私の下の名前は「健太」と言いまして。

小学生の時に自分の名前のルーツを探るという宿題が出されました。
私は家に帰り母親に、自分の名前のルーツを聞きました。
するとモゴモゴと、
「健やかに大きく育って欲しいから」
と言われました。
「え、でもだったら太じゃなくて大なんじゃないの?」
と私が言うと母は慌て、
「た、太平洋のように大きくなれってこと、そういうこと!」
と言って立ち上がり、いつも通りの不味いカレーを作り始めました。
私は母の言う通りに自分の名前のルーツを書き、宿題を提出しました。

それから何年か経って私が高校生になった頃。
酔っ払った母親が突然、
「萩原健一って知ってる?」
と話しかけてきました。
「なに、急に」
と、大層驚いた私でありましたが、なるべく驚いた素振りを見せないようにしました。
「ショーケンって呼ばれている人なんだけど。その人が、ドラマで自分の子供に高倉健の健と菅原文太の太で、健太って付けたの」
うんうん、と曖昧な返事を打つ私。
「それであなたが産まれてきた時、お父さんはあなたをそんな理由だけで健太にするって言い出したのよ」
何やら私の名前に関することの話のようでした。
「お母さんは初めて産まれてくる自分の子供に、まさかそんなの冗談だと思って放っておいたの。そしたら、退院して役所に行ったらもうあなたの名前が健太で提出されていたのよ!」
なんだか父親らしいな、と私は思ったが、母親はその時を思い出してか酒による酔いからなのか、顔を少し赤らめていた。
「ちなみに、母さんは俺になんて名前を付けようと思ってたの?」
聞くと母は「れおな」と言った。
まるで女の名前のようだと思った私はその理由を聞いてみた。
「尾崎玲於奈っていう、ノーベル賞を取った人の名前がとっても素敵だったから」
と母は答えた。
なるほど、と思いその人のこと調べると尾崎ではなく江崎。
母親は江崎玲於奈博士のことを言っているようだった。

それから何となく、萩原健一さんの生き方とか生き様に憧れて、意識するって程でもないんだろうけど多分他の人よりも過敏に反応する自分がいて。
そのショーケンさんが亡くなったと聞いて、ああいった人生の方だから私みたいな小僧に御冥福なぞ祈られたくもないだろうし、どうしたら良いのか分からなくてオロオロしてた。

色々考えた結果ここは一発盛大に、グランジ五明と寿司を食うことにした。

そんでこれからの人生は、自分がよく見られる為の行動はしないようにと固く決めた。