2018年11月2日公開、中田秀夫監督作品「スマホを落としただけなのに」、公開日が稲川さんの「怪談ナイト@CLUB CITTA'」と重なってしまって公開初日には観に行く事が出来なかったのですが、公開3日目に観てきました。皆さんはご覧になりましたか?

 

 

● 「スマホを落としただけなのに」公式Webサイト

 

↓この先「ネタバレ」あり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 劇場公開前から中田秀夫監督の新作「ホラー」だという事で、期待していましたが、「どこがホラー…?」という内容でした。

 2015年公開の「劇場霊」は間違いなくホラー映画でしたが、不慮の事故で亡くなった3姉妹の長女の霊が乗り移った「人形(ちょうだいちゃん)」が二人の妹たちを襲い、その後、主人公にも襲いかかるという「怪談の方程式」からすると「…?」な展開に疑問が残りましたが、ホラー作品らしい仕上がりでした。

 今回もそのような「ホラー作品」をイメージしていたので、原作からどこまで飛躍したホラーになるかと思ったら、「ミステリー」でしたね。

 

 この作品、ミステリーの要素として主人公=稲葉麻美(北川景子さん)に迫る「犯人」が誰なのかという事が重要で、それが判ってしまうと劇場へ足を運ぶ方が少なくなりはしないかと劇場公開中は記事を書かずにいましたが、ほぼ公開終了という状況になったようなので、「ロケ地マップ」と合わせて感想など書きたいと思います。

 

「スマホを落としただけなのに」ロケ地マップ(2019/1/29)

 

あらすじ

 主人公=稲葉麻美(北川景子さん)と結婚を考えている富田誠(田中圭さん)がタクシーに置き忘れた「スマートフォン(スマホ)」をとんでもない男=浦野善治(成田凌さん)に拾われ、麻美の命までもが狙われる事態に発展するという話。

 

 そもそも「スマホ」を落とさなければ、こんな事にならなかった…。よしんば落としたとしても、浦野のような異常な人物が実在するのか?と言ってしまうと、身もふたもない話になってしまいますが、犯人=浦野の幼少期の体験から来る長い黒髪への執着や、連続殺人という映画的な要素を除くと、「フィッシングメール」で「個人情報」をだまし取られたり、「ランサムウェア」でスマホやパソコンを人質に取られるという事案は、いつでも誰にでも起こり得るので、他人事ではない怖さは十分に感じました。

 

 私のところにも「Apple」を装ったフィッシングメールが届いた事があります。「あなたのApple IDをロックしました。」という内容でしたが、IDをロックするも何も、そもそも、そのメールアドレスはAppleに登録していないので、すぐに偽メールと分りましたが、メールからリンク先へアクセスしてアカウントやパスワードを入力してしまうと、スマホを落とさなくても、個人情報を盗み取られて、この映画の主人公と同じ被害を被る事になりますのでご注意を!

 

● トレンドマイクロ『突然の「Apple IDが無効」メールに要注意』Webページ

 

東京都内のロケ地

 

 物語りは、富田誠(田中圭さん)がスマホをタクシーに置き忘れた事から始まります。スマホを置き忘れても気が付かないほど重要な「商談(プレゼン)」を控えていた事が「置き忘れ」の切っ掛けですが、スマホをなくした事に気付いて自分の会社に公衆電話から電話をかける時もプレゼンのための資料は決して手放さないという演技で、プレゼンの重要度を表現していました。しかし、その大事なプレゼンを控えて、タクシーの中で仕事中の彼女(稲葉麻美=北川景子さん)とメッセージのやり取りをしている誠に問題あり。

 

 

 

地下鉄に乗り換えるために最寄り駅へ。しかし、地下鉄は不通。

 

上司に連絡を取ろうとしてスマホがない事に気付き、「うっそ、だ、ろぉー!」。

 

しかし、「携帯落としたあるある」で、商談は大成功。

 

 その頃、麻美が会社から誠に電話をかけると、誠のスマホはタクシーでスマホを拾った犯人=浦野善治(成田凌さん)の手にあり、麻美がそのスマホを受け取りに行く事に…。

 この時の「犯人」の部屋の場面で流れるバックグラウンドの音楽が「タヒチアン」なのが笑えるのですが、この音楽の盛り上がりが犯人=浦野の気持ちの「高揚」を表現しているらしく、犯人が麻美や誠に成りすましメールや偽のメッセージで罠を仕掛ける時には必ずバックでタヒチアンが流れています。

 スマホやパソコンを操作するという地味な映像に、犯人の心理状態を表すタヒチアンを重ねて場面全体を盛り上げるという手法なのだと思います。黒髪のロンゲの犯人にタヒチアンの音楽は、最初は異様でしたが、物語が進むうちに犯人の高揚感が伝わって来て面白くなりました。

