建築用語とは主に大工の間で使われた業界用語のことだ。現場の大工同士で使われた一種の符丁だ。正確に仕事を進めるために、用語の定義を限定し、正確に間違いなく意思伝達するために、生まれたものに違いない。一方で現場には、建築に関係する設備業者等も来るが、建築には初めての施主も来れば、建築には無関係の金融屋や食事の配達人なども来たことだろう。それに近所の見物人も来れば、役所の人間も来たかもしれない。符丁はそれら周縁の人々に、それと知られたくない時に、意思伝達するために生まれた要素もあろう。つまり、伝えたい意思と隠したい意思が同居している。符丁を知れば、人は何を伝え何を隠そうとしていたのか分かる。日本人の或る特定の職能団体が何を伝え何を隠そうとしていたのか我々は知ることができる。

ところで、建築用語の中で「現し(あらわし)」と言うのが有る。これは建物の中で、本来隠すべき箇所を、敢えて現すことにより、隠すべきだった箇所を、より見映え良く美しく作り上げることを言う。これなど現代の日本人にも共通する感性ではないのか。例えば女性が態と下着が見えるようなスカートを纏ったり、技と背中が見えるような上着を着込むことだ。見られることを目的に、見られるための下着を身に付け、背中もエステやら何やらで手入れを欠かさない(のだと信じたいが・・・)。しかし中には本来隠すべき己の愚かさを、敢えて大衆に晒しながら、晒しているとも気付かない高級官僚もおられますが。・・・                                                   ちなみに建築用語の「現し」をいま少し正確に言うと以下となる。                                                           通常隠蔽する部分を、敢えて露出させる仕上げのこと。例えば小屋裏は天井に隠れるが、天井を張らないと小屋裏現しとなる。また二階根太も天井を張らずに現せば根太現しとなる。現す以上は、見られて耐えられるように化粧を施さねばならず、精妙巧緻な技法と工作が必要になる。従って、結果の価格は天井を張るより高くつく。要は金持ちの道楽であり、自分が金持ちであることを見せつけたい気持ちを、「現し」ているである。

他に面白いところでは「行って来い(いってこい)」がある。一度送りだしてから引き戻して、所定の位置に納めること。たとえば、追い入れ(大入れ)の仕口で、反対側の掘り込みに差し込んだ後、引き戻して完成状態とする仕事などをいう。

「いじめる」というのは、二つの部材が互いに干渉して納まらない時に、片方の部材を取るなどして、部材自体を完全な状態ではなくしてしますうこと。一方の部材を切り取るなどして、無理に納めることをいう。ナットが柱や鉄骨に当たる時、ナットの円弧の一部を取り去ることを、イジメルという。

                         

「建築用語 チリ・ツラ・コロシ
建築用語でチリと言うときは、綺麗に仕上げるために工作上必要な段差のことを指し「散り」と書きます。和室の壁と柱の段差のことなどを壁散りなどと表現します。
ツラは面、部材の表面を指します。部材表面の制度が良くなくて見栄えが悪いことを「面が悪い」と表現します。
コロシはそのまま殺す、役割を終えた物を指します。例えば電線の配線などが不要になった場合に「そこの電線はもうつかわないからコロシておいて」などと使います。それ以外にも以下があります。
  イジメル・・工事期間を短縮すること
  ナク・・・・・工事代金などを短縮したりすること
  ニゲル・・・寸法などに少し余裕を持たせること
(川上幸生先生著「住育検定」より)」