場違いな感想だが、鎌倉・室町時代から日本人は漫画が上手かった。「近世職人尽絵詞」「三十二番職人歌合」「松崎天神縁起絵巻」など、江戸時代に描かれたものも含むが、これを漫画と言わずして何と言うべきか。
 この躍動感・生命力は、おそらく今でも外国人には描けない。アメリカンコミックスの堅苦しさ、画一性、工場生産臭などに至っては論外だ。男はマッチョか、補助とオカマのロビン、女性は頬が欠けてスレンダー美女、悪役はデブかガリガリのインテリ風、役割そのものがお決まりだ。表情の情感や素(す)の姿は、そこにはない。あくまで役割の表情であり、定められた階級階層の動作・言語から一歩も出ることはない。
 絵巻物に描かれている人々が何よりも仕事を生きている姿がいい。仕事を楽しむなどという、わざとらしさが無いのがいい。仕事そのものが生きる姿になっていて、仕事をしている事自体が即ち生きることであり、生きていて仕事をしていて楽しいという雰囲気がそのまま伝わる。
 そして昔の人はたぶん、どんな仕事もこなした。こなさなければ生きていけなかった。こなしたなどと言う作為も無いのかもしれない。皆が家造りに溶け込んでいる。現代人が思う一体感とか和とかいう意識の世界、誂え物と別な世界がそこにはある。

「中世と近世の職人たち
「絵画資料から近世と中世の職人たちの仕事ぶりや工具の一端が伺える。一番印象的なのは、中世の職人たちは腰を降ろして小さな工具、例えば手斧を片手で持って木材をはつっている。職人たちは楽しみながら仕事しているように描かれている。近世では大型の工具を両手で持って立ち姿で仕事をしている。能率を上げようとしているようだ。近世初頭の城郭の建設は職人たちの仕事ぶりまでも変えたのである。
10/12 (続き)宮澤智士長岡造型大学教授「民家の普請と地方色」」