【再読】 ディクソン編『アラビアン・ナイト 上』中野好夫訳 岩波少年文庫
本日はこちらの作品を再読しました。
ひらがなが多め、子供向けです。小さい頃によく読んでいたので、今でも時々読み返したくなります。
原作の『千一夜物語』そのままではないため、本来の語り手であるシェヘラザードは全く登場しません。
有名な「アラディン」の他、全部で四つの作品が収録されています。
以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。
『船乗りシンバットの航海』
主人公の名は「シンドバッド」という読みの方が有名ですが、こちらでの表記は「シンバット」です。
内容は基本的に
航海→遭難→見知らぬ島で冒険→帰還→もう航海は懲り懲り→退屈でまた航海→遭難→見知らぬ島で冒険
この流れの繰り返しです。
毎回死ぬような思いをしているというのに、懲りずにまた海に出てしまうシンバット。もういっそ、定住せずにずっと海を漂流していた方が良いんじゃないでしょうか。
しかし航海を終える度に、いつも彼の手元には金銀財宝や貴重品がどっさり。命懸けなぶん、一度の航海で得られるリターンも大きいのが特徴です。夢がありますねえ。
「一回目の航海」はほぼチュートリアル。
「二回目の航海」。ロック鳥とダイヤモンドの谷。この島では、大蛇に怯えつつも大量のダイヤモンドを入手しました。
「三回目の航海」。一つ目の人食い巨人から逃げ、次の島では大蛇から逃げ、なんとか商船に救助されて一命を取り留めます。一緒に航海に出た他の仲間は、食われたり溺れたりで全員死んでしまいましたが。
「四回目の航海」。人食い族から逃げた後、とある国の王に気に入られ、美しい女官と結婚します。夫婦の片割れが死んだらもう一人も一緒に埋葬する、という慣習に従い、妻の死後共に生き埋めにされましたが、上手く脱出。ついでに墓所の棺から金目の物を掻き集めて本国に持ち帰ります。これはちょっと倫理的にどうかと思いました。
「五回目の航海」。ロック鳥を怒らせて船が大破。流れ着いた無人島では海坊主に捕まりましたが、上手く殺して逃げます。その後は他の島で椰子の実や胡椒、沈香、真珠を入手しました。
「六回目の航海」。無人島で仲間たちが餓死していく中、最後まで生き残り、宝石や竜涎香を持って島を脱出することに成功します。その後セレンディブ島の王に気に入られ、更に立派な贈り物をたくさん貰って帰還しました。
「七回目の航海」。これが最後の航海です。帰路で賊に襲われて売り飛ばされ、象狩りをしている主人のもとで奴隷として働く羽目になりましたが、最終的には象牙を貰ったりして大金を得ました。
どのお話も好きですが、特に好きなのは「五回目の航海」でしょうか。人間に寄生する海坊主は結構好きなキャラクターです。
『アラディン―魔法のランプ―』
ディズニーの『アラジン』とはほとんど別物です。放蕩息子のアラディンはかなりどうしようもないダメ人間で、お母さんに迷惑をかけてばかり。が、まあ、お馬鹿なだけで悪人ではありません。何だかんだ親孝行もしていますし。
アラディンがランプを取りに行く途中にある、宝石のなる木の描写が好きです。ダイヤ、ルビー、エメラルド、サファイア。木ごとに、異なる種類の宝石がたわわに実っています。素敵。
ランプの魔物を従えてから、アラディンとお母さんの貧乏暮らしは一変します。
魔物に直接金を出してもらうのではなく、出してもらった品を売って生計を立てるのが面白いポイントだと思います。ここら辺の人たちは本当に商売大好きですね。
アラディン自身も、商売をする中で知識や礼儀を身に着け、人間として少し成長しました。
そして一目惚れしたバドロルブドル姫を手に入れる際には、惜しみなくランプの力を使いまくります。姫と婚約者を別れさせたり、大量の奴隷や宝石類を出したり、豪奢な婿入り行列を整えたり、果てには金銀や宝石をふんだんに使った、これ以上ないほど華美な宮殿を一夜にして建ててしまったり。ランプの魔物は働き通しです。
若干、姫を「金で買った」感は否めませんが、ラストでは二人共幸せそうで、お母さんや皇帝も幸せそうなので一応ハッピーエンドと言って良いでしょう。ほとんど魔物のおかげじゃん!という気もしますが、まあ、アラディン本人も立派な人間になるために色々と努力はしていたと思うので、素直に祝福してあげましょうか。
魔物が与えてくれたこの借り物の富が、いつか消え失せてしまったら、と想像するとかなり怖いですが。
ちなみに私は、ディズニーのアニメ版も好きですが、実写映画版も好きです。ウィル・スミスのジーニーは良かった。
『ペルシア王と海の王女』
ペルシア王が商人から買い取って妃にした美人奴隷は、実は海の王国の王女でした。
彼女の名前はグルナーレ(海のバラ)。母と兄と共に暮らしていましたが、ある日兄と口論になって家出した際に、地上の人間に捕まってしまったのです。
初めはペルシア王に対して冷淡な態度を取っていたグルナーレですが、彼に心を開いてからは偽らずに自身の出自について語り、母や兄のサーレハ王を地上に呼び寄せて、夫に紹介します。
海の国の民というと人魚を想像してしまいがちですが、彼らの見た目はごく普通の人間で、地上を歩くように海底を歩くことができます。
水陸のどちらでも生きられるというのは羨ましい。
このお話は次の話に繋がるプロローグのようなものなので、少し短めです。
穏やかで優しいペルシア王と、気丈ながらも慎み深いグルナーレは良い夫婦でした。素敵。
『ベーデル王とジャウワーラ姫』
前話の二人の息子・ベーデル王が主人公です。
彼は美しく賢く、王として申し分のない立派な人物なのですが、恋愛、というか結婚話が持ち上がった際に問題が生じてしまい、その結果ひどい苦労をすることになりました。
彼が恋したのは、海の王国の姫で超絶美人のジャウワーラ姫。グルナーレからも認められるほどの美貌の持ち主で、サーレハとは別の海王の娘です。ただ、この海王も娘のジャウワーラ姫も少し傲慢なところがあり、ベーデル王との結婚を断ったために争いが勃発してしまいます。そして、べーデルは恋い慕ったジャウワーラ姫その人に呪われて、鳥に変えられてしまいました。
その後のべーデルは、親切な別の国の王に助けられたり、残酷な魔女のラーベ女王と対決したり、様々な冒険をすることになります。
そして最終的には元通りの姿で家族と再会し、ジャウワーラ姫やその父王とも和解した後、念願叶ってようやく姫を妻として迎えることができました。めでたしめでたしです。
ラーベ女王が出てくる場面は読んでいて特にワクワクしますね。緊迫感があって。
鬼神を従えるアブダーラ老人が格好良い。
それから、前の国でベーデル王を鳥から人間に戻してくれた魔法使いの王妃も好きなキャラクターです。ラーベ女王とは違い、善き魔女でした。ラーベ女王の悪辣さもあれはあれで好きですが。
以上、全部で四作品でした。
相変わらず金銀財宝の描写がすさまじい。大陸国家には随分お金があるようです。
中東の文化や慣習がうっすらと学べるのも良いですね。
難しい言葉がないので、本当に子供向きだと思います。でも大人が読んでも十分に面白い。
良い作品です。
それでは今日はこの辺で。
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