久しぶりにフットケアをしてもらうため、たまゆらを訪れた。

井上さん、なぜこのサロンたまゆらというネーミングにしたんですか?

「あ、ここ?わたし、(たまゆら)というひらがなが好きなの。

夜、このひらがなが微かなともしびの中にポッと浮かんでいるとね、大正時代に迷い込んだような錯覚を起こして楽しいんです。」

たまゆらとはしばしの間、ほんの少しの間という意味だがそこではなく、ひらがなからの中に幻想を見出して、気に入ってネーミングした、井上のセンスが凪は好きだなと思う。


「井上さん、私ついに見つけました。」

「何をですか?」

「私をです」

今日もたまゆらにはシャーデーの音楽とアロマの香りが溶け合っていて心地よい。

井上は爪切りの手を休めずに、「そのお話し聞きたいです。」

と、続きを促したので凪は北鎌倉で知った愛について話した。

「やっぱり、そうなんですね。愛なんですね。

全ての始まりは愛なんですね。それが原点回帰なんですね。時代がそれに切り替わったんですね。私もそう思ってましたが、あまりにも周りにそれを理解している人がいなくて誰とも話せなかったんですよ。」


この世の戦争や殺人、ネガティブな物ですら愛から生み出されたものなのだ。たがら、人びとは目覚めないといけない。


そこで、ふと、年下の彼のことを思い出した。

彼は今、どうしているかな?

彼も目覚めに向けてステップを踏んでいるかな?

彼はどんなふうに愛に回帰していくのかな?

早く、

愛に回帰して目覚めた彼に会いたいな。

凪はクスリと笑った。

なんだ、彼は私が生み出した人だったんだ。

彼も私だったんだ。

そして、井上さんも私。今まで出会った人全ては私の愛から生み出された。

私は生み出すことができるのだ。

愛から、どんな世界も生み出すことができるのだ。


帰り道、凪は彩雲を見た。

この世は美しいのだ。いつも上を見て歩こうと決心した。


終わり