最新の流行を取り入れたファッションも面白いけれど、年を重ねたら、目指したいのが「自分らしい」スタイル。ただ、「個性的に」と願っていても、ちまたにあふれる服の中から、似合うもの、着たいものを見極めるのは至難の業。「ワードローブ」では、生き方がにじみ出るような装いをしている女性を毎回ご紹介します。人まねでない、自分だけのおしゃれを楽しむヒントがいっぱいです。 ◇背中押してくれる
◇人がどう見るかなんて、ありもしない物差しで、自らを縛るなんてもったいない。
「まともな服はどうも恥ずかしくて。何歳になっても、やんちゃな服が大好き」。脚本家として多くのヒット作を生み出してきた筒井ともみさん(58)のおしゃれの哲学は、とてもはっきりとしている。ユニークな、いわば"とんがった"服やアクセサリーしか身に着けない。「年相応に落ち着く? そんなことありえませんよ」と少女のように目を輝かせながら、おおらかに笑う。若手デザイナーの服は「才能を育てるために買う」筒井さん。タオ・コム・デ・ギャルソンの栗原たおさんによる、刺しゅうのハンカチをつないだコート(写真<上>)は「鳥肌が立つくらい魅せられた」という一枚。東京コレクションの注目ブランド「ドレスキャンプ」のダチョウの羽根を使ったスカート(同<中>)も最近のお気に入り。豚の顔の指輪(同<下>)は友人からのプレゼント。「キッチュな感じが大好き」
そんな筒井さんのおしゃれの原風景には、母親が手作りしてくれた服がある。「ずっと家にいて物静かな人なのに、なぜかセンスは自由かつ大胆だった」。左右の袖の色が違うカーディガンや、赤と鶯(うぐいす)色を組み合わせたセーター......。今も鮮やかに記憶に残るのは、人とはどこか違う服だ。
「シングルマザーで私を育ててくれた母。それに同居していたのが俳優の伯母夫婦。どう考えても普通じゃない家に育ったから、まともな服が苦手なのも当たり前」と筒井さんは、自嘲(じちょう)気味に、でも楽しそうに子ども時代を語る。
そして70年代半ば、脚本家として歩き始めたころ出会った、三宅一生さんやコム・デ・ギャルソンの川久保玲さん、山本耀司さんの服もまた、筒井さんのスタイルに多大な影響を与えたという。左右非対称だったり、穴が開いていたりと、西洋にはない新しい発想で世界に名をはせた3人。「その反骨精神あふれる服に袖を通すたび、背中を押されるような気がして。彼らの服は私にとって戦闘服。出会わなければ、今の私はないかもしれません」
服の持つ力に目覚めた筒井さんは、以来、「細胞が生き生きするような」刺激的な服を常に求めてきた。ブランドの名前で服を買うことは一切ない。「人がどう見るか、そんなありもしない物差しで自らを縛るなんてもったいない」
自分が良いと思うものを堂々と着る。それは、筒井さんが、人生で「着る」と「食べる」を最も大切なことと位置付けていることの証しだ。「どちらも自分を形作り、自分がどんな世界を持ちたいかを表します。着る・食べるをおろそかにして、豊かな人生はありえません」
■装うナビ
◆ウールのセーターに染みを発見。自宅で染み抜きできるの。
◇タオルで挟んでつまむ
まずそのセーターが自宅で洗えるかをチェック。花王生活者研究センターの弦巻和さんによると、洗面器にバツ印の「水洗い不可」マークがなければ家で洗濯しても大丈夫。ネットに入れ、中性洗剤を使い洗濯機の手洗いコースで洗います。
染み抜きは洗濯の前に。同じ中性洗剤の原液を手にとり、染みの部分になじませてからタオルで挟み、染みをタオルに移し取るようにつまみます。中性洗剤で落ちなければ、液体の酸素系漂白剤を。塩素系はウールには向かないので注意が必要です。
自分で手に負えない場合はプロに任せましょう。クリーニング店「カラキヤ」(東京都港区)の新井健吾さんによると「油性ペンの汚れやサビ、墨汁など特殊なものは自宅では難しい」とか。いずれにしても早めの対処が肝心。着用後に衣服の汚れをチェックをする習慣を身に着けましょう。
■人物略歴 ◇つつい・ともみ
1948年東京生まれ。成城大学を卒業後、バイオリン奏者を経て脚本家となり「家族ゲーム」など数々の人気テレビドラマを手がける。故松田優作さん主演の「それから」で映画に進出。「阿修羅のごとく」では日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞。近著に「着る女」(マガジンハウス)、「うつくしい私のからだ」(集英社・26日発売)。今春から東京芸術大学大学院でゼミを担当する。
ザクッと自然体-コスチューム・アーティスト ひびのこづえさん 「綿や麻、ウールといった自然で優しい素材が大好き」とひびのさん
◇“黒衣”に徹し元気に
◇良いものを長く愛着を持って。そんな服作りがいつかできれば。
「白シャツかTシャツにパンツ、温度調節のためのストールと何でも入るかごバッグ。自転車でどこにでも行くので、いつもこんなザクッとしたスタイルばかりです」と話すひびのさん。人懐っこいチャーミングな笑顔に、自然体の服がぴったりだ。
ナチュラルな服を選ぶようになったのは、30代になって衣装デザインを始めてからだという。イラストなどを手がけていた20代のころは、「変わった服が大好きで、それはもうとんがった格好をしてました」。時代はデザイナーズブランド全盛期。当時は珍しかったスパッツをはき、「地方出張にいって街の人に笑われた」こともある。
