7/29 猶予期間6カ月の賃貸借 
 平成16年に短期賃借権が無くなった代わりに、「猶予期間6カ月の賃貸借」というものが作られた。民法第395条だ。
 より正確には「納付日から6カ月の猶予期間を持つ賃借権」というやつだ。
 教科書で「賃借権登記の無い賃借権」とか書かれてある。
 しかし短期賃借権が廃止されて以降、そもそも賃借権を登記する酔狂者などいない。
 登録免許税からして固定資産評価額の1%だ。抵当権ですら登録免許税は債権額の0.4 %なのに、それより税率が高いのだ。固定資産評価額が1000万円の建物なら登録免許税が10万円だ。だれが払うか。
 その代わり仮登記なら不動産1個に付き千円だ。
 だからア〇クもア〇フ〇も、賃借権仮登記だし、地上権設定仮登記なのだ。

 登記は途も角として、普通に読むと「猶予期間6カ月を持つ賃借権」というのがイマイチ分り難い。
 正確に説明すると「建物の使用をしたことの対価」を「買受人の買受けの時より後に」「履行」し続ける場合に限り、6箇月だけ「引渡命令」の申立を待って貰える「賃借権」と言うことである。妙に持って回っている。不思議なレトリックが潜んでいる。同法同条2項は、たぶん我々アタマの弱い平民には金輪際作れない日本語である。
 換言すれば、猶予期間6カ月とは只で待って貰える6カ月ではなく、あくまで「対価」の支払いと引き換えによる、占有保証の「6ヶ月間」の意味である。
 対価の支払いとは、云うまでもなく毎月欠かさぬ賃料の支払いを云う。だから1ヶ月でも滞納すれば、猶予期間の6ヶ月の失効要件となる。(同法同条2項)。
 競売特有の賃借権と言えるだろう。
 通常の賃貸借より、賃貸人たる落札人に有利になっている。
 通常の賃借権の場合、3ケ月位の滞納がないと催告解除を裁判所は認めないのではないのか。滞納の事実が3箇月あって、それから相当の催告期間が必要になる。悠長な話ではある。裁判を起す頃には、いいとこ6箇月近くになっていたりする。
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因みに条文は以下である。
民法第395条(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
1 .競売手続の開始前から使用又は収益をする者
2 .強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
2前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその1箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。