以前中国深圳の日系企業(以降F社とさせて頂きます)に勤めていた時の事。

 

 

 

 

中国に関連の工場や事務所が無い、グループ全体で2,000名の社員が居られる日本のお客様から、ある組み立て品のご注文を頂いていたのですが、今までと同じように組み立てていたにも関わらず、完成後に正常に機能しなくなり、良品が出荷出来なくなる事態に陥ったことがありました。

 

 

今までと同じように組み立てていても良品が組み立てられない場合、まず疑わないといけないのが部品なのですが、この組み立て品は基板やモーター等の電子部品もあり、当時勤めていた会社で生産していた部品は、電子部品ではなかったため、関連の知識や検査器具がありませんでした。

 

 

※ 電子部品はお客様から支給して頂いていました。

 

 

また、「お客様に承認頂いた作業手順書に基づいて組み立てる」対応をしていたので、トラブル対応の経験もそれほどありませんでした。その中でベテランの現場責任者が、今までの経験をフル動員して対処してくれたのですが、力及ばずで原因が分かりませんでした。

 

 

 

 

 

う~ん…

 

 

 

で終わるのなら良いのですが、ものづくりには「納期」という問題が、ホラー映画の呪われた何かのように、ずっと付きまとっていますので、出荷を止めるわけにはいかないのですが、出荷が止まると一番大変だったのは…

 

 

当時営業をしていた私が、真っ先にボコボコに叩かれることです(笑)

 

 

 

 

 

 

問題の解決が出来ないので、時間はすでに午後だったのですが、急ぎお客様に連絡したところ、なんと翌日(!)そちら(F社)に行って対応するとのお話を頂きました。

 

 

そう仰って下さった方は、当時60代半ばごろの、すでに嘱託でお仕事をされていた方だったのですが、定年まで役員を勤められていて、定年後も会社に請われて嘱託を勤められるくらい会社からの信頼も厚く、中国でのモノづくりのご経験がとても豊富で、中国の文化風習にも精通されていたベテランの方でした。(以降Kさんとさせて頂きます)

 

 

ただのベテランなら沢山見てきましたが、Kさんは相手が大企業であろうがどなたであろうが、度を越した要求に対してはすべて「ノー」と言って突っぱね、体を張ってでも仕入れ先を守って下さるような方でした。

 

 

以前Kさんが、トラブルの解決のためF社に出張で来られた時に、F社側は、私がKさんと一緒に参加させて頂く形で、お客様(Kさんが居られる会社)と電話会議を行ったことがありました。

 

 

お客様は、問題の原因はF社にあるのでは?というトーンで、圧がどんどん大きくなってきたのですが、Kさんの、

「F社は、出荷時にきちんと検査をしたので、問題は無いって言ってるよ」

という、とても有難い一言で、シ~ンとなった事がありました。

 

 

自分が所属する会社にそんなことを言える人は、あまりいないと思います。

 

 

 

 

 

 

また、KさんがF社に出張で来られると、喜ぶ中国スタッフも多く、こんなところからもKさんの優れた人間性を垣間見ることが出来るので、私にとってKさんのキャリアと人間性のレベルは、いろんな面で一生のお手本になるものでした。

 

 

そしてKさんの予定を伺ったところ、なんとその日の夜の便(!)でフライトし、翌日の朝の7時ごろに深圳のイミグレーションに着くので、迎えに来てほしいとのこと。

 

 

そして翌日お迎えに上がり、工場に到着後、すぐそのまま現場へ。さすがにその日は、夜の8時(それでも夜の8時!)で仕事を終えられましたが、昼食時に伺ったお話では、夜飛行機で眠れず、やっとうとうとした頃に着陸……相当寝不足だったご様子。

 

 

通訳も兼ねて、私も終日立ち会わせて頂いていたのですが、Kさんのご年齢、寝不足、革靴で長時間の立ち仕事に対して、私は運動靴の作業着姿で、夜も寝ています。しかもKさんより断然若いです。

 

 

が、仕事が終わった後の、Kさんの私に対する一言。

 

 

 

 

 

 

 

「向井さん、今日は有難う御座いました。疲れたでしょ?」

 

 

 

 

 

・・・!

 

 

 

 

 

 

この気遣いには驚きしか有りませんでしたが、その少し理性を失った驚きの状態で、

 

 

「Kさんがここまで頑張っておられるのに、私に「疲れました」なんて言える資格は全くありません。そんなことを言えば逆にKさんに失礼です」

 

 

という言葉がすらすら出てきました。変な言い方ですが、多分これは私の本心だと思います。

 

 

 

 

 

私もKさんのような気づかいが出来るよう、人としての器をもっともっと大きくしなければならないと、身を引き締められた出来事でした。