【再読】 ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』上・中・下 越前敏弥訳 角川文庫
本日はこちらの作品を再読しました。
トム・ハンクス主演の映画版も鑑賞済みです。DVDも持っています。
小説版はこの一作しか読んでいませんが、映画は『天使と悪魔』『インフェルノ』まで観ました。
こちらの小説内では、ラングドンの回想でヴィットリアという女性が何度か出てきますが、これは『天使と悪魔』のヒロインです。映画版とは異なり、原作では『天使と悪魔』がラングドンシリーズの第一作目で、こちらは二作目になります。
それでは早速、内容について書いていきたいと思います。
以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。
主人公のラングドンは宗教分野を専門とする大学教授です。細かくは宗教象徴学専門で、その道の権威と言っても過言ではありません。宗教の歴史や象徴に関しては勿論のこと、それ以外の知識も非常に豊富で、頭の回転も早い人物です。
ハーヴァード大学で教鞭を執っているだけあり、自身の専門分野になるとかなり多弁になります。学生や囚人たちに講義をする場面の回想ではラングドンがあまりにも生き生きとしているので、読むといつも笑ってしまいます。話上手、教え上手の良い先生です。
閉所恐怖症で、ミッキーの腕時計を愛用しています。
今作ヒロインのソフィー・ヌヴーはフランス司法警察の暗号解読官で、若く美しく賢い女性です。初登場直後の電話のシーンで、早くもその頭の良さが強調されていました。宗教に関する知識はラングドンに劣りますが、機転が利き、行動力があるため、若干頭でっかちなラングドンの相棒としては理想の人物です。
この物語では、二人がルーヴル美術館で発見された館長の死体の謎を追っていくうちに、カトリック教会が守る秘密と陰謀に巻き込まれていきます。
謎解きと聖杯探索がメインです。
原作も映画版もストーリーは同じですが、こちらの方がより蘊蓄が多く、宗教象徴学という点に重きが置かれているように思います。地の文による解説も多めです。
また、ラングドンたちの他、教会関係者、フランス司法警察などの複数の視点から物語が展開されていき、映画版よりも脇役の動きが目立つ作りになっています。
シラスなんてほとんど「もう一人の主人公」状態です。悲惨な過去から宗教に目覚めるまでの過程が丁寧に描かれているため、より感情移入して読むことができます。冷酷な暗殺者ですが信仰や愛自体は本物だったことがよく分かるので、毎回、最期のシーンには思わずうるっと来てしまいます。彼の死に方は原作のほうがまだ救いがありました。
主人公たちが辿る道のりはほぼ映画版と同様です。ルーヴル美術館からスイス銀行貸金庫、ティービングの邸宅、飛行機、ロンドンテンプル教会、ウェストミンスター寺院、ロスリン礼拝堂。ちなみに、上巻はほぼルーヴルの中だけで終わります。中巻終盤でティービングの家から脱出し、下巻でロンドン、という流れです。
映画の方ではキングズ・カレッジには立ち寄らないので、司書のパメラが出て来ないというのだけが少し残念な部分です。良いキャラだと思うのですが。
この物語の重要なポイントは以下。
「聖杯」とは物ではなくある人物の隠語です。その正体はイエスの弟子の一人・マグダラのマリア。そして教会が隠したい秘密とは、彼女とイエス・キリストの間には子孫が存在する、という事実です。男権主義のカトリック教会は神の子であるキリストの神聖さを保ちたいということもあって、彼に子供がいたという事実を公表したくありません。しかしカトリック内の秘密結社・シオン修道会はそれに反対。彼らシオン修道会は、男女同権のためにも真実を公表し、娼婦と貶められたマグダラのマリアがキリストの妻であったことを世に知らしめたい、と考えています。
カトリック教会→秘密を守りたい
シオン修道会→秘密を世に出したい
という構図の、長年に渡る教会の内部抗争がこの物語の中心的なテーマとなっています。
アリンガローサ司教やシラスの所属するオプス・デイは教会側ですね。禁欲と苦行を尊び、男尊女卑の気風が強いガチガチの保守派です。実在するオプス・デイが本当にそういった組織なのかは不明ですが。
とは言え、作中では教会とシオン修道会の対立はあまり描かれません。殺されたルーヴルの館長はシオン修道会の総長でしたが、その殺害をシラスに指示したのは教会外部の人間です。
サー・リー・ティービング。主人公の友人であり、聖杯探索に異様な情熱を注ぐ人物。彼が殺人事件の元凶で、物語の黒幕です。
シオン修道会は(というより総長であったソニエールが)最終的に秘密を世に出さないことに決めていたのですが、それが気に食わなかった聖杯マニアのティービングが暴走し、物事を引っ掻き回していました。教会の味方でもなければシオン修道会の味方でもなく、ただ自分の好奇心を満たすためだけに行動していた厄介な人物です。聖杯(マグダラのマリアの墓)を見つけるためなら殺人も辞さないという危険人物。
ただ、キャラクターとしては非常に魅力的です。茶目っ気のあるイギリス人の老紳士で、下品な物言いも多いですが、そこがまた良い味を出しています。黒幕だと分かっていても、中巻の半ば辺りで彼が仲間になってくれるといつも嬉しくなります。ティービングとラングドンのテンポの良い掛け合いは結構好きです。
ちなみに、一番好きなキャラクターはアリンガローサ司教です。野心で道を間違えはしたものの、私欲からではなく信仰に熱心だっただけで、宗教家としては立派な人物でした。教会の堕落を嘆き、保守的な信仰を取り戻したいと願っていましたが、結局はティービングに振り回されるだけ振り回されて終わりました。
最後のファーシュ警部との会話は、作中でも好きなシーンの一つです。
それからチューリッヒ銀行パリ支店長のヴェルネも好きです。仕事熱心な良い人でした。
作品としては暗号解読と用語解説のパートが多いので、そういった要素が好きな人に向いていると思います。キリスト教の知識も、まあ少しはあった方が楽しめるでしょう。解説は充実してはいるものの、「キリストって誰?」という人が読むには少々難易度の高い作品です。
エンタメ性を求めるのであれば、まずは映画から入ってみるのがおすすめです。
原作・映画共に一時はかなり話題になった作品なので、興味のある方は是非。
それでは今日はこの辺で。