【再読】 湊かなえ『告白』 双葉文庫
本日はこちらの作品を再読しました。
幼い娘を殺された中学校教師・森口が、犯人である生徒二人に復讐するお話です。第一章は森口による「告白」の内容、第二章以降はその後の犯人たちの様子について、複数の視点から描かれています。
映画版も視聴済みです。というか、そちらから入りました。森口役の松たか子さんの怪演が素晴らしいです。あと美月役の橋本愛さんが滅茶苦茶可愛い。垢抜けていない、陰のある美少女です。
それでは、読んだ感想について。
以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。
第一章「聖職者」の完成度は非常に高く、何度読んでも圧倒されます。森口の淡々とした語りが印象的です。冷静ではあるものの、娘を殺された母親としての少年A・Bに対する憎悪が隠しきれていません。
彼女がとった行動は教師としても人としてもアウトな行いではありますが、復讐としては妥当なものだったと思います。そもそも、実際には牛乳に血液は入っていなかったようですし。
殺人犯二人の性格分析はお見事でした。「熱血ではないけれど、生徒一人一人をきちんと評価してくれる」と言われていただけあって、教え子のことをよく見ています。良い先生だったのでしょう。
生徒を名字で呼び、一定の距離感を保っているところには好感が持てます。
第二章「殉教者」。委員長の美月の視点です。
森口の後任としてやって来た空気を読めない新担任、熱血教師のウェルテルが輝いています。悪意なく周囲の人間を傷つけるタイプの、教師としてはかなり厄介な人物です。そういえば私の中学校時代にもこういう教師がいました。やはり若い男性でしたね。
この章の語り手である美月は一見まともですが、実は殺人犯「ルナシー」にかぶれる危険人物です。第五章であっさりと殺されました。
第三章「慈愛者」。少年Bの母親の日記、という形式で書かれています。
この母親、所謂モンスターペアレントというやつです。子供思いなのは良いことですが、あまりに盲目的です。自分の息子が殺人に関わっているという事実から目を背け、出来事を都合の良いように解釈し、罪は全て他人に押し付ける、はっきり言って異常者です。全部少年Aが悪い、うちの子は騙されただけ、いやそもそも学校に娘を連れて来た森口が悪い、と責任転嫁ばかり。果てには事件そのものが森口の作り話なのではと疑い始め、全部森口が悪いのだと思うようになります。あの女のせいで直樹が傷付いている、あの女が憎い、と日記の中ではそればかり繰り返しています。
育ちの良い女性のはずですが、どこか歪んでいます。
それでも、息子からの告白を受けた後には、息子を殺して自分も死のう、と決意するあたり、倫理観と母親としての責任感は人一倍あるようです。殺人者として開き直った直樹はもう私の愛した息子ではない、だから責任をとって一緒に死ぬ、という考えはある意味真っ当なものでしょう。人殺しの息子ですら全肯定するような、救い難い愚かな母親ではありませんでした。
返り討ちにあって殺されましたが。
この母親、若干暴走気味ではありますが、人の親としてはそう悪い人物でもないと思います。心を痛めながらも、そっと息子を見守り続ける様子はなかなかに健気でした。
思い込みが強く、人としては面倒臭いタイプではあるものの、根底に家族への強い愛情があるため、私はあまり嫌いではありません。
第四章「求道者」。少年Bの視点です。
故意に殺人を犯したというのに、それがバレるまでは罪悪感を感じることもなく、むしろ自分の大それた行いに得意になっていた、というのがすごいですね。ちょっと理解できない神経です。
森口の「告白」後、家に引きこもるようになってからだんだんと狂い始め、最終的に母親を刺し殺してしまいました。現在は精神喪失状態で病院にいるようです。
母親の「失敗した」という言葉は、育て方を間違えてしまった、という意味だったのでしょうが、直樹は自分が「失敗作」だと言われたように感じてしまったようです。あの一言がなければ、母親と一緒に死ぬことができたのでしょう。その方が本人にとっては幸せだったように思います。
第五章「信奉者」。少年Aの視点です。
彼は賢い少年ですが、自分を捨てた優秀な母親に囚われ続けています。
何となく、居場所の無い、孤独な、可哀想な子という印象を受けました。
自己愛が強く、傲慢で、倫理観の欠如した最低な性格をしていますが、決して心無いサイコパスではありません。寂しい子です。
察するに、昔はここまで邪悪ではなく、単なるひねくれ者だっただけなのでしょう。回想では、馬鹿な人間に生きる価値はない、と頭の悪い父や継母を見下していたものの、一緒に過ごすうちに絆されていき、馬鹿な家族の一員になるのも悪くないなと思うようになったりと、可愛いところもあります。
継母の出産を機に邪魔者扱いされるようになったのが、彼が歪む大きな原因になってしまったのでしょう。家族から二度も見捨てられた、という思いがあるのかもしれません。
馬鹿だ馬鹿だと周囲の人間を見下してはいるものの、結局のところは同年代の他の子よりも少し賢いだけの、大人ぶった馬鹿な子供でした。
第六章「伝道者」。電話越しに少年Aに語りかける森口。私の脳内では松たか子さんの声で再生されました。
文章を追っているだけで、森口の淡々とした口調の奥の、復讐者の仄暗い愉悦をはっきりと感じ取ることができます。
森口の復讐の方法は、陰湿の一言に尽きます。
手口があまりにエグいので一周回って爽快さすら感じます。最高の復讐ですね。
★ ★ ★
せっかくなので、映画の方も再鑑賞してみました。
映画は人物よりも、雰囲気を重視した作りになっているように感じます。
薄暗い画面と小洒落た音楽の組み合わせが独特の味を出しています。
ウェルテルは動きがつくと道化っぷりが増します。岡田将生さんの演技が良い感じに暑苦しいです。
それから、こちらは少年Bである直樹の内面の掘り下げが少ないので、これだけ見るとただの馬鹿でメンタルの弱いクズです。子役の方の鬼気迫る演技も相まって、情緒の不安定さが前面に出てきています。一応、気弱で心優しい側面もあるはずなのですが。もう少し母親との描写が欲しかったところです。
そしてこのクラス、本当に嫌な感じですね。女子も男子も、ろくな子がいません。
松たか子さんは相変わらず格好良かったです。ラストの表情と「なーんてね」の言い方が最高でした。
以上です。
それでは、今日はこの辺で。