アガサ・クリスティ『オリエント急行の殺人』 | 本の虫凪子の徘徊記録

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【再読】  アガサ・クリスティ『オリエント急行の殺人』長沼弘毅訳 創元推理文庫

 

クリスティの代表作の一つですね。
名探偵エルキュール・ポワロが活躍する推理小説。シリーズの長編作品としては第八作目にあたります。

定期的に読み返したくなる作品です。

それでは早速、内容について書いていきたいと思います。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

豪雪のため停車したオリエント急行内で起きた殺人事件。乗客の一人が何者かに刃物で滅多刺しにされて死亡しているのが発見されます。
被害者はアメリカ人の男性で、悪名高き幼児誘拐魔だったラチェットという人物でした。殺されて当然の外道だったわけです。しかし、それでも殺人は殺人。たまたま同乗していたポワロは、友人ブークの頼みもあって、犯人探しに乗り出すことになります。

列車が雪で止まっている以上、殺人の犯人として考えられるのは、同じ車両に閉じ込められている他の乗客と乗務員たちしかいません。しかし、彼らはみな国籍もバラバラで、ラチェットの秘書と召使いを除いて、他は被害者とは縁もゆかりもない人々ばかり。アメリカ人にイギリス人、スウェーデン人、ドイツ人、フランス人に帰化イタリア人。ロシア人の亡命貴族やら、ハンガリーの外交官夫妻までいます。ここにギリシア人の医師とベルギー人の探偵(ポワロ)が加わる、見事なまでの多国籍空間。そして厄介なことに、全員に犯行時刻のアリバイがあります。状況と証言だけで判断するなら全員がシロ、犯人はこの中にはいないという仮説が最も有力そうでした。

しかし、そこで妥協しないのがエルキュール・ポワロ。彼が名探偵たる所以です。
車掌と十二名の乗客一人一人の証言を照らし合わせ、彼らの荷物なども確認しつつ、それぞれのアリバイの隙を突くようにして少しずつ事件の真相へと近づいていきます。ポワロの補佐役のブークとコンスタンチン医師が良い感じに推理に口を挟んでくれるので、上手く情報が整理されていきます。この二人、助手としては割と有能なのでは。

最終的に、十三名の容疑者とラチェット(正確にはアームストロング家の幼児誘拐事件)との繋がりを看破し、見事、事件の真相を明らかにしたポワロ。彼の仮説に次ぐ仮説、それがそっくりその通りだったというのが恐ろしい。
十三名全員が共犯者だった、という結末は、初めて読んだ時には物凄い衝撃を受けました。当時はまだ子供だったので、何となく「犯人は単数」という固定概念があり、ちょっとズルをされたような、「全員とかそんなのあり!?」という気持ちになったのを覚えています。
ハッバード夫人を始めとして、全員演技派すぎです。咄嗟の機転も利くし連携も上手い。ポワロが乗り合わせていなかったら迷宮入りコース確定の事件でした。

今回の事件では、殺されたラチェットが極悪非道な殺人犯だったこともあり、犯人側に対して若干同情してしまいます。
ポワロたちも結果的には彼らを見逃しました。
まあ妥当な判断だったと思います。殺人には違いないので、後々彼らには何らかの報いがあるかもしれませんが。神の裁きとか。
ポワロの思惑にブークと医師が乗っかるラストは、物語的にはかなり粋な仕様だったと思います。このトリオ、本当に好きです。
 

2017年のハリウッド映画版はその点、ラストが少し説教臭く感じられてしまったような。個人的な意見ですが。作り自体は良かったと思います。ジョニデのラチェットも悪くなかった。
1974年版の映画は昔に一度見たきりなので、記憶があやふやです。ヴァンサン・カッセルのお父さんとショーン・コネリーが出ていたことくらいしか覚えていません。そのうちまた観ます。

何度読んでも面白い、タネが分かっていても面白い、推理小説の傑作です。やっぱりクリスティが好き。
余談ですが、事件直後、「犯人は女だ」と主張して譲らなかった列車長が地味に好きです。彼は女性に酷い目に遭わされた経験でもあるんでしょうか。こういう、クスッとなるようなシーンがちょこちょこ挟まれるのも好きなポイントです。
他の訳は、新潮文庫の物とハヤカワ・ミステリ文庫の物しか読んでいませんが、その中ではこの長沼さんによる新版が一番好みでした。機会があれば新しい物も読んでみたいです。
そういえば、三谷幸喜さんが脚本を手掛けたフジテレビ版も結構面白かったです。野村萬斎ポワロ(名前は違いましたが)も味があって良かった。『黒井戸殺し』と合わせて、面白い実写化だったと思います。

それでは今日はこの辺で。