出生後テロメアの複製酵素が働かなくなるために、細胞は一定回数分裂すると自然死を迎えます。

・        生まれたばかりのときはテロメアの長さが十分にあり、死ぬ細胞より生まれる細胞の数が多いので、身体は大きく成長していきます。

・        思春期になるとテロメアが短くなってきて、死ぬ細胞と生まれる細胞の数が同じになるので成長が止まります。

・        テロメアがさらに短くなると身体は老化を始め、ついにテロメアがなくなると、細胞が分裂しなくなってヒトも死ぬのです。

 私が子どものころは母親の実家の津軽で夏休みを過ごしました。彼方に望む岩木山から岩木川が滔々(ルビとうとう)と流れきて、その両岸の肥沃な大地にリンゴ畑が広がっていました。幼き頃の私はそこでセミやカブトムシ、コオロギをとって虫かごに入れました。ところがカブトムシやコオロギはスイカの皮を入れておけば何カ月も生きるのに、セミだけはどんなことをしても7日間で死んでしまいます。なぜなのか大人に聞いても昆虫図鑑を読んでも理解できず、すいぶん悲しい思いをしました。

 セミの幼虫は土の中で7年間も生きています。やがて地上へ出て成虫となり、激しく鳴いてパートナーを探します。そして生殖が終わったら、ポトリと落ちて死ぬのです。

 病気になったわけでも、栄養が足りないわけでも、外敵に襲われたわけでもありません。地球上のあらゆる生物は、生殖のためにこの世に生まれ、生殖年齢が終了すると死を迎えます。魚でも昆虫でも鳥でも、人類と遺伝子がほとんど変わらないチンパンジーでさえも、生殖が終了すると死ぬように、テロメアの長さが設定されているのです。

 なぜ人間だけが生殖年齢の終了後も生き続けられるようになったのでしょう。その答えは、人類の繁殖能力の「低さ」にあります。

 あらゆる動物は1回の性交でほぼ確実に妊娠しますが、人間とパンダは性交してもなかなか妊娠しません。しかも、生まれたら生まれたで、ひとり立ちに時間がかかります。しかしそれでは、母親は次の生殖に精を出すことができません。

 そこで生殖が終了した女性に子どもを預けることにしたのです。閉経後も子育てできるようテロメアが延びたのです。