フランス南東部のアルプス山中に墜落したドイツの格安航空会社のエアバスA320機で、機長がコックピットを離れた際に、診断書で療養を促されていたことを隠し乗務していた可能性が高い副操縦士が機体を急降下させ事故が起きた可能性が強まっている。国土交通省は今後の対応に向け情報収集を始めたが、実務面での課題もあり、日本の航空会社で操縦室内での常時2人体制の確保が義務付けられるかは不透明だ。
国交省によると、航空法に基づく規則では、機長または副操縦士がトイレなどのため離席する場合のルールを各航空会社が定めるよう求めているが、常に操縦室内に2人が居残るようにするかについての対応は各社で分かれている。
スカイマークは、操縦室内にパイロットが1人だけになることを可能な限り避ける対応をしている。国交省によると平成22年、操縦室でパイロットが客室乗務員と記念撮影し問題となったことがきっかけという。
日航や全日空はこの点についてのルールは特にない。AIRDO(エア・ドゥ)担当者は「長距離路線がなくパイロットが操縦室を出ることはあまりない」と話した。万が一に備え、残ったパイロットが酸素マスクを装着することを義務化している会社も多い。「残った1人は必ず酸素マスクを付けている」と日航広報担当者は話す。
日本では11年7月の全日空機の上空でのハイジャック事件を契機に、世界に先駆け、それまで機長裁量で一般の乗客にも運航中に見学で許可していた操縦室への立ち入りを規制する動きが取られた。
13年9月の米中枢同時テロ対策の一環として、操縦室のドアが外側から開かない構造にするなど安全対策を強化。パイロットが再入室する際は、操縦室内のパイロットが中から操作して鍵を開けるようになった。
今回の事故を受け、海外では常時2人体制を確保する動きがある。元日本航空機長で航空評論家の小林宏之氏によると、米国の航空会社は米中枢同時テロ以降、操縦室内の常時2人体制の運用をしているという。「機長らがトイレに立つ際は客室乗務員を入れて対応している」と話す。
しかし、国交省の担当者は「客室乗務員が訓練を十分受けないと余計に混乱を招きかねない」と指摘。航空会社からは「客室乗務員が操縦室に入ったからといって、どれだけ安全面で機能するか不明」(大手航空幹部)といった声もある。今後について、国交省幹部は「何らかの対応が必要かどうか検討するため情報収集をしている」と話した。
一方、パイロットの健康管理については、問診を伴う国の検査が年1回あるほか、航空会社も独自に年1回実施。精神面を含め体調に少しでも問題があると乗務できなくなるため、「各パイロットとも相当気を使っている」(日航広報担当者)という。昭和57年の日航機の羽田沖墜落事故で、機長がその後精神疾患だったと判明したことから、パイロットの心身両面の検査が厳格化されている。