【花・植物イラスト】文人華『吉報君友(きっぽうくんゆう)』
お正月の晴れやかな雰囲気の中にあると、これからが一年のうちで最も寒い時期になっていくということを忘れるような、華やいだ気分になります。
わたしの実家は寺なのですが、お正月は普段にも増して来客が多くなります。訪ねてきてくださる方々の中には、久しぶりにお会いする方もあり、近況をお聞かせいただくと色々な変化があって、月日の流れをしみじみ実感するのですが、喜ばしいご報告などがあると、とても嬉しい気持ちになります。お福分けいただいてありがとうございますの気持ちを込めて、生け花のイラストを描きました。
この絵は『吉報君友(きっぽうくんゆう)』という文人華(ぶんじんか)を描いています。
文人華というのは、わたしの属している華道の流派、嵯峨御流のお花の生け方の一つです。中国の南宋画(山水画)や文人画、詩文に表された故事や寓話などを題材にしたり、植物の異名を合わせたりして、シンプルでありながら、上品で趣きのある生け方をします。
文人華は数多くあるのですが、その中で今回選んで描いた『吉報君友』は、蘇軾(そしょく)という詩人の「贈劉景文(りゅうけいぶんに贈る)」という詩の一文から題をとっています。
この題の「吉報」は良い便りが届けられることで、「吉(きつ)」を柑橘系の「橘(きつ)」に通じさせ、柑橘を「君友(くんゆう)」、すなわち尊い友に贈答し、吉祥を味わってもらうという意味が込められています。ちなみに、蘭の異名は君子といいます。
イラストには、大きな獅子柚子とネーブルオレンジ、金柑、青みの残る蜜柑とレモンを、小振りなサイズの胡蝶蘭と合わせました。爽やかなシトラスの香りを感じていただけたら、うれしいです。
<『贈劉景文』より一部抜粋>
一年好景君須記
最是橙黄橘緑時
(読み)
一年の好景(こうけい) 君に須(す)べからく記(き)すべし
最も是(こ)れ橙(とう)は黄(こう)に橘(きつ)は緑なる時
(意味)
一年の内の良い眺めを、あなたには是非とも覚えておいて欲しい。
何より柚は黄色く、蜜柑はまだみどりの、この時を
※参考文献:文人華 寓意の花(嵯峨御流華道総司所)
illustration by naggy
