乳癌の手術そして抗がん剤をやって3年になります。今回PET検査で骨に転移が見つかりました。主治医は症状がないならホルモン剤だけ飲んでおけば良いといいます。前回は何種類もの抗がん剤をやったのにどうして今回はしないのでしょう、手遅れになるのではないかと心配です。

遠隔転移と言われてさぞご不安でしょう。でも乳がんはうまく付き合っていくこともできるがんです。転移といわれて何年も経ってまだ全然元気な方もたくさんいます(こういうときの全然は正しい使い方ですね)。今日はその方法を一緒に考えましょう。
春になると畑には野菜の芽だけでなく、雑草もたくさん生えます。そこで種まきの前に除草剤を蒔きます。といってもどんな雑草が生えてくるか分からないですよね。いろいろな雑草に効くように、何種類かの除草剤をまとめて蒔きます。ただしいつまでも蒔いていると野菜自体が参ってしまうので短期集中でその代わり量を多く蒔きます。
乳がんの手術をしてその後の予防のために抗がん剤を使うときもどの抗がん剤が効くのか分かりませんから、多剤併用(いくつかの薬を併用する)、短期集中、大量投与します。髪の毛はばっさり抜けますが半年で終了します。
しかし今回は遠隔転移です。遠隔転移というのはがんが血液やリンパをとおって全身に広がったことを言います。がんは血液中に存在しますので、レントゲンに写った部分だけを取っても無くなりません。また抗がん剤を大量に使っていったんがんが無くなったように見えても、それは根治とは呼ばず、寛解といいます。必ず身体のどこかにひそんでいるからです。つまり「原則:遠隔転移は根治できない」。おとなしくさせて仲良く生きてゆくことがコツなのです。
今まで主治医に励まされて根治をめざしてきたのに、今度は根治はできないと言われても受け入れがたい話かも知れません。しかし考えてみてください。糖尿病や高血圧、腎不全、リウマチなど一生仲良く付き合っていかなければならない病気はたくさんあります。遠隔転移もそうした慢性病の一つなのです。
治療の目的は根治ではなくなり、緩和、つまり症状を和らげがんをおとなしくさせることです。今は症状も無いのですから積極的な治療は必要ありません。今回の原則はこうです。
1.生涯使う:遠隔転移は根治できないのですから生涯の付き合いです。薬も生涯使わないといけません。
2.単剤:一度にいくつもの薬を使ってがんが小さくなったとします。どれが効いたのか分からない。どれもやめることができなくなってしまいます。だから効きそうなものから使って効かなければ次の薬に変えます。
3.少量:一生使う薬で体を壊しては意味がありません。副作用の少ないものを副作用の出ないくらいの量で使います。
具体的にはホルモン受容体陽性ならホルモン療法、HER-2(ハーツー、癌遺伝子)陽性ならハーセプチンだけの点滴を3週間に1回です。