にしていたら限度が無くなって、インフレは拡大し、遂には恐慌に至ったことだろう。