島は桐の花が山を染める美しい季節になった。
一日一便の直行フェリーに乗りながら一身に友の“生”を祈る。
52歳。肺がんにおかされ、医療の中での限界を知り、彼女の意志で自宅に帰る。退院から二週間が過ぎていた。
玄関を開けると、彼女の友と姉が、出迎える。彼女の息が乱れていると不安気に話す二人に「大丈夫」と伝え、彼女の元に急ぐ。
彼女は直ぐに訴える。「柴田さん皆に伝えて。私は柴田さんの言うように毎日、希望を信じて祈っている。でも皆が、私を不安そうに見つめる。たまらない。辛い。柴田さんから皆に話して。私が希望を捨ててないと」
そう話す彼女の声の向こうに声を殺して話す、家人のひそひそ声が私の耳に聞こえる。
「このひそひそ声がたまらなく淋しい」
彼女は絞るような弱い声で叫ぶ。皆に大きな声で話すように伝え、また彼女の手を握る。
玄米の粉を溶いた水を凍らせ、家人が居ない時を選んで食べていたと言う。咳き込む姿を見せると心配するからと、優しさが溢れていた。
家人は食べない彼女をどれ程心配した事だろう。おろおろとなすすべも無い。彼女にどうしてあげて良いかが分からない焦り。皆の心は優しさをどう表せば良いか分からないもどかしさに萎えていた。
二人きりになると堰を切ったかのように話す。その話を聞きながら、全身をさする。足をぶらぶらさせながら、子供のようにはにかむ彼女はとても美しかった。宗教を持つ彼女の為にその宗派の教典と祈りの言葉を唱える。
夜も過ぎて、星空に私は祈った。彼女の“生”は彼女自身と神仏が決めること。
人は最期のその時まで、希望と祈りを持ち続けると教える彼女に感謝 合掌