ディクソン編『アラビアン・ナイト 下』 | 本の虫凪子の徘徊記録

本の虫凪子の徘徊記録

新しく読んだ本、読み返した本の感想などを中心に、好きなものや好きなことについて気ままに書いていくブログです。

【再読】  ディクソン編『アラビアン・ナイト 下』中野好夫訳 岩波少年文庫

 

前回に引き続き、本日も『アラビアン・ナイト』。下巻です。

六つのお話が収録されています。一番有名なのは『アリ・ババと四十人の盗賊』でしょうか。

それでは早速、それぞれの内容と感想を書いていきたいと思います。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

『ヘビの妖精と二ひきの黒犬』
主人公は若い女性です。三人姉妹の末っ子で、思慮深く才気に富み、慈悲心も持ち合わせている立派な人物。姉たちとは違って未婚です。
主人公に対して、この姉二人の方は、非常に浅はかな女として描かれています。夫に騙されて捨てられ、末妹の世話になり、懲りずにまた結婚してまた捨てられ。終いには妹の恋愛に嫉妬して、航海中の船から彼女を恋人共々海に放り込むという暴挙に出ました。色々と世話を焼いてくれた心優しい妹に対して、恩を仇で返すこの仕打ち。信じられない畜生っぷりです。主人公は何とか生き延びましたが、結局、恋人の王子の方はそのまま溺れ死んでしまいます。可哀想に。
しかしその後二人の姉は、主人公が命を助けてあげたヘビの妖精の恩返しによって黒犬に姿を変えられてしまい、毎晩千回ずつムチで打たれるという罰を受けることになります。因果応報。
最終的には、心優しい主人公のおかげで元の姿に戻ることが許され(ちなみに二人ともすごい美女だそう)、それぞれ王子と結婚して幸せに暮らしたそうです。殺された王子さまのことを考えると若干もやっとしてしまう結末ですが、まあ二人が心の底から反省していて、被害者である主人公がそれを許しているのであれば、外野が言えることは何もありません。
主人公の方は独身を貫いたのでしょうか。


『シナの王女』
群島の王子とシナの王女の恋物語。
離れた地に住み、お互いの事など見も知らない二人が、妖精たちのいたずらで一度だけ顔を合わせます。そしてその時に、お互い恋に落ちてしまうのです。しかし、言葉を交わす間もなく別れ別れになってしまい、その後はそれぞれ自国で、名も知らない相手への恋に苦しむことになります。
主人公は群島のカマラルザーマン王子の方で、姫と再会するため、姫の乳兄弟・マルザーヴァンの助けを借りつつシナに入国し、星うらない師に扮して王城に潜り込みます。
ラストでは念願叶って姫との再会を果たし、彼女と結婚することができました。

結果的にキューピットとなった妖精たち、マイムーネとダナッシ、カッシカッシが良いキャラクターでした。私は特に女妖精のマイムーネが好きですね。強そう。


『魔法の馬』
舞台はペルシア。インド人が持ち込んだ、空飛ぶ馬のからくり人形をめぐる物語です。
主な登場人物はインド人とペルシアの王子、ベンガルの王女、カシミールの皇帝。ペルシアの王子とベンガル王女の恋愛を中心に物語が進んでいきます。
魔法の馬で空を飛ぶ場面は、何度読んでもわくわくします。
 

余談ですが、TVアニメ『幼女戦記』に登場する木馬型飛行装置を初めて見た時、真っ先にこの魔法の馬を連想しました。ご存じない方は「幼女戦記 共和国 馬」で調べていただくと画像がヒットすると思います。漫画版は未読ですが、小説とアニメはとても面白かったです。劇場版も良かった。興味のある方はぜひ。


『ものいう鳥』
こちらもペルシアのお話。
宮殿の庭番に育てられた美しい三兄妹、バーマンとペルヴィズ、パリザードは実は皇帝の子供たちなのですが、本人も皇帝もそのことを知らずに暮らしています。
この物語の主人公は、二人の兄ではなく、末の妹のパリザードです。容姿端麗で、学問のみならず馬術や武術にも秀で、心根も清く正しいという出来た人物。ちなみに兄妹仲は非常に良好です。
前半部分では、彼女が「ものいう鳥」「歌う木」「黄金の水」を求めて冒険する様子が、後半では三兄妹と皇帝との交流の様子が描かれています。
終盤ではものいう鳥の語りによって三人の出生の秘密が明かされ、彼らは王子・王女として、父たる皇帝や母妃と再び顔を合わせることができました。死産だと思っていた子供たちがこんなに立派に成長していて、両親もさぞや嬉しかったろうと思います。
真珠を詰めたキューリ料理がいつも気になる。


『アリ・ババと四十人の盗賊』
原典『千一夜物語』の中でも特に知名度の高いお話ですね。
「開け、ゴマ!」という呪文でも有名です。
私はアリ・ババが盗賊たちの財宝を盗む前半部よりも、モルジアーナが活躍する後半部分のほうが好きです。賢い女奴隷のモルジアーナは本当に魅力的。まあ、人を殺すことに全く躊躇いがないのは怖いところではありますが。相手が盗賊とはいえ、煮えたぎった油で窒息死させるのはだいぶえげつないやり口だったと思います。
一介の女奴隷から大富豪の一家に嫁入りなんて、傍から見たらものすごいシンデレラストーリーでしょうね。


『漁師と魔物』
タイトルに反して、漁師も魔物もあまり活躍しません。
漁師がつぼに入れられた魔物の封印を解いたことがきっかけで、突然、謎の湖が出現したり、四色の不思議な魚が穫れるようになったりと、奇妙な現象が起こり始めます。それらの謎を解き明かすため、皇帝が自ら調査に乗り出していく、というストーリーになっています。
主人公はこの皇帝。好奇心旺盛で非常に行動力のある人物です。悪しき魔女を討ち、呪われた若い王を救い出し、彼の国にかけられた呪いを解く、という活躍っぷりを見せてくれました。そして最後には金銀財宝と養子まで手に入れて自国に帰還します。
皇帝の活劇や王の語りパートも面白いのですが、私は最初の魔物と漁師の会話の場面が一番好きです。凡人が、恐ろしい魔物を見事に出し抜くシーンは読んでいてスカッとします。


以上、全六編でした。
何となく、上巻よりも読み応えがあるような気がします。

特に好きなのはやっぱり『アリ・ババ』。モルジアーナが本当にカッコイイです。

運悪く、私の周りにはサンデーの『マギ』は知っていても『アラビアン・ナイト』は知らない、という人が多いんですよね。まああれはあれで面白いのですが。白龍のキャラデザが好きでした。懐かしい。

 

『千一夜物語』の訳で一番馴染み深いのは岩波の完訳版なのですが、「シャハラザード」よりは「シェヘラザード」の響きの方が好きです。それから、最近は新しいガラン版も気になっています。あちらは装丁が華やかで重厚感があって、書店で見かけたときに思わず一目惚れしてしまいました。ただその分値段が高い。新品で全巻揃えるとなると結構なお値段になってしまうので、買うかどうか迷っているところです。でも欲しいんだよなあ。

それでは今日はこの辺で。

 

 

 

年4回の楽天スーパーSALE開催!9月4日~11日まで!