 

 

 YouTubeにそれらしいタヒチアンの音楽があったので貼っておきます。この音楽が流れている時の浦野善治の気持ちは「ウキウキ、ノリノリ」なのだろうと思います。

 

 

 犯人の仕掛けた「罠」とも知らずにスマホを受取りに出かけた麻美でしたが、いきなり「みなとみらい」の「JR桜木町駅」前の歩道橋が出てきてビックリ。スマホを受け取りに行ったカフェが、「クイーンズスクウェア」や「マークイズみなとみらい」にあるのかと思ったら、カフェは「中目黒」。違和感なく場面がつながっているのはお見事な仕事です。

 

神奈川県内のロケ地

 

 

歩道橋を上がってきた麻美、背景は横浜名物=ランドマークタワー。

 

 

 

 落としたスマホが無事に戻ってきて一安心。「スマホは宝箱」だとか、「スマホは自分の分身」だとか、犯人の企みも知らずに「ボーッとプラネタリウムなんか観てんじゃねぇーよォ!(チコちゃん風)」と突っ込みつつ、これからこの二人が「地獄」に落ちるのかと思うと、自分の中でもタヒチアンが鳴っている感じがしました。これがこの映画の本当の怖さ…。

 スマホを落とす事も怖いのですが、本当に怖いのはスマホの落とし主にも、その関係者にも何の恨みも無くても「どうせ赤の他人のデータだから…。」と、面白半分に他人の個人情報を拡散させてしまう、ごく一般的なネットユーザーの存在が一番怖いのです。その人たちには、データの主を不幸のどん底へ突き落としてやろうという「悪意」も無く、データを拡散する事が他人の人生を弄ぶ結果になるという事に対する「罪の意識」も感じていない。データの主に降りかかる迷惑を想像する事もなく、面白半分に拡散してしまう、ごく普通のネットユーザーが本当は一番怖い…。そして、一度インターネット上に拡散したデータは、完全に削除する事はできない…。

 

 

本編ラストで再登場して、次の犠牲者を感じさせる展開に…。

 

 原作小説では「長い黒髪の女性」が被害者になる殺人事件が発生している事を主人公も知っていますが、映画では主人公のスマホの件とは別に、毒島徹(原田泰造さん)と加賀谷学(千葉雄大さん)の二人の刑事が事件の捜査しています。

 

 

捜索にあたる刑事の背景に見えた建物か?

 

 捜索現場で「蛭(ひる)」に慄いていた加賀谷ですが、システムエンジニアから刑事に転職してきたという変わり者。だた、インターネットやコンピュータに詳しい人物がいないと犯人に対抗できない事情もあり、無理やりな人物の設定ですが致し方ないところでしょうか。

 加賀谷の推理で事件の被害者の境遇を推測して犠牲者の共通点(長い黒髪に執着)から犯人像を推測し、捜査が進んで行きます。

 なお、本編では「加賀谷の生い立ち」を所々に挟むことで、加賀谷が真犯人であるかのようなミスリードを意図した演出が多々あります。

 今のところロケ地は不明ですが、子供の頃の加賀谷が母親に「あんたなんか産むんじゃなかった…。」と言われる場面、玄関と下駄箱から「ほんとにあった怖い話 夏の特別編 2018」、「ナニワ心霊道」でガンバレルーヤのよしこさんが遺品整理に訪れた家(ハウススタジオ)かもしれません。

 

事件の被害者の家族のスマホに残った留守番電話のメッセージにヒントが。

 

 

「音の捜査」と言えばココ、「日本音響研究所」。

 

 二人の刑事が追う犯人と、スマホを拾った人物がどこで結び付くのかが楽しみでしたが、麻美が職場の仲間の杉本加奈子(高橋メアリージュンさん)と食事をしながら自分のSNSを再開させてあたりから犯人の活動が活発になります。

 私は「facebook」や「instagram」、「LINE」などを利用していないので、ここから始まる犯人の「成りすまし攻撃」は、今一つピンとこない感じがしますが、この物語のテーマの一つが「成りすまし」でもあるので、一人の犯人が複数の人物に成りすまし、麻美とその周囲の人物を混乱に巻き込んで行きます。

 

 

 

 誠は、もし再びスマホを落としたとしても見つけ出せるようにと、スマホに「追跡アプリ」を自分のスマホと麻美のスマホにインストールします。ここでインストールしたアプリが後々麻美を救うことになります。

 

 

この時、誠がインストールした追跡アプリが麻美を救うことに…。

 

家族に挨拶をしたいと言う誠と、それを拒む麻美…。

 

雨の中で険悪な雰囲気になる二人。

 

