キモノとビーズの小粋なカンケイ -35ページ目
<< 前のページへ最新 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35

vol1.『春の怪』

「春の怪」
 安手の花桶のなかに、ねこがいる。
 この子は一度捨てられかけた。
 飼い主の不精で、水さえ与えられず一年放置されたので、
尻尾もスカスカとみすぼらしく毛を落とし、しなびて黒ずんだ顔つきで、
もう息をしているようにも見えなくて、ある日、花桶から引きずり出してしまった。
 夕方、ふいに花の匂いが濃くたちこめて、異変に気づいた。
新聞紙からはみ出た尻尾の、ところどころ、ふっさりと金色に色づいて、
それを見つけた時は、本当におそろしかった。
 捨てられると知って抗議の声をあげたのでもあるまいが、
後ろめたいので、この子をふたたび花桶にすまわせることにした。
 それから4年。この子はここに居座って、のまずくわず、
ニャーとも鳴かないが、春がくると間違うことなく、そわり、そわりと
小さな金色の尻尾をふって、生きていることを知らせてくるのである。
 この子の名はねこやなぎ。
わたしは、猫柳のカラダの仕組みを知らないから、
春がくるたび「おおっ!」と生命の神秘に圧倒されてしまう。
知りたいけれど、なんだか、解明してしまうのが勿体ないようで。
この子、人間の呼気や人間の会話がご馳走だったりして。
などと想像するひとときを失いたくないのかもしれない。




nekoyanagi4




5月のテーマは「やなぎ」
 帯は、柳の葉からこぼれる光線をイメージした博多帯。
 帯締は、柳つながりで「ねこやなぎ」
 夏へと急ぐ心に、春のたおやかさを留めおいて。





nekoyanagi3


nekoyanagi2   design::NAGOMI



 
<< 前のページへ最新 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35