小学校の臨時講師を主人公にした連作集です。

音大を卒業したものの就職先が見つからず、
知り合いに紹介されて音楽の臨時講師をなんとなく引き受けた森島は、
モンスターペアレント、いじめ、問題教師、学級崩壊など、数々のトラブルに巻き込まれていく。
放っておけなくて首を突っ込み、
教頭たちに怒られながらも子供たちと接していく。

やがて森島は、自分の将来についても考え始め、
教師を目指すのか否か、岐路に立つこととなる。


というお話です。
森島があれやこれやと首を突っ込むのは、
アルバイトで担任を持っていないからこそ、できることなのかもしれないし、
若いからこそ、できることなのかもしれない。
でも森島は「本来教育とはこうあるべきではないか」という、本能に似た思いで突き進む。
その意識は正しいことだと思うけど、
校長が言う「どんなに嫌われても守るべき義務(勉強を教えること)がある」という理屈も正しいと思う。
現代の保護者たちが、躾やプライベートの問題まで学校に指導・解決を求めるせいで、
勉強をきちんと教えるために切り捨てたりおざなりにしたりしないといけない場面に直面するんだろうとも思う。

情熱や志や期待が大きければ大きいほど、現実とのギャップに苦しむ。
たぶん森島も、今後正職員として教師になったら、その狭間で苦しむことになると思う。
問題も起こすかもしれない。
それでも、森島には変わらないでいてほしい。

私は今の仕事を、そのギャップに苦しんだ末に辞める。
好きなことだけど、いや、好きなことだからこそ、
やっていく中で人間の汚い部分や嫌な部分に対面し、
その度に傷付き、腹を立て、悲しみ、落ち込み、気持ちが擦り減っていく。
結局その苦しみから逃げることにした私が言うのは随分と勝手な話だけど、
森島みたいな人に頑張ってほしいと思ってしまう。

森島の「あってもなくてもいいようなものほど大切なんじゃないか」という言葉は大事にしたいと思います。