 誠を、なぜか家族に会わせたがらない麻美にも「成りすまし」の秘密があった訳ですが、その秘密を犯人に暴かれてしまうという展開は原作と同じです。

 

 平和が戻ったかと思った誠でしたが、誠のスマホは犯人が仕掛けた「ランサムウェア」に乗っ取られ、そのトラブルを解除するためにSNSの知り合いに頼むことに。しかし、それまでもが犯人が仕掛けた「罠」。トラブル解決のために現れたITサポート企業の社員(浦野善治)が犯人だとは予想していませんでした。

 

 

 

 ITサポート企業のシステムエンジニアの部下を装って現れた犯人がランサムウェアを解除し、さらに、ランサムウェアの送信元を警察に通報、毒島と加賀谷に発見させる事で連続殺人事件の濡れ衣も、死体で発見されたネットカフェ店員に被せようとする浦野の狡猾さはミステリー作品の見せ場の一つですね。

 

 

浦野がパソコンを操作していた部屋もここなのかは不明。

 

 スマホのトラブルも解決し、連続殺人事件も解決したかのように見せて、ここから麻美の人間関係を破壊するための浦野の成りすまし攻撃が本格的に始まります。

 麻美の派遣社員当時の先輩社員の小柳守(バカリズムさん)を、成りすましで「ストーカー」に仕立て上げ、大学時代の知り合いの武井雄哉(要潤さん)を接近させ「キス動画」を撮影して誠のスマホに送り付け、麻美のスマホには「誠と千尋の密会場面」を送信。誠の浮気現場を押さえた麻美は路地で誠に強烈なビンタをお見舞い。二人の仲は完全に終了という浦野のイメージ通りの展開に。

 

 

 

 

 

横浜のパブを出て、六本木ヒルズまで来てビンタ!

 

「グー(パンチ)」で殴って、誠ノックアウト!という展開も面白かったかも。

 

 本編では、麻美を盗撮する犯人のスマホは映し出していても、犯人の姿は「長い黒髪でパソコンを操作する後ろ姿」しか見せていないので誰だか判りませんが、いよいよ「仕上げ」の工作。麻美に成りすました犯人が武井を貶めたり、麻美のスマホがランサムウェアに乗っ取られたり…。

 ミスリードの演出で麻美の自宅マンションに、ストーカーと化した小柳がやって来たようなシーンがありますが、いよいよ麻美自身が混乱状態になり、以前に世話になったITサポート企業の浦野に相談する事になります。

 

 

うちの近所の新築マンションでした!

 

 徒歩数分のところにある新築マンションで撮影が行われていたとは、まったく知りませんでした。知っていれば中田監督にサインをもらいに行けたかもしれない…。生で北川景子さんを見られたかもしれない…。と思うと、残念で仕方がない…。

 

● 「大和地所レジデンス」ドラマ・映画ロケ地紹介Webページ

 

 完全に浦野の策にハマってしまった麻美は一人で浦野と会う事に…。ここでいよいよ犯人=浦野が本性を現し、誠のスマホを拾って以降の一連の犯行を打ち明けます。タヒチアン鳴りっぱなし!浦野の気持ちは大盛り上がり状態。睡眠薬で眠らせた麻美を「アジト(遊園地の地下室)」へ連れ去ります。

 犯行を打ち明ける浦野の楽しそうな表情と、バックで流れているタヒチアンがマッチして面白い場面です。誠のスマホのトラブルを解決した時の浦野と、同じ人物とは思えない成田さんの演技が良かったです。

 

 

防犯カメラの映像で、加賀谷たちが犯人の足取りをつかみます。

 

 地下室に監禁された麻美は「声」でスマホを操作して誠に連絡を取ろうとするものの、浦野に気付かれて失敗。しかし、誠は一瞬つながった麻美のスマホの追跡アプリの位置情報を頼りに静岡へ。

 一方、連続殺人事件の犯人を追っていた毒島と加賀谷の二人の刑事はNシステムの情報を頼りに浦野を追って静岡へ。

 

 

コスプレイヤ―御用達のスタジオでした。

 

群馬県内のロケ地

 

 生い立ちに似た境遇を持つ「善のシステムエンジニア=加賀谷」と「悪のシステムエンジニア=浦野」が夜の遊園地で格闘戦を演じますが、Nシステムから情報が得られなくなって、最後は加賀谷の「勘」で遊園地へたどり着きます。浦野と加賀谷の二人の生い立ちの共通点が導いた結果かもしれませんが、ちょっと都合が良すぎるかもしれない展開です。

 

静岡県の遊園地という設定。

 

 

 犯人逮捕で一件落着かと思いきや、加賀谷たちが到着するまでの間に、麻美に関する秘密が明かされます。

 

 

 

