『木の都』
織田作之助といえば、『夫婦善哉』の作者として有名ですが、彼の小説の中で、
わたしは『木の都』という作品が好きです。
『大阪は木のない都だといわれているが、しかし私の幼時の記憶は不思議に
木と結びついている。』という文章から、この小説は始まります。
戦前から大阪は緑が少ないと言われていたのかと、驚きました。
作品中に「夕陽丘」という地名が登場します。大阪の上町台地という高台の
西側の地域のことをさし、高台から西を臨むと大阪湾に沈む夕日が見えたことが
由来のようで、今も町の名前になっています。
この辺りには、口縄坂や愛染坂、源聖寺坂など、「天王寺七坂」と呼ばれる坂が
あります。界隈にはお寺や神社が多くあるためか、実際に行ってみると、
大阪の中でも比較的、木々の緑が多いように感じられます。
坂の上の高台から、白壁の塀に囲まれたお寺の境内のクスノキや、マキや
カイヅカイブキといった木々が、少しずつ明かりの灯り始めた大阪の下町の
家々とともに、夕日に照らされる光景をイメージして描きました。
illustration by naggy