だが、衣装を作るようになって考えを変える。形も色も奇抜で、見る人を楽しませるのがひびのさんのデザインの特徴。その“黒衣”に徹しようと思った。「自分よりも、作った服に目立ってもらわないと困る。衣装デザイナーだから派手な服を着ているはずと、期待されるのも嫌だったから」
「白」を選ぶのは、どこでも、誰にでもなじむ色だから。そして何より、自分が「元気になるから」だ。「白は光の色。私、お日様が大好きなので、白は太陽の光に近づける気がするんです」
朝起きて服を選ぶときも、基準は元気に見えるかどうか。「ザクッとした服」でも、ルーズに見えないよう上下のボリュームのバランスに気を配る。「体の線をカバーしすぎてもダメ。だから、私、若い人が行くお店で服を買うようにしているんです。細くてタイトなシルエットが多いけれど、着ると体を締めなければと思えるでしょう」 愛用のかごバッグとストール。「価格も手ごろで惜しげなくどこでも置けるから、かごバッグは手放さない」
古着も好きで、よく手に取る。もともと、服を買うときは何度も見て、考えてからという慎重派。気に入った服はぼろぼろになるまで着て、さらにその生地をバッグに作りかえたりもする。古着は、「良いものを長く着たい」というひびのさんの思いにぴたりと重なるのだそう。
最近は、ひのきを使った履物や、薄くて柔らかく吸水性に優れたタオル用品など、暮らしの中の道具のデザインも手がけるようになった。これも「良いものを長く愛着を持って」という思いから。暮らしの中のちょっとした疑問が仕事とつながってきたのが、楽しいという。
「年を重ねて、自分を押し付けずに物作りができるようになってきた」と、ひびのさん。長く着られる服作りも「自然な流れで、いつかできれば」と考えている。
■人物略歴
1958年静岡生まれ。東京芸術大学美術学部卒業。広告、演劇、ダンス、バレエ、映画、テレビなど幅広い分野の衣装デザインで活躍。近年では、愛・地球博開会式や歌舞伎俳優・中村勘三郎さんの襲名披露公演の衣装を担当。現在、NHK教育テレビ「にほんごであそぼ」「からだであそぼ」のセットや衣装を手がけている
体をキャンバスに-童話作家・角野栄子さん 鎌倉市内にある自宅の庭で。創作活動には、ゆったりしたワンピースを選ぶ
◇形はシンプル、色で遊ぶ
◇20代。ブラジル暮らしで気づいた。赤、白、黒を基本に楽しく自由におしゃれを楽しむ。
「この年になると、いくら流行してても、さすがにスパッツははけないじゃない? だから小物で遊ぶようにしているんです」とおどける角野さん。70代には思えない、つややかな肌と若々しい笑顔は、本人が書く童話ではないけれど「ひょっとして何か魔法でも?」と聞きたくなる。
角野“魔女”の着こなしの秘密は、「色」にある。眼鏡は赤や紫のセルフレーム、あめ玉のようにカラフルで大きなプラスチックやガラスの指輪も角野さんの定番だ。「鮮やかな色はそれだけで目を引くから、しわや肌のくすみも目立たない。似合うと言われたこともあって、40代のころから、特に赤はよく身につけるようになりました」
服も、グレーやベージュなどあいまいな色はほとんど選ばない。赤、白、黒の3色が基本。これは20代のころに暮らしたブラジルでの経験が生きている。「黒人の女性が白を着ているのをよく見かけたんです。肌とのコントラストが美しくて、服を着るときは、自分の体がキャンバスなんだと気づきました」
セルフレームのユニークなデザインの眼鏡は洋服に合わせて替える
代表作「魔女の宅急便」で主人公のキキに着せたのは、角野さんが「ほかのどの色よりもおしゃれ」と感じる黒。きっかけは、英国のホテルで見かけた光景だ。パーティーに集った淑女たちが、一様に黒のドレスをまとっていた。一口に黒といっても生地の質感で印象は異なる。どんな髪や肌の色も引き立て、着る人をキラキラと輝かせる--そんな「黒の魔法」にかけられてしまったという。
色は、はっきりしたものを選ぶ角野さんだが、デザインはシンプル好み。「自分が楽しくなければ、読む人も楽しくない」という考えから、執筆中は「いい気持ち」で筆を進められる、体を締め付けないゆるやかなものを着る。最近のお気に入りは、写真の英国の古着で、赤地に花柄のワンピース。角野さんが着ると、白髪が赤に映え、ヨーロッパのマダムのようだ。
知人が作ってくれた「魔女の宅急便」のブローチも愛用している
ただ、自分のスタイルに固執するだけではない。新しい服に挑戦するのも大好きだ。「人気のふんわりとしたチュニックブラウスを試着したら、若い子向けのお店だったから腕がきつくて買わなかった」とさらりと話す。長女で、同じ作家の道を歩むくぼしまりおさん(41)や、20~30代の編集者が情報源かつ良きアドバイザーだという。
同年代の女性を見ていると、あいまいな暗い色を着て、「年齢を隠そう」とする人が多いのが気にかかる。「おしゃれはもっと楽しく自由に」。これが角野さんの若々しさを保つ呪文だ。
小物で遊ぶのが大好きな角野さん。カラフルな指輪の多くは海外で購入。「2~3ユーロ(300~500円くらい)のものがほとんど」とか
■人物略歴
◇かどの・えいこ
1935年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務を経てブラジルで2年間暮らす。帰国後、70年ごろより絵本や童話の創作を始め、「ズボン船長さんの話」「小さなおばけシリーズ」など多くの作品がある。映画化もされた「魔女の宅急便」で、野間児童文芸賞、小学館文学賞受賞。近著に自選童話集「角野栄子のちいさなどうわたち」(全6巻、ポプラ社)。