伊坂幸太郎『ラッシュライフ』 | 本の虫凪子の徘徊記録

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【再読】  伊坂幸太郎『ラッシュライフ』 新潮文庫

 

本日はこちらの作品を再読しました。

初めて読んだ伊坂作品がこちらだったということもあり、今でも、伊坂さんの書かれたものの中でダントツに好きな一冊です。定期的に読み返したくなります。

それでは早速、感想を書いていきたいと思います。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

これほどあらすじの説明が難しい作品もなかなかないのでは。

まず言いたいこと。黒澤さんカッコ良すぎ。
主人公の一人である黒澤は、独特な美学を持つスマートな泥棒です。彼の生き方も、台詞回しも、本当に格好良い。盗みの現場に領収書を残していくところが素敵です。伊坂作品では彼の登場する作品ばかり読み返しているほど、好きなキャラクターです。

この作品の主人公は、黒澤の他に三人います。
父親の自殺に囚われ続けている青年、不倫中の女性カウンセラー、リストラされて無職になった男。細かく視点が切り替わり、それぞれの物語が並行して進んでいきます。そして、合間合間に死体やら拳銃やら神やらが登場し、この四人の人生、四つの物語を結びつけていきます。
題名の「ラッシュ」という言葉に複数の意味があるように、一つの物事を多角的な視点から観察していくような、そんな実験的な雰囲気のある作品です。
巻頭の挿画、作中にも何度か登場した「エッシャーの騙し絵」は重要なポイントです。この作品自体があの騙し絵そっくりの作りになっています。

各主人公はもちろんのこと、サブキャラクターたちも非常に魅力的です。他の伊坂作品とのリンク部分を探すのも楽しい。
中でも特に好きなのは、下衆で悪趣味な実業家の戸田さんですね。「融資するかわりにお前の妻を一晩寄越せ」は最低過ぎます。
性格の悪さで言えば京子や舟木も良い勝負ですが、この戸田は己の実力で富と権威を拡大してきた強かで狡猾なクズ野郎なので、そこいらの小物とは格が違います。もうなんか一周回って格好良さすらあります。
最後に無職の豊田にぎゃふんと言わされたのにはかなりスカッとしましたが、あの様子では後で志奈子に当たり散らしていそうです。あまり酷いことをしなければ良いのですが。

それからもう一人、戸田のせいで職を失った佐々岡さんも好きなキャラクターです。不倫中のカウンセラー・京子の夫であり、黒澤の元同級生でもある画商の男性。黒澤とのテンポの良い会話は、読んでいて楽しい部分です。絵画を「紙に殴りつけた祈り」と表現するセンスがすごく好み。

最終章での物語の畳み方がとても綺麗で、初めて読んだときには滅茶苦茶感銘を受けたことを覚えています。今までの違和感が一気に解決し、「あー、『時間』か!」と思わず膝を打ちました。何度読んでも素晴らしい。
最後をリストラリーマンの豊田さんで締めるところも最高です。どん底から一転し、犬と宝くじと共に人生をリスタート。今後彼の人生がどう転ぶのかは不明ですが、できれば良い方向に変わってくれれば良いなと思います。わりと善い人なので。

宗教団体の教祖・「高橋」さんだけは正体不明のまま終わりましたが、彼は一体何者だったのでしょうか。彼の未来予知がトリックの類だったとは思えませんし、実は本当に神や天使のような超次元的な存在だったのかも、なんて。
何はともあれ、謎に包まれた彼の存在が、この作品の魅力をより引き立たせていることは間違いありません。
できることなら、彼がもっとガッツリ出てくる作品を読んでみたいものです。

それでは今日はこの辺で。
 

 

 

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