 浦野が麻美の秘密を誠に話そうとした時、麻美自身が本当は「山本美奈代(桜井ユキさん)」で、本当の稲葉麻美は5年前に自殺している事を明かします。

 大学時代から仲が良かった二人でしたが、麻美が株で損をし、美奈代の名前で借金をして取り立てに追われる日々の中、麻美は美奈代として自殺する事で借金を清算して、美奈代に稲葉麻美として生きる人生を残した事を自ら打ち明けます。

 この5年間、成形手術をして稲葉麻美に成りすまして生きてきた事が明らかになり、誠を家族に会わせたがらなかった事も合点が行きました。

 事件解決後、一時は疎遠になった麻美と誠ですが、最終的にはあのプラネタリウムでよりを戻します。犯人は浦野善治という名前も成りすましのための偽名で、本名を明かすことなく終わります。

 麻美と誠がプラネタリウムの席を立った時、近くの席にいた高校生らしいカップルも席を立ちますが、二人が立ち去った後には男子高校生(ユウくん=北村匠海さん)のスマートフォンが…。

 犯人=浦野が本名を名乗らなかった事は、高校生のスマホを拾った人物が次の浦野になる可能性を示しているようです。一人の異常な犯罪者が捕まって終わる話ではなく、ネット社会に生きる誰もが浦野になり得る可能性を示すために、犯人を特定せず、本名を名乗らせなかったのだろうと思います。

 

 他人に成りすますと言う話で、宮部みゆきさんの「火車」もイメージしましたが、「IDとパスワード」を入手すれば簡単に他人に成りすます事ができてしまう脆弱なシステムで支えられた今日のネット社会の怖さこそが、この作品が「怖いもの」として訴えたいものなのだと思います。

 近い将来、持ち主の手を離れたら「自爆するスマホ」が開発されれば、スマホを落とす事は怖くなくなるでしょう。大事なデータはクラウドに保存されていても、そこにアクセスするためのスマホが自爆して無くなってしまえばデータを他人に盗まれる事は防げます。物理的に爆発しなくても、システムがスマホのOSも含めてすべてのデータを完全に消去してしまう機能を備えて、持ち主の操作一つですべてが「無」になれば落とす事は怖くなくなります。

 やはり、本当に怖いのはスマホの向こう側の見えないネットの世界でしょう。スマホの画面にメッセージの送信者の名前が表示されていても、その人物が本当に自分が知っているその人なのかどうなのか?画面に表示された名前を、その人だと信じてメッセージを交わしてしまう…。「成りすまし」に対してなす術がない危うい世界の中で、スマホ無しには生きられなくなっている私たちの未来が怖い…。そう感じさせてくれる映画でした。

 

 しかし、中田秀夫監督作品という事で、私はこんな筋書きも予想していました。

 もっと「ホラー」な「スマホを落としただけなのに」…。

 

 不注意からスマホを紛失してしまった誠。誰かに拾われたスマホから流出したデータが原因で、誠自身はおろか、麻美まで職場にいられなくなり、近所の目を気にしながら暮らす毎日。責任を感じた誠は首吊り自殺。

 

 

 データを拡散させたネットユーザーに「…復讐してやる。」という書置きを残して行方をくらませる麻美。

 

 

 と、時を同じくして各地で原因不明の変死事件が発生。事件の共通点はネット上のあるデータ(誠のスマホのデータ)にアクセスして拡散させている事。

 

 

 事件現場の防犯カメラには行方不明の麻美と思われる人物の姿が残っているものの、犯行を立証する証拠は無し。

 しかし、いつしか「呪われたデータ」の存在が噂になり、データの拡散が止まった時、麻美の自殺体が見つかる。司法解剖の結果、死亡した時期は誠の自殺の翌日…。では、防犯カメラの映像に残っている麻美は幽霊なのか?

 ネットユーザー連続怪死事件は犯人を特定できないまま捜査継続。誰もが事件の事を忘れた頃、呪われたデータと知らずに面白半分に拡散しようとするネットユーザーが…、その後ろに麻美と誠の幽霊が!

 

 

 浦野善治は登場しなくなってしまいますが、悪いのはスマホを落とした人ではなく、人の迷惑を考えずにデータを拡散させる人ですから、そういう人を懲らしめるには、こんな話もアリではないかと…。

 ただ、「貞子3D」や「呪怨(シリーズ終盤)」のように、犠牲者の「殺され方」だけが楽しみな映画になりそうですけど。www

 

 記憶を頼りにロケ地の画像を並べてストーリー仕立てににしたので、所々話の順番が違っている箇所があるかもしれません。後日、Blu-rayでもう一度内容を確認して修正、ロケ地の追加はあるかもしれません。

 

 なお、「スマホを落としただけなのに」Blu-ray、DVDの発売予定は4月17日だそうです。

 

 

 

という事で、また次回。